第23話 緊急招集。物の怪討伐隊、出動

『――緊急招集、待機中の討伐隊は至急出動準備。鎮守の森にて任務有』

 

 スピーカーから聞こえてきたのは、桐生の声だ。


「森で何かあったな、我々の出番だぞっ!」

「誠も討伐隊に?」


「無論! 小松寮の者はほとんどそうだ!」

「まじかよ……」

 

 契汰は討伐の時にも彼らと顔を合わせないといけないと思うと、胸やけがした。


「まさか、契汰も討伐隊か」

「そうだよ、奨学金稼がないと」


「むうう、しかしだな。総極院と一緒でないといけないだろう」

「彼女はまだ退院してないんじゃないかな。すごい傷だったし」


「単独では危険だぞ! 異能が無いならなおさらだ」

「でも全員って言ってるぞ? それに俺は前線には行かないって会長が」


「しかし森は危険だッ。小生から会長殿に話す!」

「でも学費が」


『全員至急建礼門に集合。いいわね、全員よ』

 

 まるで契汰と誠の会話を聞いているかのように、桐生は付け足した。


「これは……行かないといけないぽいな」

「ならば契汰!」

 

 誠はがっしりと契汰の腕を掴んだ。


「小生から絶対に離れるでない、絶対だぞ!」

「悪いよ、そんなの」

「小生は契汰の友達だ。友人が傷つくかもしれないのは見てられん!」

 

 確かに誠の言うとおり、一人では心もとない。ここは素直に甘えようと、契汰は考えた。


「すまない、頼む」

「うむっ! では契汰、準備が出来たら一階で落ち合おう」


「わかった」

「早くせねばお叱りがあるやもしれんからな。生徒会の討伐隊査問は面倒だぞ」


「査問?」

「そうだ。討伐隊の規律を乱す者に対して、罰則を与える」

「うええええ」

 

 契汰は慌てて部屋に入ると、武器になりそうな物を必死で探した。しかし見つかったのはフライパンやお包丁くらいだった。濡らした新聞紙をお腹に巻き付けて防具とし、キッチン用品を攻具として武装すると一目散に寮の玄関まで駈け下りた。

 既に寮生はおらず、玄関はがらんとしている。そこに悠然と誠が降りてきた。

契汰と違って何も持っていなかったが、学園の制服を崩さずに着つけている。


「では行こうか、建礼門だな」

「俺場所知らないんだ。遠いのか?」

「案ずるなっ!」

 

 誠は契汰をひょいと抱え上げた。まるでお姫様だっこだ。


「やめろよ、恥ずかしい!」

「ぐははっ、小生と契汰の仲ではないか! それより振り落とされるなよっ」

「へ?」


 そういった次の瞬間、誠の身体は地面から跳ねた。夜のまだ冷たい風が契汰の頬を切り、ひゅんひゅんと音を立てながら誠は夜の闇をジャンプする。

誠が地面や壁や木に足をつけるごとに、強い衝撃が走った。


「誠、お前すごいな!」

飛腱ひけんも初めてかっ!」


「当たり前だろ」

「がははっ。簡単だ、契汰も鍛錬すればすぐに出来るさ! 基本的な体術だっ!」


「だから異能ゼロだってば!」

「異能が無くても霊力はあるんだろう!」


「そういえばそうらしいけど」

「飛腱はな、異能の才能が無くても出来る!」


「そうなのか?」

「足の裏に霊力を練って留置し、それを踏み台として跳躍するんだ。どうだ簡単だろ!」


「誠に言われても説得力無いな」

「鍛錬でここまで来たのだ、契汰も一緒に修業しよう!」


「その鍛錬ってどんなの?」

「とりあえず身体を作るところからだな!」


「体力はあるほうだとは思うけど」

「そうか!」


「誠ほどじゃないから、初心者向けがいい」 

「なら手始めに学園の近くの山脈を踏破するってのはどうだ!」


「山脈……」

「そうだ、あの山はいいぞ。大体東西で5、60キロってとこだっ!」


「5、60キロっ?」

「登校前に数回往復するのだ、楽しいぞ!」

「か、考えとくよ」

 

 契汰は頭がくらくらした。一体誠は、日頃どんなトレーニングをしているのだろうか。


 風を切る誠と契汰の下を、レトロな灯に照らされた学園が足早に通り過ぎていく。


「さ、ついたぞ!」

 

 誠の背中から滑り降りた契汰の目に入ったのは、見覚えのある大きな門だった。今は大きく開け放たれている。学園の外側の門前には、沢山の生徒たちが休日にも関わらず、制服を着て待機していた。契汰と誠も重厚な門をくぐって外に出る。そこには戸塚たちもいたが、夜闇のおかげで契汰は気付かれずに済んだ。


「あ、ここ。今朝、倒れてたところだ」

「門の外にいたのか! 素人には危ないところだぞ」


「そうなのか?」

「学園と鎮守の森の間だ。大路を挟んだ向う側はもうこの世じゃない」

 

 誠が真剣な顔つきで話そうとした時、周りの生徒たちがざわつき始めた。皆一様に空を見ている。契汰も同じように空を仰ぐと、スカーレットが翼の音を響かせながら優雅に飛翔してくる様子が見て取れた。


 スカーレットの到着に合わせるように、騎馬隊が門をくぐって闇から現れ出た。先頭にいるのは桐生だ。光が血の動脈のように走っている馬は、契汰が乗せてもらった紙の馬たちだった。毅然とした表情の彼らは、戦場に赴く騎士を思わせる。


「整列せよ、生徒会長が降りられる!」

 

 集まった生徒たちは、弾かれた玉のように動いて整列した。契汰も誠に引っ張られて列の一番端に並んだ。


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