Act.7 魅惑?風の精霊

 私が受けた依頼に提示された集合場所へ三人で赴く少し前、ツンツン頭さんから得た情報で、行使する任務の最終調整を行っていました。

 しかし……彼の言う通りのである事も踏まえた、作戦への軌道修正も止むなしの実情も発生していたのです。


 それにしても——


「まさかテンパロットの受けた依頼の方が、それ程までに大きな事に絡んでいるとは……。相変わらず、当たりなのか外れなのかが判別し難い事この上ないね。」


「けどそこへリーサ姫殿下まで――って、君は何をしているのかな? 」


 お宿の大広間でテーブルを前に、思考そのままの意見をツンツン頭さんへ振ろうと向けば、何やら彼が微妙に私からの距離を取っていたので半目で疑問を投げかけます。

 この任務最終調整真っ只中にこちらの意見も有耶無耶にして、要らぬ思考を宿すならばまた痛い制裁をと思ったのですが。


「あぁ~なんだ……その、俺はてっきりあのリーサ姫殿下が絡む内容にな? またミーシャからこう、痛い制裁が繰り出されるかと――」


の方向か(汗)。て言うか、テンパロット……私もそこまで分別が付けられない訳ではないから。そもそも、姫殿下に失礼だよ?そちらの方が国家直々の制裁対象に成りかねないからね? 」


 ふぅと胸を撫で下ろすテンパロットは、よっぽど私の制裁が堪えていたのか……本当にこの人はあの帝国が誇る忍びの者なんでしょうか。

 そしてこのまま、何か私ばかりが悪者にされている感じに納得いかないね。


 まぁそれはさて置き、今後の依頼と任務の同時遂行についてです。

 私側の依頼がヤバイのは理解しましたが、受けた以上は依頼放棄も出来ない訳で……確実な依頼遂行のための作戦会議へと進んで行きます。


「取り合えずこちらの依頼がヤバイ点は理解出来るけど、その方向性は砦跡に着いてからでなければ判別し辛いね。なのでに状況確認を頼もうと思う。」


 語る私がおもむろに魔法術式を展開すると、精霊召喚サーモナー・エレメント術式詠唱を開始するや……掌へ広がる小型の召喚立体魔法陣サモナイト・シェイル・サーキュレイダまばゆい光を放ちます。


 実の所精霊は彼らに声を掛ければすぐにでも顕現可能なのですが、未熟な私はそこを端折るばかりでは成長もないと……極力術式展開の後彼らに応援を頼むが常です。


超振動ビブラス精霊同調スピリア精霊界励起エレメタリオス……異界の真理が一欠けたる風の下位精霊、絆繋ぎし友人よ。我が元へ来たれ。』


 召喚立体魔法陣サモナイト・シェイル・サーキュレイダより一際輝く光が舞い、やがて小さく煌く四枚の羽根が美しい人の様な姿が顕現。

 そして、煌く姿が閉じた双眸をゆっくりと開き――


「ぷはーーっ! いやぁーーミーシャはん、随分お久しゅうやなぁぁ! ようやくウチの出番と――」


「テンパロットっ! ! 」


「アイ、マムっ! 」


「――って、ちょう待ち! いや勘弁やっ!それはいややぁぁーー!? 」


 を見せたのは、精霊シルフ……風の召喚術式で呼び出した彼女の名はシフィエール。

 私たちにとって精霊側の仲間の一人です。

 そして私は神秘を体現する精霊にあるまじき口調で現われるそれを、ツンツン頭がキレッキレの動きで開放した……ぶち込もうと手早く動きます。


「ふぅ……。さぁ、冗談はさて置き君に頼みが――」


「ヒドイっ!? あれは流石にヒドイでミーシャはん! ウチもでいきなり籠にぶち込まれそうになるやなんて、マジで焦ったわ! 」


と言う、言葉の羅列への理解に苦しむんだけど? それに君は召喚されてこちらに顕現すると、それ来たとばかりに何処かへ飛び去ろうとするじゃないか。」


で気絶させられなかっただけでも、ありがたいと思うといいよ。」


「いやそれウチ死ぬわ、容赦なしかっ!? 相変わらずの過激さやなミーシャはん! つか、この二人と冒険するたびに酷くなってへんかそれ!?」


「——アハハっ! クククッ……やめて、こっちが死ぬし! テンパロットの動きがヤバイ、キレッキレ……おかしすぎ! 」


「そっちもそっちで笑い過ぎやっ! 被害者のウチを他所よそに爆笑すなや、ヒュレイカはんっ! 」


 召喚そうそうけたたましかったりゲンナリしたりと精霊である事も吹き飛ぶ騒がしい小さな友人にも、一連のやり取りに慣れっこであるヒュレイカは横で腹を抑えて笑い転げる始末。



