第7話 バトル

ピピピピピピ―


目覚ましの音―なわけない。

これはメールの音である。

今朝何時だよ…

「あ、マスター。おはよう…の時間でもありませんね。

こんばんは…?

とりあえず、なんか鳴ってたから携帯を見た。

「……………」

絶句。

「あ、なんか結構、携帯鳴ってましたよ?」

うん。見たらわかるよ?そんなこと。

とりあえず、今の時間。7時30分。

不在着信数、34件。

受信メール数、76通。

そのうち、トパーズからが着信数19件、受信メール数41通。

うん。ちょっとメールしすぎだと思うけど、トパーズは普通に可愛いから許す。

他には、サファイアさんとか、カラットさんとか。

「ん?」

受信メールを見ていると、気になる文が。

「んーと…なになに?“私たちのギルドに入ってみませんか?”」

それは、ルビーからのお誘いだった。


翌日。

朝8時。

ファレメール王国の中心街の近くにある、噴水広場。

俺はそこで、ルビーと待ち合わせをしていた。

と。

「あっ!おっはよー!団長!」

「おはよ。ルビー。昨日はすまんな。なんかぐっすり眠ってたみたいで。」

「いやいや。ちゃんと睡眠をとらないと、倒れちゃうぞー?」

「そうだな。気を付けるよ。」

ルビーは本当に元気がいい。

…これでもちゃんと、貴族…なんだよな?

「あ。そうだ、ルビー。ギルドのことなんだけど。」

「うんうん!」

「ちょっと下見しようかなって。」

「…?まぁ…いいよ?」

「ありがとう!!」

「ん。じゃ、ついてきて」

俺はルビーについて行った。


案内されて着いたのは、小さな酒場だった。

ルビーが先に店に入る。

「おおい!お前らぁ!待たせたなぁ!」

と、中から―

「お。ルビー姉さん!遅かったですね」

「ああ、ごめんごめん。」

「そういえば、紹介したい人がいるって言ってませんでした?」

「それなら、私の後ろにいる団長だ。」

団長。この言葉で酒場にいた全員が動揺する。

「う、嘘だろ…あねさんの…団長」

「なんか弱そう」

「おいおい。ちゃんと仕事できるんだろうなぁ?」

などなど。

なんか罵られてるような気が…。

「こらこら!みんな!団長は強いんだぞ!!」

「「「えぇ…?」」」

うわぁ…めっちゃ疑ってる…

「ごめんね…団長…」

「ん?いや、大丈夫だよ」

仕方ないさ。

どっから見ても弱そうに見えるからな。

と、カフラが後ろから。

「マスター。この方たちを抹殺してもよろしいでしょうか?」

「うん。だめ。」

というより、いつ出てきたのだろうか。全然気づかなかった。

「お、なんだ。そこの嬢ちゃん。俺と遊ばねぇか?へへへ…」

気持ちわるっ!!

「マスター。こいつらをってもいいですか?」

「いや、だめだ。」

殺生はあまり好きじゃないからな。

というより…

まず、どうやったらみんなを納得させることが出来るかだよな…

「ほんとにごめんな、団長…」

落ち込んでる様子のルビー。

「いや、いいよ。」

しょうがないさ。俺みたいなやつが団長なのだから。

もうあの方法で行くか…

「んー…みんな。俺と戦え。もちろん、ルビーも。」

「「えっ!?」」

みんなが俺を見る。

「そ、それは、一対一なのか…?」

お。いい質問だな。

だが関係ない。

「それでもいいし、全員でもいい。」

「「なっ!?」」

みんなが驚く。当然、ルビーも。

「だ、団長…さすがにそれは…」

「ん?ああ、問題ない。」

ほんとは問題大アリなんだけど、こっちにはカフラがついてるからな。

そのときはそのときでなんとかなるさ。

と、一人の男が、

「ほんとに全員でいいのか?」

「男に二言はない。」

「…。へっ!かっこいい台詞セリフ言ってられるのも、時間の問題だぜ?」

「…決まったんなら、場所を変えようか。」

ここは酒場。幸い、今の時間帯は貸切状態になってるので俺たちしかいないけど。

もし普通に人がいたら終わってたな。

場所どうしよう…

「なぁ、ルビー。いい場所ないか?」

うーん…と、しばらく考えて―

「あ、近くに公共のスタジアムがあったはずだよ」

お。ナイス!

でも…公共かぁ…。

人の目が気になるけど…まぁ、いっか!

