お姉さんに似た人

 僕はいたって普通の高校生活を送っていた。2年生の冬だ。来年には受験を控えた僕たちは何となく冷え切った中で日々をのらりくらりと暮らしている。

 ある日、何となく廊下でふとすれ違った女子生徒が目に入った。あの庭で出会ったお姉さんにとても似ていた。後10年もすればあのお姉さんになるだろうな、と思えるような。もう2年もいるというのに、今まで目にも入らなかった。

「あの」

 彼女のそばまで来た僕は、声をかけた。彼女はきょとんとしていた。

「あの」

「何か?」

「え、ええと、僕のこと、覚えていますか?」

 彼女は自分を指さして問う僕を明らかに不審がっていた。あまり強引すぎると嫌われるかもしれない。人違いかもしれません、と言いかけた時だった。

「もしかして保育園や小学校で一緒だった?」

「いや」

「じゃあ、どこで?」

 きっぱりと聞く彼女に、ごにょごにょと煮え切らない返事しかできなかった。

 その場では彼女は話を切り上げて僕とすれ違うように立ち去って行くところだった。やっぱり人違いだったのか、とあきらめていた。

「放課後、教室まで来てよ」

 彼女は耳元でささやいた。僕は大げさなまでに振り向いて彼女の方を見た。彼女は少し奥の教室に入っていった。隣のクラスだったのか。

 放課後、僕は遅れまいと教室まで急いだ。

 教室には彼女一人が夕日に照らされて待っていた。

「早かったじゃん」

「まあ……」

 彼女が近くの席に座ったところで、僕も向かい合う席に着いた。

「んで? 私とはどこで会ったの?」

 しどろもどろになりながらも、僕は例の庭で起こった出来事について話した。

「ふーん、そんなことがねえ」

 彼女、トモミというらしい、は立て肘をついて僕のことを見つめる。

「私は父親似で、一人っ子だから家族でもないと思うし。この世に3人は自分そっくりの人がいるとは聞くけど、なんかほんとかなあって思っちゃうし」

「僕の話は信じるんだ」

「そりゃ胡散臭いけどさ。でもこんなところで嘘八百並べたところで、何の得にもならないだろうし」

「まあ、僕としては、そうだけど」

 確かにそりゃ、いきなり幼いころに行ったところであなたによく似た人に会いました、と言われても困るだろうし。しかも成長した姿で、だ。10年前は彼女だって幼子だろう。

「でも、その秘密の庭? 本当にあるの?」

「それはあるはず。昔住んでいた家の近くだし」

「それって遠いの?」

「そのあたりからこの高校に通っている人もいるんじゃないかな」

「じゃあさ、明日の放課後行こうよ、その庭に」

 彼女は近所のコンビニかファミレスであるかのようにさらっと言った。

「でも予定とかは?」

「部活も塾もないし。しかも明日は早帰りじゃん。そこまでタカユキが言うなら、見てみたいな」

 彼女はボブカットの髪をくるくると指に巻き付ける。そんなこんなでトモミと明日、秘密の庭まで行くことになってしまった。

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