 とまあ、あくまでも冗談の範疇はんちゅうである珍劇もそこそこに……精霊をわざわざ呼び出しての依頼へと移る事としたのです。



∫∫∫∫∫∫



 二つの案件を同時に片付ける算段を組み上げるため、精霊召喚にてシフィエールを顕現させた私。

 が――未だ恨めしそうに睨め付ける自業自得の彼女を初め、私の周りはこんな残念な人(人?)ばかりかと嘆かわしくもなりがら……さっさと本題を提示する事とします。


「君への依頼とは他でもない、今現在受けた仕事である場所へと訪れる事になったのだけど……テンパロットの情報筋ではその依頼がヤバイ方向へきな臭さを放っていると言うんだ。つまりはもう理解したね? 」


 金色に艶めく御髪がさらさら流れ、てのひらに躍るその姿は可憐そのもの。

 新緑の如き衣服が精霊である神秘さを格上げしたにも拘わらず、まさかの口調とテンションを撒く残念な精霊ことシフィエール。

 姿残念精霊さんは……「はぁ~」とあからさまな嘆息を零しこちらを見上げます。


「ウチの様な精霊に、ひと種の仕事云々で依頼して来るのはミーシャはんぐらいやで? まぁそりゃ……最近の著名な精霊使いの奴らよりは全然、そんな頼みもどんと来い!なんやけどなぁ。」


「その使とは同列を御免被りたい所だね。彼らは君たち精霊を、契約上逆らえないのをいい事にだろう? 」


「私は精霊とは自然の摂理そのものであり……それらと対等に共存して初めて、力を借りる権利を得られると考えているんだ。――と、そんなチート達への愚痴で無駄な時間を浪費したくはないんだよ。引き受けてくれるかい?。」


 私は彼女や先に顕現した上位精霊であるジーンさんより彼力を借りる事で、今の自分の地位を会得したも同義です。

 そうやって精霊達を愛称で呼ぶ事で親近感を抱きつつ、彼らへ力の行使を依頼する……誠意を込めたお願いをするのです。


 するとにへらとニヤけたは、頭をポリポリ掻きながら――


「……もう、しかたあらへんなぁ。ミーシャはんがそんなしーちゃん言うてまで、ウチに頼ってくれるんならアカン言うもんやで? 」


 精霊を行使する精霊使いは往々にして精霊を一個の群隊とみなし、それを踏まえた術式を展開します。

 さらに行使される術式は多分に漏れず……自分達をチート能力者と称し、群隊として召喚した精霊を使の様に扱う。

 加えて精霊を従えるために、奴らが問答無用で契約させた正規契約上……個の意識さえ塗り潰された傀儡と化す精霊達は抗う事すら叶わない。

 それが今、ザガディアスを包む精霊とそれを扱う術者のままならぬ関係なのです。

 

 私はそんな奴らと同列扱いで揶揄やゆされる事がとても嫌いで、だから私に力添えしてくれる精霊には友情の証である愛称を贈り……必ずお願いをする事にしています。


「一肌脱いでくれるんだね?分かった。よし二人共、彼女が。しかし流石に、テンパロットには見せられない艶姿だから君はあっちへ向いて――」


「ちょおーーっっ!? なんでに取ってんねん!? ベタ過ぎて乗ってしまう所やった――」


「「「えっ!? 」」」


「「えっ!? 」やあらへんから! テンパロットはんも残念そうな顔すなや! そしてヒュレイカはんは、さっきの爆笑のまま転げとったらええねんっ! ワザワザそこだけ反応しても見せへんでっ!? 」


 そんな慌しくノリ突っ込みでてのひらを中心に暴れまくる小さな友人に、砦跡……先史時代末期まで利用されていたと言うポルドール砦の先遣調査を依頼する事とします。


 彼女へ頼んだ理由としては……まずヤバイ依頼であるこちらの件での対応とし、二人の主力がいつ何時でも戦闘に対処できる様備えるための詳細情報収集。

 そしてを想定し、二人の戦力と私を分断されない様まとめて行動すると言う対応のためです。


 二人は確かにバカ強い。

 けどそれは職種上による強さであり……私以上に過酷な研鑽が生み出した賜物。

 

 故に迂闊に戦力分断の手中にはまれば、そこに弱点を露呈する事は明白です。


 優秀であるが故に確かにある弱点が霞みがちになるからこそ、決して過信してはならない――それはサイザー殿下からも釘を刺された点でもあるのです。



 そのために私は力を貸してくれる友に懇願し、協力を得る事で正式なる賢者への過酷な道を歩んで行くのです。

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