「じゃあ、ルビー。そこに行きたい。案内してくれ」

「了解」


小さな酒場を出てから歩いて数分。

「うわぁ…人多いなぁ…」

やはり、公共だからか、かなりの人が使っている。

と、ギルドのメンバーの1人が―

「おらおらぁ!そこをどけぇ!!」

と、怒鳴る。

威圧やばいな……

使っていた人々はスタジアムを後にした。

「さて。やろうか?」

…………。

「ああ。形式はどうする?」

形式。

バトルには3つの形式がある。

時間制、ノックアウト制、一本勝負制。

しかし―

「あー。そうだな。はどうだ?」

俺を含めて、ルビーや他の団員も全員目を見開いていた。

「な、何言ってんだよ…アリトス…。私たちの団長だぞ……?殺せるわけないじゃないか!!」

ルビーが反論する。

「甘いな。ルビー姉さん。こいつがルビー姉さんの所属している騎士団の団長か見抜くんだよ。弱かったら団長失格だろ?」

確かに、騎士団の団長であるから強くなくちゃいけない。だからと言って、殺し合いをする必要はないんじゃないか?

と、どこからかカフラが―

「マスター。バトルのとき、代わりましょうか?」

―代わる……?

「私とマスターが入れ替わるということです。」

―そんなことできるのか…?

「できます。まぁ、一種の憑依ですね。」

―憑依……?

「憑依のことはまた後日お話します。」

―わかった。

俺は深呼吸して、ため息をついて。

「俺は殺し合いはしたくない。俺が強いっていうことを証明できればいいんだろ?なら、殺し合いをするよりノックアウト制にした方がいいと思うが。」

「「「………。」」」

みんな黙っちゃったよ…。

しばらくして、メンバーの一人が―

「確かに……力の差を見せつけるなら、ノックアウト制でいいんじゃね?」

と俺の意見に賛成してくれた。

すかさずルビーが、

「そ、その通りだよ!アリトス!何も殺し合うことないじゃないか!!」

「何言ってんだ。この世は弱肉強食の世界だろう?弱き者は死に、強き者は生きる!それだけだ。」

……は?

この世の中、弱肉強食の世界なの?

教えて、カフラ。

「この世界は弱肉強食でもなんでもありません。彼が言っていることは嘘です。」

やっぱりか……。

ありがとう、カフラ。

「いえ。マスターのお役に立てて嬉しいです。」

えっと、とりあえず弱肉強食の世界っていうのは嘘だから、これに関して無視でいいな。

「さぁ、どうする?」

「殺し合いならやめておくよ。」

「おぉ?逃げんのか?殺されるのが怖いのかなぁ〜?」

イラつくなぁ。

しゃーない。ちとしゃくだけど。

「はぁ……。わかったよ。」

彼…アリトスはニヤリと笑い、

「じゃあ、位置につけ。」

と言う。

俺は何も言わずにそこに立つ。

「じゃあ、ルール確認だ。お前一人に対し、こっちは全員でやらせてもらう。」

「あぁ。」

「時間制限はなし。殺し合うまで戦う。いいな?」

「……あぁ。」

「じゃあ、始めるか。」

「あぁ。」

「準備は出来てるか?」

「あぁ。」

「死ぬ覚悟はできてるな?」

「……俺は死なない。」

「は……?」

「なぜなら。お前より俺の方が強いからだ。」

「へぇ〜。いつまでそんな口が叩けるのかなっ?」

先制攻撃をされた。

まぁ、当然のようにガードするんだけど。

と、次から次へと攻撃を繰り出してくる。

「おらおらおらおらおらおらおらぁ!!!どうしたどうしたぁ?守ってばっかりじゃねぇかぁ!」

こいつ……

随分挑発的な言葉だね。

俺は守っているよりも、攻撃を受け流していると言った方が正しいだろう。攻撃なんて、何一つ当たってないのだから。

「おい!お前ら!なにボサっとしてんだ!やれぇ!!」

次の瞬間。

「アリトス。君には失望したよ。私は団長について行く。このパーティも解散だ。」

ルビーが蔑んだ目でアリトスを見る。

「なっ―!?それはどういうことですか!?」

「周りを見たまえ。君の発言を聞いて、町中の人達が集まってきた。これじゃあ騒ぎになること間違いなしだ。万が一、君が団長を殺したら、このパーティはギルドのブラックリストに載る。見つかれば処分されるだろう。アリトス……。あまり身勝手な行動はやめてくれ。それじゃあね。」

と、俺の方に来た。

ついでに、他のメンバーも。

「お、おい!お前ら!なんでそっちに行くんだよ!」

「アリトス。君の行動一つでこのパーティ全員が連帯責任を負ってしまう。他のみんなもそれが嫌なんだ。それぐらいわかってくれ。」

「なっ………!?」

「さて。状況が変わったねぇ?」

「うるさい!お前は黙ってろ!!」

俺は鼻で笑って、

「仲間から見捨てられて。可哀想に。」

と、トドメの一撃を入れる。

チラッとアリトスを見ると、彼の顔は絶望に染まっていた。

「さて。どうする?続きする?」

「うるさい!!!うるさいうるさいうるさい!お前ら全員殺してやる……おらぁぁぁぁああ!!」

おいおい……。

さてはこいつ。

馬鹿だな?

