チャプター 4-2

「あら? 石見さんがいない。 さっき職員室で会ったのに……変ね」


 朝のHR。教室に入るなり担任が不思議そうにそう言った。

 石見を中学の頃から知ってるいるが、あいつも真一と負けず劣らず真面目なやつだ。朝は必ず教室にいるし、そう易々とサボるようなやつではない。

 なので、もし石見がサボるとしたら何か特別な事情があると考えていいだろう。


「なぁ、先生。 石見のやつ職員室に何しに行ったんすか?」

「朝から美術室を利用してたみたいで、鍵を返しに来たんだけど」

「へぇー。 朝から、ねぇ」


 真一の席に目をやる。今日は、真一のやつもいない。あの二人が揃っていない。それはただの偶然かもしれない。

 だが、石見は朝から美術室を利用して、姿を消した。明らかに不自然だ。

 真一に電話をかけてみたが、案の定出なかった。真一は律儀な性格で、電話をかければすぐに出るし、メールもちゃんと返す。

 もし出ないとしたら、電源が入っていない。もしくは、マナーモードにしているか、何かに没頭しているか。何れも気付いてない時で、自分の意思で無視する事はない。


「先生ー。 石見のやつ急に気分が悪くなって早退したみたいっす」

「そうなの」

「で、真一は体調不良で休みっす」


 iPhoneを片手に言うと簡単に信じてもらえた。本当は石見の連絡先は知らない。変に探されたりしないようにする為の嘘だ。

 HR終了後、すぐさま委員長の元へ駆け寄る。


「なぁ、委員長。 頼みがある」

「急に、どうしたの?」

「ちょーっと用事が出来たんだ。 だから、テキトーな理由で早退したって言っといてくれ」

「えっ、あの倉井くん……用事って」

「んじゃ、頼んだ!」

「あ、あぁ……行っちゃった」


 そして、すぐに教室を後にした。無論、二人の居場所を探す為だ。

 二人が一緒にいる確証はないが、絵と真一しか頭にないような石見の事だ。サボるとしたら真一が関係しているに決まってる。


「お、二人とも靴はあるのか」


 真っ先に確認したのは下駄箱。理由は簡単だ。靴があればまだ校内にいるかどうか確認出来るからだ。

 次は、念の為に美術室。ここは当然閉まっていて、中には誰もいなかった。まぁ、授業で使うかもしれないからいる訳がないか。

 理由は分からないが、二人は誰の目にもつくわけにはいかず、校内にいないといけない。もしくは、校内にいた方が都合がいい状況にいる。つまり、この学校において人目につかない場所に行けばいい。

 となると候補は……空き教室か。いや、それはないか。去年、とある先輩達が空き教室でwi◯スポーツ大会を開いて以来、見回りが厳しくなったって聞いた事がある。『噂好きの学生』にもまとめられている程、有名な話で、あの時に話題にした。だから、空き教室は避けるだろう。

 じゃあ、定番の体育館裏とか倉庫とか……。あの二人に限ってそれはないな。絶対にあり得ないって言い切れる。そもそも授業で使う。

 なら、もっと別の……人目がつかない場所。絶対に誰も来ない場所。


「ひとつだけ心当たりがあるな」


 屋上前の踊り場。学校において屋上が封鎖されているのは当たり前。故に、ここへ来る人間は滅多にいない。

 けど、ここにはいないだろう。人が滅多に来ないという事は、ここでサボろうとする人間がいてもおかしくない。つまり、見回りが来る。今も生徒指導が確認に行き、何事もなく去っていった。

 なら、何でここに来たのか? それは簡単だ。もし封鎖されて当たり前の場所が封鎖されていないとしたら。

 屋上のドアの取っ手に手をかける。


「ふふん」


 どうやら今日は鞄に入れておいたスニッ◯ーズが役に立ちそうだ。

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