第二十章 ボス



「ここから、ボスの空間に入るから、気をつけてね……!」


ピリッとした表情でこちらに注意を促す。俺達はうんうんと頷いてタナカさんに従う。タナカさんは本当に頼もしい。タナカさんがいなければ、どこがボスの部屋なのかもわからず、闇雲に魔物と戦い、今頃ボロボロになっていただろう。


ボスの空間、などと言っていたが、ワンフロア全部がボスの部屋らしい。長い廊下全てにレッドカーペットが敷いてあり、脇にはなにやら紫色の花が蠢いている。なんとも薄気味悪い。そんな廊下を抜けると小さなドアが3つ、真ん中に大きなゲートがあった。


「この真ん中のゲートを抜けると、ボスがいるはず」

「いよいよご対面、てわけか……」

「でもおかしいな……前に来た時はこのゲートの前に門番役の魔物が2匹いたんだけど……」


首を傾げながら考え込む。


「うーん、まあいないのが幸い、かな?」

とりあえず中に入ろうか。


……


そう言いかけたタナカさんの顔が徐々に醜いものに変わっていくのを俺達はみた。

タナカさんの後ろから激しく襲いかかる番犬。俺達がフィールドで出会ったものとは遥かに体型が違う。いや、体形か?いやそんなことはどうでもいい。タナカさんはその場にばたりと倒れ、もう言葉を発することはなかった。

そんなことを気にする暇もなく、タナカさんを襲った番犬ともう1匹の番犬が後ろから攻めてきた。


必死のピッチだ。 俺は素早く1匹の番犬に剣を刺しこみ、蹴りをいれた。姫とオカンはもう1匹の番犬に会心の一撃を食らわし、師長は攻撃魔法を唱えた。

なんとか番犬達をやっつけた。


「タナカさん……」


アスカが回復魔法を唱えたり、聖水をかけたりしてみるが、ピクリとも動かない。


「やめろ、MPの無駄遣いだ」

「そんなっ!」


俺だってそんなこと言いたくない。でももうタナカさんはうごかないんだ。最後まで頼りっぱなしだった俺は酷い罪悪感をおぼえた。


「タナカさんの仇を取るぞ」


この時の俺の目は血走っていたかもしれない。


「当たり前じゃない」


ぎゅっと靴紐を縛り直す姫。



「やってやりましょう」


いつもより一層険しい顔をした師長。



「息の根を止めるまで」


涙で頬を濡らしたアスカ。



「これからが本番や」


目をカッと見開くオカン。




俺達は意を決してゲートを開けた。


***



ゲートを開けてから、またそこからが長かった。

何がというと、何十扉だ、というほどに、開けてもドア、開けてもドアなのだ。ドアを開けるのは簡単だったが、開けて通って開けてという動作がとても面倒だった。あと何個ドアがあるのかと何十回目かのドアを空けると、長いレッドカーペットが敷いてある先に七色に輝く魔物の姿。


「うそ。まさか」

「ボスって、七色鳥のこと!?」


そんな七色に輝く魔物はレッドカーペット先の大きなソファに腰をかけ、俺達の様子を窺っていた。そして、「よく来たな」と声を上げた。


「(喋った……!)」


一同ヒソヒソと声を上げる。

まさか言葉を発するとは思わなかった。


「お前、勇者だな。ワシを倒しに来たのか」


レッドカーペット先まで行くとまた話しかけられた。


「ははは。倒したいなら倒せ」


そう言うや否や七色鳥はこちら目がけてヤリを投げてきた。俺は素早く交わす。

これが戦闘開始の合図か。

俺は天高く剣を振りかざした。


***


手強い。

みんなの疲労が見えてきた。やつは魔法を駆使してくる。しかもMPが全く減っている気配がない。

俺の剣をさらりと躱し、催眠魔法と錯覚魔法で俺達を巧妙に操る。まるで人形のように。

ちゃんと練ってきた作戦もAからFまで水の泡だった。

さすがボスというだけあった。既にオカンと師長が力尽きていた。


「急所を狙え!」


姫が叫ぶ。

急所……どこだ。こいつの急所は……。

姫が蹴りを入れて羽をもぎ取る。


ークエエエエエエエエエエ!!!


七色鳥が叫んだ。そこか!

弾かれたように体が動く。慣れた手つきで羽毛を捌く。


ークエエエエエエエエエエァァァ!!


そして姫が会心の一撃!!

七色鳥はひたすらに声を上げながら羽をバサバサ落とし、醜い姿になってその場にバタりと倒れた。


「……勝った」

「……本当か……」


!?


その瞬間、城が唸った。

物凄い轟音を立てて城が崩れてゆく。


「危ない!」


咄嗟に姫の頭を抱えた。


「ちょっ……!」


城は物凄い勢いで崩れてゆく。


「うわあああ!!!!!!!」


だんだんと意識は遠のいていった。





***






目を覚ましたのは、勇者の城だった。

姫もアスカも無事だ。オカンも師長も生き返っていた。

お互いの顔を見て、ははっと笑う。そしてみんな揃って王の元へ行った。

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