第13話 9日目、カモンとレイラの最終試験

カモンによって付与を受けた剣、それを手にしたレイラは震える体を力を入れて抑えようとする。

緊張しているのもあるが彼女の目の前に立つ男の覇気に押されているのだ。


「どうした、試験はもう始まっているのだぞ」

「はいっ!いきます!」


飛び出すレイラ、振り下ろした剣は軽くかわされるが振り下ろす前に無理矢理横薙ぎに切り替えられた。

だがそれすらも軽く後ろへ身を引くだけで避ける男。

彼こそがこの国最強の上級剣闘士バロウ氏である。

カモンのエンチャントを受けた剣を使用しての試験、これはレイラにとっても城で働けるかの試験でありカモンにとっても城に残れるかの試験でも在った。


「ふむ、剣の重量を無くす付与か?いや、違うな・・・」


そう言って軽く足をトントンッと鳴らして地面を確認する。

容易く避けた筈が一瞬足を滑らした・・・いや滑らされたのだと気付いたのだ。

それでも何事も無かったかのように動いたのはバロウの技術の賜物であろう。


「やぁあああ!!!」


レイラは気合と共に大きく踏み込み突きを放つ!

避けられるのを見越しての真っ直ぐな突き、それを容易く薙ぎ払って切り返そうとしたバロウであったが・・・


「ぬっ?!」


剣と剣が触れる瞬間手が滑り剣がすっぽ抜けそうになる、だが慌てる事無く逆刃を摘んで押し付けるように抑えてレイラの剣と合わせる。


「ぬぅぅ・・・なんとも面妖な・・・だが!」

「くぁっ?!」


押し込まれて切り替えせずにレイラはバランスを崩す、だが直ぐに地面に片手を付いて仕切り直す様に立ち上がろうとするが・・・


「甘い!そして、お前の剣は軽すぎる!」


そう告げながら下から払い上げるような形で振られた剣にレイラの剣は弾かれた。

そして、そのまま振り上げられた剣を真っ直ぐにレイラに向かって振り下ろす!


「残念だがここまでだ!」

「っ?!」


そのままレイラの肩を切りつけた剣は左腕の半分を切り裂いた。

吹き出る血、驚きが勝っているのか痛みが届くのが遅れているのか呆然と自分の左腕から流れ出る血を見ながら固まるレイラ。

それは失格の印であった、この世界にあるポーションは傷を癒す事が出来るが切断された筋線維や骨は繋がるだけである。

その為、この試験で失格を受けた者は二度と剣を握れなくなるのだ。


「レイラさん!」


カモンの叫びと共に我を取り戻したのか、レイラは突然襲ってきた痛みに苦悶し蹲る。

出血を少しでも減らす為に傷口を押さえているのだが止め処なく流れ出る血は納まらない。

バロウは試験は終了とばかりにその場を去り始めカオルも何も言わずにその後を付いて行く・・・

それはレイラと共にカモンも失格だと告げられたと言う事でもあった。

一応最悪に備えてカオルからポーションを預かっていたのでそれを握り締めてレイラの元へ走る。


「レイラさんしっかり!今治しますから」

「ぁぁ・・・」


レイラの目は虚ろであった、出血のせいかと一瞬思ったがそうではない・・・

レイラにとってこの試験は最後のチャンスでも在ったのだ。

城下町で城に近い一等地に暮らす彼女の一家はかなりの借金があった。

それを返済しながら生活を続ける為に彼女は城の兵士に志願していたのだ。

だがそれも夢に終わった、両親と体の弱い弟を養う為に頑張ってきた日々が全て無駄になったのだ。

レイラ自身も理解している、自分の左腕はもうまともに動かない。

料理なんかは出来るかもしれないが剣を握る事は不可能なのだ。

虚ろな表情のままのレイラに近寄ったカモンは傷口に向かって手を伸ばして唱えた。


「練成!」


放心していたレイラは気付かない、ポーションを振りかけて治すではなく切られた部分に錬金術を使用された事を・・・

カモンはポーションを練成しようと様々な面から研究していたので知っていたのだ。

傷口に振り掛ければ傷は塞がる、切断面に使用すれば傷が塞がる、つまり内部を結合する効果は無いと言う事を!

そこでカオルが自分にこのポーションを渡したのは自分への最終試験なのだと勝手に勘違いしたのだ。

カオルはカモンに一番大事な事を伝えていなかった・・・

そう・・・錬金術での人体練成は過去の錬金術師で成功した者は居らず、予期せぬ大失敗を招くと言う事を・・・


「少しじっとしていて下さいね」

「・・・」


虚ろなままのレイラはカモンが何をしているのか、何を言っているのか理解せずに小さく首を縦に振る・・・

自暴自棄になっていたからこそ気付かない、カモンが錬金術を使用したその瞬間から痛みが無い事に・・・


(先ずは痛覚を麻痺させて骨を結合、次に血管と神経を繋いでいく・・・綺麗に切断されているから並んでいる順にくっ付けるだけだ!)


外科手術で切断した腕を接続するにはとんでもない技術が必要である、だがそんな事を知らないカモンは気にせずにそれを行なっていく・・・

錬金術、それが童話の中の魔法と同じ様に想像した通りの変化を起こさせる事が出来る特別なモノ。

そう信じているからこそカモンは自分がどれ程とんでもない事を行なっているのか気付かない。


(周囲の血も出来るだけ粒子に戻して血管内に入れてから元に戻す。んで最後に痛覚の麻痺を解除してポーションを・・・)

「いつっ?!」

「あっごめんなさい」


突然感じた痛みにレイラは声を上げる、だがその時には腕は元通りになっていた。

驚くべきは接合の方法であろう、縫うでもなく細胞同士を寸分の狂い無く結合して繋いでいるので後遺症は一切無い。

むしろ筋肉痛の様に結合部が微妙に強化されはじめている痛みが発生していたのだ。

だがレイラはそれはポーションで見た目が治っただけの後遺症なのだと勘違いしていた。

まさか錬金術で世界初の人体練成に成功した上に元通りに治っているなんて想像もしていないのだから。


「レイラさん・・・本当にすみませんでした」

「いえ・・・私の実力不足が原因ですので・・・」


そう言ってフラフラと立ち上がりレイラは転がる愛剣を右手で拾う。

もう二度と剣を両手で握れないと理解しているが家宝の剣なのだ。

鞘に収めて呆然としたまま彼女はカモンに何も告げずにフラフラと外へと出て行く・・・

家族の期待に答えられずこれからの事を考えると絶望しか彼女には無いから仕方あるまい。

そして、1人残されたカモンは溜め息を一つ吐いて自室へ向かって戻っていく・・・


その頃丁度、カオルの口からカイオーン王へカモンは不合格の報告が行なわれているのであった。

誰も気付かない、カモンの実力に・・・

誰も気付かない、レイラの剣の秘密に・・・


彼女の持つ剣の付与『運命選択』、それは望んだ結果を自由に選択できるエンチャント。

彼女の願いが『両親と体の弱い弟を養う』と言う事・・・

その願いを叶える為に剣がこの運命を選択させていると言う事実に・・・

バロウと剣を合わせたのにも関わらず折れるどころか刃こぼれ一つ無い事に彼女が気付くのはまだ暫く先の事であった・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る