27  浅葉⑥

 千尋との電話を切った浅葉は、ネクタイをゆるめ、ふと思い出して鞄の外ポケットのファスナーを開けた。


 先日千尋がくれた合鍵をそこから左手で取り出しながら、右手はつい確かめるように左胸に触れていた。胸ポケットの中のリングが、小さいけれど確かに、指先に感じられる。


 左の手首では時計の秒針が、右の掌では妙な熱の奥にある頼りない鼓動が、それぞれ勝手に時を刻む。二つの音が噛み合うことはないとわかっていながら、無駄に耳を澄ました。真実は常に一つだけだと、誰が言ったのだったろうか……。


 浅葉は左手の鍵をぎゅっと握り締めると、キッチンのキャビネットを開け、奥の方へとしまい込んだ。

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