「殺させないよ。ルビーも、他のメンバーも。」

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

自我を失っている。

彼は発狂しながら真っ先に俺に向かってきた。

殴り、蹴りを続ける。

が。俺はそれを全部避ける。

避けながら―

「はぁ……。もうお前に勝ち目なんてないんだけどなぁ。まだ続けるのかい?」

と、問う。

しかし彼は何も言わずにただ攻撃をしてくる。

しゃーない。一撃で終わらせたいし。能力でも使いますかな。

んー……何がいいかな。

「マスター。【インパルション】というのはどうでしょう。」

「インパルション……?」

「インパルションは、折紙操作で使うことができます。効果は、防御&特殊攻撃。ちなみにアレンジもできますが、アレンジなら完全に特殊攻撃に特化した、アレンジ3がオススメです。」

「んー……じゃあ、アレンジ3にするか。んで、特殊攻撃って?」

「アレンジ3なら、敵に残りのHPの99%攻撃です☆」

ちょっと待って。それ強過ぎない?

「ただし、成功率というのがあります。この攻撃に関しては成功率10%です。」

じゅ、10%……

しゃーない。賭けるか。

さて。じゃあ作るか。インパルションアレンジ3のパーツ1つ1つを頭の中で作って、組み立てる。組み立てたら手のひらにそのユニットを優しく持つイメージをする。

手の上に、うっすらとインパルションアレンジ3が出てくる。

それを今も尚攻撃してくるアリトスに向け―

「インパルション、アレンジ3」

と冷たい声で言う。

【インパルションアレンジ3、発動シマス】

………………。

発動…したのか?それとも失敗したのか……?なんにせよ、成功率があれだけ低いんだから、成功したら奇跡としか言えないよな……このユニット、大事な場面で使うのはやめよう。

と、色々考えていたその時。

アリトスの頭上に、巨大な何かが近づいて来た。

「………?」

アリトスは上を向き、不思議そうにしていた。

もしかして……あれが99%攻撃をするやつか……?

なんか、死神っぽい感じの雰囲気だけど……

そのとき、どこからか声が聞こえた。

「我、マスターに呼び出されし者。マスターの権限において、汝の力、奪わせてもらう。」

するとアリトスの頭上を何かが音を立てて―

消えた。死神っぽい感じのなにかも、同時に消えていた。

なんだったんだろうか……。

アリトスの方を見ると、アリトスはひざまずいていた。

「ち、力が入らねぇ……なんだこれは!!」

1人で喚いていた。

「カフラ。あいつの今の状態は?」

「HPはまだ少しだけ残っているものの、精神的な攻撃により、全身に力が入らない状態になっております。話すことはできるみたいですが。」

なるほど。じゃあ、もうこれで終わりだな。

「おーい、ルビー!!」

「……っ!?あ、だ、団長!!」

少し離れたところにいたルビーだったが、小走りで俺に近づいてきた。

「大丈夫、団長?」

「ああ。アリトスはもう戦えない。この戦い、俺の勝ちでいいよな?」

「も、もちろんだよ!!団長の勝ちだよ!」

こうして、俺とアリトスの戦いは終わった。


しばらくして、警備員らしき人たちが来た。

かなりの騒動になってたから、誰かが通報したんだろう。俺は注意を受けただけで済んだが、アリトスは様々な暴言を吐いていたし、ルビーのギルドをブラックリストに載せようとした罪で、連行された。

「だ、団長……」

「ん?」

「うちのギルド……入らない?」

あー……

そういえばそんな話があったな。

「みんなも、団長の強さは分かったみたいだから、納得してるよ!」

他のメンバーも頷いている。

俺は少し考えたあと。

「ごめん、ルビー。せっかくのお誘いだけど、断らせてもらうよ……。」

「そ、そっか……」

今回のこともあったし、しばらくはギルドに入る気はないな。

「じゃあ、また明日な。」

「帰るの?団長」

「うん。疲れたから休みたい……」

ルビーがクスッと笑った。それにつられて俺も笑った。

「ありがとう、団長」

「うん」

「じゃあ、はばたき!」

【はばたき、起動シマス】

「気をつけてね、団長!」

「もちろん!」

俺は軽くジャンプして、空を飛び、家に帰った。


「かっこいい方でしたな。ルビー姉さん。」

「うん。私たちの頼れるかっこいい団長だよ。」

みんな、笑った。

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