第3話

「これは、想定以上だな。」

 操縦室の中で俺は悪態を付いた。まさか二つとも起動できるとは思っていなかった。


「どうする、ユーリ。出力上げてもらうように頼んでみる?」


 相棒である精霊、イルマが言った。


「あぁ、そうだな。言ってみよう。楽観視してたジジィ共が多少は動くかもな。」

「またそんな風に言って...まあダメもとで言ってみよ。」


 溜息一つ、俺は議会への回線を繋いだ。


『ユーリ・アマディが発言する。守護者敵対時の脅威の再考を提案する。』


 世界議会は33の死した人間の魂魄と33の精霊の意思、34の聖獣・神使の類、そして1柱の神の101議席からなる議会だ。

 その使いであり秩序の象徴であるこの機体は行動に於いて見合った行動が求められる。その為の仕組みが、賛成数-反対数で出力を決めるこのシステムだ。


『結論。賛成34、反対8、無回答56、議長無回答の為出力26%で可決した。』


 上がった。

「やったねユーリ!これで勝てるね!」


 イルマの歓声に短く「あぁ」と返し、再び目の前の守護者に集中する。今の討議の間に共鳴接続の発動が完了したようだ。大きな熱の渦が辺りに満ちている。


「正面から潰す。長距離光学砲―≪フラッター≫チャージ......完了。潰えろ!」

銀竜炎牙アジルフスラスト!!」


 天罰の光と炎竜が如く突撃が正面からぶつかり衝撃が広がった。町の住民は遠くからその様子を眺め茫然とし、両者はこの単純な鍔迫り合いの中で互いに思考していた。いかに相手を倒すかそれだけを考えていた。が、互いの読みが同調し、依然として状況は硬直していた。


「「らあアアアァァッッ!!!!」


 その時間は2分に満たないが、その間の駆け引きの回数は尋常ではない。その中、みるみる守護者の熱量が弱まっていった。少々共鳴機構に無理を掛ける共鳴接続の使用による反動で守護者は強制冷却状態に移行した。あっけない幕引きだった。


 この時点で戦闘開始から19分。予定時間を間近にしていた。


「マズイ......急ぐぞ、イルマ!!フラッター再充填リチャージ!!」

「そうだった!目的忘れてた!!」


「おい!」と、俺はツッコミを心の中に留め、件の軍研究施設に向けて撃った。火花雑じりの土煙と吹き飛んだ瓦礫が上がる中1台の高速輸送機が飛び立った。


「逃がすか!!」


 秩序にフラッターを上に構えさせ最低限の出力で放った。真ん中を狙ったが避けられ、本体は掠る程度に、翼に直撃した。そして掠った穴から巨大な人型の影が降りて行った。この段階での破壊は不可能だが、輸送機は墜ちる。目標の所に急ぐ。


「背部ウィングスラスター・全開。翔べ!秩序!!」


 秩序は背中の機械質の翼から眩いほどにアンセルモの光を放ちながら飛んでいった。




「......何とか生き残ったね......」

「......じゃな。」

 残された二人は安堵の溜息をついた。

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