6 一騎打
「『
腹の底からイクサ・シャウトを上げ、疾走したのは二騎同時。シナイを
イクサ・フレームの電脳は
ハクアが自分に合わせてきた、とナガレは加速するニューロンで思った。相手より早く反応し、多少強引にでも勝ちを奪いにゆく
二つの騎影が交錯する。
撃剣衝撃波により土煙が晴れ、シナイを打ち合わせた二騎がそのまま膠着した姿が目視される。
これを脱出するには互いの
尤もそれは極めて稀な状況であるし、試合でデッドロックがこのまま長引けば審判から仕切り直しを命じられるだろう。
ナガレもそこまで膠着を長引かせるつもりはなかった。無論、ハクアも。
シナイとシナイが引かれ、エイマスとテンペストがバックステップで距離を置く。ただし望めば鍔迫合を再開できるような、ごく短距離である。二人のヤギュウ・サムライはその轍を踏みはしない。
『
テンペストが刺突を仕掛ける。頸部への
「
エイマスがシナイを斬り上げた。刺突を捌き、のみならず
テンペストがマニピュレータを振り上げた。テンペストのガントレットをシナイの
「チィーッ!」
ナガレは鋭く舌打ち!
『拝ッ!』
今度はハクアが反撃に転じた。振り上げたシナイを再度振り下ろす――無防備になった手指部を狙った、ヤギュウ・スタイルの上級サムライ・アーツ〈ガッシャー・カウンター〉だ。
エイマスは右手を引き剥がすようにシナイ・グリップから離し、
エイマスが左手のみで刺突を放つ。テンペストは上半身を捻って横薙ぎにシナイを揮い牽制、威勢を駆って後方へ飛び退る。
双方、再び距離が開く。
「「「「ウオオオーッ!!」」」」
サムライ動体視力を以てしても完全には把握困難な、スクールレヴェルでは収まらぬ高度なチャンバラ・アクションである。いつしか観客たちは大いに湧いていた。
「チッ、調子いい奴らだぜ……」
「でもいい感じじゃないかな、ナガレ=サンも?」
「これ、どっちが勝っちまってもおかしくないっスよ…」
「フラグ立てンなよ!」
当然観客席の声はコクピット内部のドライバーには届いていない。切先を空に向けた
ナガレはハクアへの評価を改めた。ハクアは想定以上にクレヴァーであり、予想以上にサムライ気質だ。
いざとなれば矜持より勝利を優先するだろうが、ナガレは彼女がそう簡単に誇りを捨てるはずがないこともわかっていた。だからナガレが勝ちに行く筋で、どこかしらにハクアがトラップを仕掛けてくることも読んでいた。敵の心理状態を読むこともまたヤギュウ・スタイルに於ける
ハクアもナガレのそういった思考を読んでいる。またナガレもそれを読まれていることを承知で動く。相互の心理を読み合った上で、いつ、どこで、どうやって相手の予測を上回るかが鍵であった。
パワーではナガレが勝り、テクニックではハクアが勝る。ゲーム的なステータス配分としては相殺して互角と言ったところだろう。互いに譲れぬ理由はあった。
ふと、ナガレは右手グリップに違和感を覚えた。慌てて内部モニタを見た。最低限のポリゴンで形作られたモニタの中のエイマス、その右肘関節部が熱を持っている。ディープレッド、危険。その他の関節部もそれぞれに赤系統で、あまり良くない色。
「ここで来たか…」
このエイマスはパッチワークによってでっち上げられた代物である。アタロウはじめメカニックたちによる迫真の整備により仕上がりは完璧と言っていいが、正規の組み合わせではないため、どこで破綻してもおかしくはなかった。あるいは今までの負担が出たということか。関節パーツの点検も怠ってはいない。ハズレパーツでも引いたか。総合すればつまり、不運が原因だ。こればかりはどうしようもない。
このままではパーツのいずれかが金属疲労を起こして破損するだろう。最悪右腕部が動かなくなる。そこまで行かなくとも出力の伝導が為されなくなる可能性は十分あり、それだけでも致命的である。言うまでもなく、ナガレは右利きだ。
関節が焼ける前に一本を決める。
右手のみで剣を持ち、体軸移動――
観客席から驚愕の声が上がる。ヤギュウ・スタイルにはない構え――ヤマト非主流のフェンシングスタイルだ。
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