第33話 火球男、戸塚の爆煙

「銃?」


 契汰がそう呟いた途端、それぞれの弾丸が大きく爆発した。

 煙があたりを包み込む。その奥から、異能お得意の飛腱で何者かが近づいてきた。


「よう、無能転入生。まだ生きてたのか」

 

 男が得意げに契汰の横に着地する。


「戸塚!」

「一ツ目発見御苦労さま。あんなド派手な五芒星で知らせるなんてな」


「あれは俺じゃない、永祢だよ」

「総極院永祢だってか。あのクズに出せるわけないだろ」

 

 戸塚がせせら笑いながら、一ツ目に銃の形に作った手を向けた。


「俺の獲物だ、そこで指咥えて視てろ」


 そう言うと無数の銃弾、いや、銃弾状の火球を次々と一ツ目に打ち込んだ。黒い身体が蜂の巣状に穴だらけになる。戸塚がパチンと指を鳴らした。


「……チェック・メイト」

 

 その言葉に呼応して、火球が一気に爆発した。大量の爆煙が立ち込め、周りが見えない。


「ゴホッゴホッ……。凄い」

 

 戸塚の異能の威力を見て、契汰は彼がなぜ成績優秀者なのか身をもって体感した。


「なんちゅうやっちゃ、ワシらごと吹き飛ばす気か」

 

 爆煙が濃く、視界が一向に開けない。しかし、一ツ目の気配も消えたようだ。

静寂が、戻ってきた。


「これはやったんとちゃうか!?」

 

 戸塚は爆発を見届けた後、手の埃を払いながら言った。


「格の違いだ、覚えとけ」

 

 圧倒的な力に、戸塚の上から目線ももはや気にならない。一ツ目の死を確信して、契汰は胸を撫で下ろした。


 ぐががががががあああああああああああああああ!


 しかし突然、唸り声が濃霧向うから飛び出し戸塚目がけて突進した。


「あああああああああああああああああああああ!」

 

 戸塚はあっという間に近くの大樹に押さえつけられ、鉤爪を両足に突き立てられた。一ツ目はす触手を戸塚の首にかけて縊り殺そうとする。


「戸塚ぁ!」

 

 契汰は全身の痛みを堪えながら駈けた。抜き身の刀で、一ツ目の鉤爪をバッサリと叩き切る。


 ぐげげげげげげげぇえええぇええええげげげぇえええええええええ!!

 

 一ツ目は叫び声を上げながら後退する。戸塚はその隙に、傷を負いながらも間一髪脱出した。しかし一ツ目は動きを止めることなく、すぐさま標的を契汰に切り替えて突進してくる。

契汰はその素早さに苦戦し、木々が密集し退路がないところに追い込まれた。


「契汰、どないすんねん!」

 

 ねこまるが焦燥して叫ぶ。ここにきて契汰にも一ツ目による霊障が襲ってきた。霊障は全身が火傷したような、鈍い激痛だ。霊力が削がれ、身体が痺れたように動かない。


「これが、霊障か。やべぇなねこまる……」

「諦めるな、契汰。道はあるはずや」

「そう、だな」

 

 契汰は一ツ目に震える手で刀を向けた。一ツ目があんぐりと口を開け、契汰を丸々飲みこもうとしている。契汰が諦めかけたその時だった。


「そこまでよ!」

 

 契汰の背後から炎を纏った何十本もの矢が、彼をかすめて次々と射込まれた。

 

 ぐぐぐぐうぐぐぐぐうううううううううううう!


 一ツ目は針山の如く矢で撃たれ、苦しみの唸りを吐き散らした。馬のいななきと蹄の音迫り、騎乗の異能者が契汰と一ツ目の間に躍り出る。一つくくりの蒼い髪が、火の中を靡いた。

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