歪んだ黒猫

夏目礼人

あいつ

どうもあいつは手馴れているみたいだ。


きっとこれまでも、自分の身に起きた問題を、とにかく無視してやり過ごしてきたのだろう。


力業で、問題がまるで無かったことのようにふるまう。あいつの無意識は、自分がついている嘘を見ようとしない。

見ようとしないどころか、自分でついた嘘を信じこむ。弱い立場を利用するために、ただひたすら被害者で居続けたいために。


そうやって歪んだやり方を繰り返した結果、あいつは黒猫と呼ばれるようになった。


それはいびつな黒猫だ。


迷惑をかけた相手に対しても、あいつは自分の作り上げた嘘の世界を強要する。


あいつはまた何かを抜き取ろうとする。いじめられた可哀想な黒猫は、そうやって次のターゲットに近づく。嘘で固められた可哀想な黒猫の世界。


自分につき続けた嘘と、問題から目を反らし続けた結果として、あいつの今がある。もう一線はとっくの昔に越えてしまっているのだ。


そうやって、あいつが選んだ自分の象徴が黒猫というわけだ。自分でも気づかないくらい手馴れた嘘に黒く汚れてしまった猫。それがあいつをあらわしている。

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