失意のブルー


それから十年。


ソフィアを取り巻く状況は何一つ好転しないまま時だけが過ぎていた。


ソフィアは十六歳の誕生日を迎え、結婚を考える年齢になった。


普通は伯爵であるソフィアが婿を取るのだが、叔父たちは邪魔なソフィアを無理に嫁に出してしまおうと考えた。


その上叔父たちが結婚相手に選んできた相手は、女好きで節操がないと悪評高い男だった。


不幸になるのは目に見えている。


そこで冒頭に戻る訳だが、ソフィアはディナーに呼びつけられ、婚約の話を一方的に告げられた。


今ソフィアはようやく部屋でひとり、明かりも付けずにベッドの上で横になっていた。


別に本当にあの人と結婚出来るとは思っていなかった。


でも自分の中で淡い期待を抱いていたのも確かで、いつか本当に迎えに来るんじゃないか、なんて思っていた時もあった。


彼はあの時クロード=アルヴィエと名乗った。


その後大分経ってから分かったが、彼はアルヴィエ公爵家の長男、貴族の中でも一流と名高い名家の出である。


ブランシュ伯爵家では格式も歴史も明らかに劣っている。


ソフィアはブランシュ伯爵であるわけで、彼は長男なのだから結婚出来るはずがない。


最初は失望したものの、徐々に諦めに変わり最近では考えないようにしていた事だった。


目を閉じれば彼と過ごした時間が鮮明に思い出される。


淡い想いに蓋をするように左手でまぶたを覆って、ゆっくりと息を吐いた。




事態が急転したのはそれから二日後の事。


アルヴィエ公爵家からブランシュ家に縁談が持ちかけられた。


当然アンナにだろうと叔父夫妻は色めき立っている。


外出の帰りに聞いた使用人達の噂によると、今回縁談を申し込んできたのは長男のクロードらしい。


ソフィアはやっと部屋まで行き着くと、扉を後ろ手に閉めそのままずるずるともたれ掛かった。


(彼が本当に迎えに来た……?)


しかし嫁に行くのはアンナで決まりという空気だった。


そこでソフィアはある事に気が付く。


あの日、彼は名乗ったがソフィアは名乗らなかった。


更にあの時は仮面舞踏会、仮面で顔の半分は隠れていた。


アンナも金髪なので、彼はアンナとソフィアを見た目で区別する事は出来なかっただろう。


彼は仮面にある家紋で約束の相手がブランシュ伯爵家の出だと認識はしていたはず。


しかしあの時はアンナがブランシュ伯爵の指輪を付けていた。


つまり、アンナのことをソフィアだと思っていた可能性が高い。


彼の中では一緒に遊んだ女の子はアンナなのだ。


ソフィアは急に冷えた指先を握りこんで、全身をこわばらせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る