悪意のブルー

 

  そんなひとりぼっちの生活を続けていたある日、とある仮面舞踏会に参加することになった。


  当日、憂鬱なソフィアにアンナが擦り寄ってきて、嫌らしくお願いをしてくる。


「その指輪をどうしても付けていきたいの、だって私に似合いそうだと思わない?」


  ブランシュ伯爵家に代々伝わる指輪を指差しては執拗にねだってくる。


  あまりのしつこさに負けそうになりつつ必死に握り込んだが、最後はセルジュも加勢して奪うように持っていかれてしまった。


  ソフィアは悔しさに泣きそうになるのを堪え、舞踏会が終わったら必ず返してくれるように頼んだ。


  叔父家族は舞踏会で、まるで我々がブランシュ伯爵だと言わんばかりの態度を取る。


  仮面をつけていても素性は分かるもの。


 両親が生きていた頃とは周りの態度も変わり、ソフィアには誰も声を掛けようとしなかった。


  挨拶が終わり叔父夫妻が世間話にのめり込むと、子供達は自由に動けるようになった。


  ソフィアが会場の隅へ大人しく移動すると、わざわざ取り巻きの令嬢達を連れてアンナが寄ってくる。


「お姉さま、こんな所にいらしたのね、ブランシュ伯爵が壁の花を決め込むなんてあまりにもったいないんじゃなくて?」


  すると、令嬢達がからかうように見下げながら、耳につく高音でまくし立てる。


「ブランシュ伯爵?でも代々の指輪が見当たらないようだけど」

「あら、それならアンナ様の指に光っていますわ」

「ではアンナ様が伯爵様なのかしら?確かにこんなみすぼらしい方よりも相応しいですわね」


  そこで彼女達はソフィアを上から下まで舐めるように見回し、くすくすと笑いを零す。


  アンナ達はたっぷりのフリルにレース、繊細な刺繍を施した流行りのドレスで華やかに着飾っているのに対し、ソフィアは流行遅れの地味なドレスだ。


  ソフィアにはドレスを用意してもらえなかったため、母の昔のドレスの中で、一番装飾が少なく目立たないものを選んだ。


  惨めな気持ちで手をきつく握りこんで、浴びせられる侮辱に耐える。


「それにしてもブランシュ家の皆さんがお亡くなりになるなんて」

「誰かひとり取り残されたらしいけれどお気の毒ね、私なら耐えられないもの」

「ブランシュ家のお兄様が生きてらっしゃった方が良かったのに、あの方は本当に素敵だったわよねーっ」


  令嬢達がきゃっきゃと騒ぎ立てるほど、ソフィアの心は冷たくなっていく。


  この場を離れようとアンナの脇を通ったら、足を掛けられ無様に転んだ。


  会場は一瞬しんと静まり返り、大勢の目がこちらを向く。


  ソフィアはあまりの身の置き場のなさに、逃げ込むように庭園へと走った。

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