advent.05

「あーあ、ヒマだなぁ。早くカズト来てくれないかなー」

 ステンドグラスで彩られたその隙間から灰色の空を映す大きすぎる窓の下で一人の少女がぼやいていた。

 ガラス越しの厚い雲とそれなりにマッチしている様々な色のガラスを眺めるその表情は憂鬱、ではなく僅かに眉根を寄せて頬杖をついている――強いて言うならば退屈の色だろう。


 彼女は一国の姫だ。しかし彼女が今いる大広間の階段は彼女の住まうそれではない。……彼女が言うには自分の城よりも退屈しない非日常の舞台、だそうだ。

 独りごちた彼女の元へこの城の本当の家主が現れ、溜め息をついた。


「お前、今の自分の状況わかっているのか?」

「なんで?」

「なんで……って、お前は今囚われの身なのだぞ、姫君よ!?」

「そんなの知ってるよ! この状況を望んだのは他でもないわたしなんだから!」

 彼女は声を大にしてそう豪語した。

 一国の姫が言う非日常、そう彼女は今まさに目の前に佇む魔王に攫われた、ということになっている。


 ということになっている、とはいちおう建前だ。実のところをかいつまんで説明するならば、姫が魔王に「さらえ」と言い、やむを得ず彼女を連れてきたというわけだ。

 こんなもの彼女の口から王様へ告げたとしてもにわかに信じ難い真実として、魔王への冤罪が強まるだけだ。二度目の溜め息をつく。


「自ら拐われる姫君って……」

「え、何? なんて言った?」

「いいや! なんでもございません! ……はぁ」

 早くも三度の溜め息。最近では頭と胃にキリキリとした痛みを常に抱えているのが悩みになっている。


 そんなことも露知らず、当の本人は見事な高慢っぷりを余す事なく見せつけのろけている。

「全く、カズトったら……浮気してたら許さないんだから! だいたいこんなカワイイ幼なじみが恐ろしい魔王に囚われてるんだから一刻も早く来るべきよねー!」

「……自分から私についてきたのに」

「何か言った?」

「滅相もございません!」

「そうそう、そういえばさっきお菓子なくなっちゃったの。後で追加しといてね?」

 気分も上々に姫はそう告げると、その場から去っていった。

 彼女が自ら拐われた理由、それは勇者であるカズトに助けてもらおうというだけの乙女心と童心を混ぜ合わせたような単純な理由であり、魔王は手に負えないどころかほとほと呆れている。

 そして何より自分の城にいるよりも自由に城の中を駆け巡る彼女はとても楽しそうだった。


「……勇者よ、早く来てくれ」

 誰もいなくなった大きな窓の下で闇の支配者として君臨するはずの男は、らしからぬ発言を零し涙ぐんだ。


 To the next adventure…

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