共鳴機構

第1話

　自分は狭くて硬い箱の中にいる。

　伏せていた眼を開けるが、まだ眼を閉じているかのような暗さだ。

　しかし、緊張は感じても不安や怖さは感じない。その為に訓練を続けてきたのだから。更に心強い相棒もすぐ近くに感じる。

　先程もイメージトレーニングをしていたが、改めて気を引き締めた。

　その時、ピリリリッッ、と高い電子音が鳴った。

　「アラヤ君、レタ爺任務開始まで十分を切りました。＜守護者（ガーディアン）＞起動、及び発信準備を始めてください。」

　聞きなれた女性オペレーターの若い声がする。

　その声に応じて相棒（パートナー）の精霊レタ爺ことレテルッツァが動き出す。

　「アラヤ、初任務と言っても公都内での門番じゃ。緊張する必要はない。リラックスじゃ、リラァ～ックス。ほれ。」

　老父の飄々とした巻き舌と言葉に少しばかりイラっとはしたが、自分を思っての励ましの言葉が自分には嬉しい。

　「言うまでも無かったな。では......」

　「うん！行こう!!」

アラヤ・トールは16歳にして、先代から受け継いだ上級エレメタル＜守護者（ガーディアン）＞の初任務に臨む。

　「「共鳴機構・起動!!立て、＜守護者（ガーディアン）＞ッッ!!」」

　暗い箱には二人の掛け声に応えて、込み上げるように光が点った。そして文字通りレタ爺と共鳴機構は染み込むように一体化した。

　＜守護者＞は神だけが作れるため、数の少ない上級（クラス３）共鳴機構を主動力とした、上級エレメタルであり、出力は記録上の最大時、下級（クラス１）の訳100倍を誇る。重装兵の鎧を思わせる装甲に大槍と輝くように光を反射している大盾を持つ耐久・防衛に特化した機体だ。

　＜守護者＞は今までに何度もチーザ公国の町と住民をあらゆる脅威から守り抜いた、名前の通り正しく町の守護者。なのでそれが町の中を歩けば当然......

　「＜守護者＞だー!!」

　「いつもありがとねぇ。」

　「先代に劣らない活躍を期待しているぞー!!新しい操縦士（パイロット）さん!!」

　言わずと知れた大歓声である。

　「あはは...これを自分が受けることになるとはおもってもみなかったなあ。」

　「すごいもんじゃろ。ホレ、手でも振ってやれ。ファンサービスという奴じゃ。」

　去り際レタ爺の言うままに＜守護者＞の手を振ると、さっきより大きくなった歓声が背中に浴びせられた。

　（少し恥ずかしいけど...期待、されてるんだね。）

　少しのむず痒さと嬉しさを持ってそのまま所定の位置に着いた。

　初任務の護衛対象はチーザ公国の公都の兵器研究施設。なんでも重大な実験機体が今日最後の大山となる作業をするらしく万が一もあってはならない。その為の警護だ。

　しかしやはり公都の中心部なので敵どころか喧嘩事の一つもない。全くもって平和そのものである。

　「当たり前じゃ。敵などそうそう来るものか。アレさえ来なければ......」

　レタ爺は何処か心配した様子で言葉を零した。何か思い当たりがあるのだろうか。

　途端......

　一瞬、目の前に巨大な影が空から強い風と共に静かに降り立った。

　それは輝くが如く、太陽の光を反射する穢れのない純白のエレメタルだった。

　そして、

　『警告する。即時、秩序を破壊する力を捨てよ。』