第21話 幼なじみの実力
「ちょっ、これ全部ボツってどういうこと!?」
翌朝の教室、美優が騒々しい声で俺に言った。
前日の夜、俺は美優に渡された原稿用紙に『全部ボツ』と書いたのだ。
「これ、ちゃんと全部読んだ?」
「全部読んだ上で書いた。つーか、設定の時点でアウトだ」
俺は登場人物が俺と美優であることを真っ先に指摘した。そして次に俺を出すならモブキャラに変更するよう言った。
「え~? それはやだなぁ。だったら誰をメインにすればいいの?」
「架空の人物を作ればいい。お前の好きな理想の男をイメージして……」
「その好きな理想の男が雄輝なんだよ」
なんでぇ? 疑問符しか浮かばない。
「俺のどこが理想なんだ。普通はイケメンで優しいとかさ、そういうの思い浮かべるだろ」
「私、イケメンにはあんまり興味ないんだよね。見た目が良くても中身が腐ってる場合もあるじゃん」
結構辛辣だな。まあそういう奴もいるだろうけど。……なんか話がずれてる気がする。
「とりあえず、あの僕っ娘のやつを推敲したらどうだ。高木先輩だって内容自体は悪くないって言ってたろ」
「でも良いとは言ってないじゃん」
それはそうだが……。
「それに、あれ主人公男子だから正直書きにくいんだよね。ラブコメって基本的に主人公男子だからそれに
確かに女子なら女主人公の方が書きやすいわな。心理描写は特に。
「そうだ! 僕っ娘を主人公にして相手を男のこにしたら面白くなりそう。あ、男のこの『こ』は『娘』の方ね」
マジで言ってんのか? 僕っ娘と男の娘のラブコメなんて聞いたことねぇぞ。
どうやら美優は設定に凝る性格らしい。ただこれは凝りすぎだ。
「美優、考え直せ。お前その設定で話書けんのか?」
「頑張れば書けると思う。先輩たちがオッケーしてくれるかどうかは分かんないけど」
多分厳しいだろうな。テンプレ通りに書くよりはインパクトを与えられると思うが……。
それから二日後、美優は眠そうに目を擦りながら原稿用紙を俺に渡して来た。
「もしかして書けたのか」
「書けたから渡したんだよ。だからちょっとチェックしてくれない? 急いで書いたから誤字脱字多いかもだけど」
原稿を読んでみると、美優の言う通り誤字脱字は多かったが、それ以上に、話の内容が俺の予想を見事に裏切った。
主人公はなんと男の娘の方で、女装して女子校に忍び込むという、どこかのエロゲーにありそうな設定だった。実際にエロゲーやったことないけど、めっちゃハーレムじゃねーか。
ヒロインだけは主人公が男子だと知っていて、正体がバレそうになったところでフォローに入るのだが、登場回数が少ない。もっと出してやれよ。
「美優、男主人公は書きにくいんじゃなかったのか」
「書きにくいけど、ヒロインも一人称『僕』だからさ、負担はあんまり変わんない」
だったら普通のラブコメで良くね?
「これ、『めざそう』で一回出して見よっかな。男子には受けそう」
それはいいかもしれない。自分ではいいと思っていても、いざ投稿したら読まれないことはざらにある。逆も
ちなみに、『めざそう』は老舗の小説投稿サイトで正式名称は『小説家を目指そう』。俺もユーザー登録はしているが、専ら読み専なので書いたことは一度もない。
「あ、タイトル決めるの忘れてた。どういうのがいいかな」
「適当でいいだろ。『男の娘が女装して女子校に忍び込みました』とか」
「そのまんまじゃん。もう少し斬新というか、読者の興味を引くタイトルにしないと」
興味を引けばいいってもんでもないと思うが……。そして最終的に決まったタイトルは、
『ドキドキ女子校パラダイス! みんな肉食系すぎて僕の貞操が危ないです』
エロゲーのタイトルでありそうだな。くどいようだが俺はエロゲーをやったことはない。
「美優、これ部誌で出す気か?」
「反応が良ければ」
「いや、反応が良くても内容がアレじゃん。部誌は女子も読むんだぞ? そこも配慮しないと」
「んー……まあそうだよね。やっぱ万人向けじゃないとダメか」
美優はそう言って席に座り、腕を組んでうーんと唸った。テストまであと四日しかないのに大丈夫かよ。
その日の夜、俺はめざそうにログインして作品のタイトルを入力してみた。おっ、早速ブクマついてる。なかなかやるな。しかしユーザーネームが『関美優』って……。あいつ完全に俺狙ってんな。まあそれはそれとして。
「これは出せんな」
正直、美優の書いた作品は性描写が多く、とてもではないが部誌では出せない。やはりテンプレが無難か。
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