青螢怪草子

朱鳥 蒼樹

序夜

 小さな灯火が部屋の中を静かに照らした。ぼんやりと浮かぶ複数の顔に張りついた恐怖。語られるは古今東西人々の心に恐れの種を蒔き、芽吹かせ、花咲かすもの……。そう百物語だ。

 百物語のやり方は簡単である。新月の夜に誰かの家に集まって、一番奥まった部屋に百本の灯心をそなえた青い紙の行燈と鏡を用意する。参加者は皆青い衣を纏い、帯刀もせず、無灯の部屋に入る。そこで、怪談を一話語り終えたら手探りで隣の部屋を通って行燈のある部屋へ行き、灯心を一本消してから、鏡で自分の顔を見て最初の部屋へと戻ればいい。そうして最後に、百話語り終えて全ての灯心が消え、漆黒の闇が訪れた時、なんらかの怪異が起こる、と言われている。

 いつの時代もこの百物語は眠れぬ夜の退屈しのぎとして行われていた。前述のような形でなく、行燈をろうそくに変えたり、ろうそくの本数を減らしてみたり、同じ部屋にろうそくを用意したりなど。その時代にあった形に変化していつまでも伝えられ続けていった。

 無論、ここに集まる者たちは、何かが起こることを期待しつつ、その実、何も起こるまい、と軽く考えている。だが、火が一つずつ消えてどんどん部屋が暗くなっていくと、彼らはようやく恐怖心に駆られてくる。そんな部屋には怪異が集まりやすい。人々の負の感情に誘われるのか、はたまた暗い部屋の面妖な雰囲気に惹きつけられるのか、どちらともわからない。

 さて、この話は皆さんと百物語に興じるものではなく、その裏――ろうそくの火と怪談につられてやってくる。〟何か〝の物語。眠れぬ夜半の夜話、はじまりはじまり。

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