神の愛し子

流花@ルカ

第1話 孤独の前触れ

 あの…もし宜しければ少し…私の話を聞いてくださるかしら…。



 私の名はアンナ、由緒ある子爵家の娘として生を受けました。

両親や少し年の離れた兄はとても優しく、私に一杯の愛情を注いでくれています。

ある時、両親から私の秘密を聞かされました、実は私が生まれたときに神殿に神託が下りたのだそうです。


私が『神の愛し子』であり、〖必ず成人するまで家族の元で大事に慈しみ養育せよ〗と神殿はその神託を王に告げ協議し、正式に国に『神の愛し子』として認定されました。


その為に国としてとられた方針は二つ、一つは私を神殿で養育する事を神がお許しにならなかった為に、兄を還俗も可能な神官(将来子爵家を継ぐために結婚しなくてはならない為)として愛し子と神殿の橋渡し兼教育係とする事。

もう一つは愛し子を損なうことが無いように、私が愛し子であることを隠し細心の注意をもって養育する事でした。

そんな状況で、私を育てなくてはいけなかった為に色々大変だったと両親は苦笑します。


「お兄ちゃんは、神官としての立場を利用して神殿からの横槍から貴女を守るために今も頑張っているし、定期的に国から監視のために監察官が来たりしてたのよ? でも、貴女ももうすぐ学園に入る年になったのね…月日が経つのは早いものだわねぇ」

この国では、貴族位を持つ者の子供は人脈や見聞を広めるために全員王立の学園に入らなくてはなりません。

忙しい父に代わり、学園への入学準備などをすべてやってくれた母がお茶を飲みながらしみじみと話してくれます。

「お母さま…私学園で上手くやっていけるでしょうか…」

少し不安になってなってションボリする私に

「何を言ってるのよこの子ったら! 心配することなんてなにもないわよ」

お母さまは笑いながら元気づけてくれました。


その時は誰も『神の愛し子』がどういう存在なのか分からなかったのです、そう…私自身も。





……それから始まった学園生活は大変楽しいものでした、沢山の友人もでき色々な勉強に励み素晴らしい出会いにも恵まれました。



  そう、私は恋に落ちたのです…。



 初めてあの方…テオドール様にあったのは図書室でした、授業の参考資料を探していたら少し高いところに見つけて困っていたところを助けてくださったのです。


 それから図書室で会うたびに少しづつ色々な話をするうちに分かった事ですが、テオドール様は文官を目指しており、国の選抜試験を受けるためにずっと努力を続けておられたのです。

その姿を傍でずっと見守り、時にはくじけそうになるテオドール様を励まし、会う時間がドンドン長くなっていったことで距離が縮まっていきます。


…そんな日々もあっという間に過ぎ去り、もうすぐテオドール様は卒業を迎えられる季節へと変わっていきました。


 最後にどうしてもテオドール様にこの気持ちを伝えたい…。

選抜試験も終わり、堂々と主席合格されたテオドール様は、国の文官として輝かしい道を歩まれるのでしょう、

そんな人に私がふさわしいとも思えませんでしたが、ずっと抱いていた恋心はおさえられずに卒業式が終わった後に思い出の図書室へと来ていただきました。


「お呼びたてしてしまい申し訳ありません…」


「いや…いいんだよ…僕も話したいことがあったんだ」

ちょっとはにかみながら笑うその姿にドキドキと胸が締め付けられるようです。


「あの…選抜試験おめでとうございます、ずっと頑張ってる姿を見てきましたから自分のことのように嬉しいです。」


「ありがとう…試験勉強がつらくなった時、いつも明るく君が励ましてくれていたおかげで僕は元気をもらえてたんだよ」


「ふふ…私なんてなにもしていません、ご自身の努力が実ったんですから『どうだ! すごいだろう!』って胸を張ってみせてください」

嬉しさで一杯になりながらも恥ずかしくなって茶化すようにおどけてみせました。


「はは…そんな君だから僕は…」


私は自分自身の気持ちを伝えたくて精一杯勇気を出して叫びました。

「あの! どうか聞いてくださいっ! 私…私ずっとテオドール様のことが好きだったんです!」


「えっ! ほ、本当かい?」

テオドール様は真っ赤にした顔で、動揺した風に聞き返されます。


「はい…いろんな話をしたり、勉強をずっと頑張ってる努力家な姿を見てるうちに大好きになってしまったんです…」

「そうか…とても嬉しいよ」

ニコリとまるで慈しむように笑いかけてくださいます。


「僕もね、君のことがずっと……ぐっ…なんだ…なにか声が…あ…頭がいた…イヤだ……絶対いやだっ!うがあああああああっ」

絶叫しながらのたうち回りはじめるではありませんか。


私は動揺して、思わず駆け寄ります。

「いやああああっ!しっかりしてください、大丈夫ですかっ!? 誰か…すぐに誰か人を呼んできます!」

そういって図書室をでていこうとした時、絶叫していたはずなのにピタリと声を出すのをやめ、私の手首をガッと握りしめます。

「………大丈夫…なんでもないよ…」

うつむきながら言われる顔は青白くとても大丈夫にはみえません。


「何を言っているのですか!そんなひどい顔色でおっしゃっても…」

「大丈夫だといってるじゃないか!しつこいな!」

と握っていた私の手首を乱暴に離しながら怒鳴られています。


「ひっ…も…申し訳ありません…」

突然変わってしまった態度にどうして良いのかわからずに立ち尽くす私に


「もう二度と話しかけないでくれ、迷惑だから」

と豹変した態度のまま私に一瞥いちべつをくれることもなくテオドール様は図書室から出ていかれました。

「え……そんな……」

その場にへたり込んだ私はあふれる涙を止められず声を上げてしまいます。

「う…ううう…なんで…やっぱり私迷惑だったの……?」

誰もいない教室で泣き続けることしか出来ません。



…それからテオドール様には二度と会うことは叶いませんでした。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


※この世界の神は1柱しか存在せず、顕現したところを見た人間もいませんが神託として声を降すことは頻繁ではありませんが、何度かありました。


その声を無視して滅んだ国の話が昔から結構な数で伝えられている為、国王に神託が報告されたのです。

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