カヨサイトで働く先生は強かった。

光矢野 大神

第1話 カヨサイト


「人生なんて好きに生きたらいいんだよ。自分の好きな様に、気ままに過ごして行くことが人生を楽しく過ごして行く秘訣だよ」

そう言って先生は、仕事に戻った。畑道具を取り野菜の世話をしに裏の畑へとのんびり鼻歌を歌いながら歩いていった。


僕が今いる場所は、「カヨサイト」と言う小さな孤児院だ。身寄りのない子供達が集まり共に生活をしている。

飯は、お世辞にも美味いとは言えないが家がないよりもマシだから、皆文句を言わずに暮らしている。それに、先生の話が面白いから退屈はしないしね。

孤児院に住んでいるのは、3歳~11歳の12人子供達と僕達の世話をしてくれる先生だけだ。

先生は、3年前にカヨサイトにやって来たらしい。僕よりも年上の人に聞いたところ、初めにカヨサイトを建てたのはマザーと言う元修道女らしく、マザーに助けて貰った先生がここに来て僕達の世話をしてくれるようになったらしいが先生の過去は皆知らないようだ。


「おーい!ちょっと来てくれ!アルン!!」

「ちょっと待て先生。今行くから」

先生に呼ばれたから、小走りで畑へ向かった。

僕のこの「アルン」て名前は先生が付けてくれた名前で、意味は特にないそうだ。ちょっと悲しい。

僕は、2年前にカヨサイトにやって来た。今では、孤児院の古株になっており、先生とも比較的に仲が良く、先生も僕のことを頼ってくれる時がある。

僕は、親に捨てられてここに来た。僕の父は、飲んだくれで仕事もろくにせずに屍のような暮らしをしていた。母親は、そんな父に愛想を尽かし家を出て行った。僕は、その時に父親に捨てられた。

捨てられて、途方に暮れていた時に会ったのが先生だ。先生はカヨサイトに案内してくれた。

以来ここで生活をしている。


「先生お待たせ!!どうしたの?」

「いやー、今日の晩飯何がいいと思う?」

「そんな理由!?急いできて、損したよ」

「まぁ、そお言うな。」

仕方ないから、畑を見ながら何が作れるかを考えて見ることにした。

「そうだなー、今はダルいもがよく取れてるんならシチューなんか食べたいな」

「シチューか。じゃあ今日は、シチューだ」

「あんまり期待してないけど、美味しく作ってね」

「了解した。だけどシチューならミルクが必要だな。確か、もう全部使ってたから、アルンちょっと買いに行ってくれないか?」

「別にいいけど」

「ありがとう。助かるよ」

そう言って先生は、畑仕事を続け始めた。

僕は、しばらく先生を眺めていた。特に意味はないけど。朝顔の観察みたいな感じだ。

「そう言えば、お前オシャレとか興味ないのか?」

畑作業をしながら先生は自然な感じでなんの躊躇もなく話しかけてきた。

「い、い、いきなりなんですか!?」

「いやさ、お前女の子なのに一人称も「僕」とかじゃん、おしゃれとか女の子らしいことに興味ないのかなーて」

先生のダメな所は、こう言う所だよ。デリカシーがないのだよ。

自分でも分かっている。僕と言うのは、昔からの癖みたいなものでもう治らない。仕方の無い事なのだ。

「先生こそ毎日畑仕事は嫌じゃないんですか?」

「まぁ、好きじゃないけど嫌いでもないな。何かに没頭するのが好きだから」

「先生まだ、30歳なのに60歳みたいなこと言いますね。まぁ実際30歳とは思えないぐらい白髪がありますけど」

「ははは、この頭は子供の時からなんだもう治らないよ」

「なら僕のこの性格も治らないです」

治す気もないしね。

「ならいいさ、好きに生きるのが一番いいからな」

先生は何かを吐き捨てるように言った。

「じゃあ僕は、ミルクを買いに行ってくるよ」

「おう、じゃあな。夕飯楽しみにしとけよ!」

そう言って先生は、畑作業に戻った。


先生の仕事は、畑仕事や炊事洗濯やたまに、僕らに読み書きを教えてくれる。

学校に行けない僕らにとっては、読み書きを学べることは非常にありがたいことで、カヨサイトの子はここを旅立つ時には一通りのことをこなせるようになっている。もちろん買い物もだ。


身支度を軽くして買い物の準備をして、孤児院を出た。

町までは、歩いて20分程度かかるがそこまで苦じゃない。何故なら、町に出ることはほとんどないから刺激があって面白いのだ。


夕飯までは、まだ時間があるから少しゆっくり歩いて行こう。


町──

町に着くと、そこは活気に溢れていた。行き交う人の並に揉まれそうになりながらも目的であるミルク屋さんに向かった。

「うっ...」

僕は、人混みに慣れてないから人の中にいると酔ってしまう。僕はこれを「人酔い」と呼んでいる。特に今日の人酔いは酷く、普段より多くの人が来ているからだろうな。さっさと用事を済ませてしまおうと思った。

自然と歩くスピードが早くなっていた。


「えーと、確かここだったな。すいません」

「いらっしゃい。どうしたんだい?」

「ミルクを2本ください」

「はいよ。2本で8ポソドだよ」

財布から10ポソドを出しておばさんに渡した。

「はい、お釣りの2ポソドだよ」

「ありがとうございます」

「あんた気おつけなよ。最近ここいらじゃ人さらいが横行してるんだよ。あんたも狙われるかもしれないよ」

おばさんは、小さな声で教えてくれた。世間話が好きな人が話す時は、いつもこうなるのかな?

「はい、気おつけます」


人さらいが僕みたいな色気のない女の子を選ぶはずがない。きっと、大丈夫だろう。

そう思いながら混沌としている町の中を歩いている。早く孤児院に戻ろう。また歩くのを速くした。

それにしても、人さらいとは、面白くはないが街に来たら刺激が溢れていると思った。


そんな事を考えて歩いていると人に正面からぶつかってしまった。

「ゴツン」と頭を男の人にぶつけてしまった。すぐ謝らないと...

「ぁゎゎ、すいません。少し考え事してたんです...すいません」

「いいんですよ。そちらこそ大丈夫ですか」

ぶつかったのは、紳士のようなおじさんだった。よかった怖い人じゃなくて。

「僕は大丈夫です。貴方の方こそ、服に汚れなど着いていませんか?」

「私は、大丈夫だよ。これぐらいどうってことないよ」

「そうですか。なら良かった」

ほっと肝が定位置に降りたような感覚だ。弁償とかにならなくてほんとによかった。

「なら私はこれで...」

そう言いながら紳士みたいなおじさんは、僕の肩をポンと叩いた。

その瞬間おじさんが笑ったように見え...

だんだん、体に力が入らなくってきた。頭もボーとしてくるし、まさか人さら...

僕は、その場に倒れ込んでしまった。

どうやら僕は、最悪にも人さらいにぶつかったようだ。ついてないな。

おじさんは、僕を担いで荷車に乗せて馬を走らせた。目が霞んでよく見えないが他にも女の子が乗っている。

「今日の収穫は、豪華だな高く売れるぞ。ひやっひゃっひゃ」



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