第29話 ワレワレハ ウチュウジンダ

 ノリブを追い、撃ち、斬る。

 俺達は相変わらず、前線にいた。

 武尊ほたか みぎり。字面がどうにも強そうに思われるが、それは誤解だ。俺自身は努力とか根性とかいう言葉には程遠く、ほどほどに、恙なく人生を送りたいと思っている、省エネ推進派だ。国がどうの、人類がどうの、国民がどうのというのは、家族がやればいい。

 父、意周おきちかは日本国総理大臣、母早希は脳神経研究の権威、兄、国祟くにたかは200年に1人の天才と言われる工学博士、姉伊緒は元フィギュア女王にして現在は美しすぎる外交官としてメディアに度々登場している。

 そんな華麗なる武尊家の中で、唯一異色というか、落ちこぼれているのが、俺である。何をしてもそこそこはできるが、そこまで突き抜けてできるわけでも無い。地味なのだ。武尊家の中で、浮いている。家族写真が雑誌の取材で出る事があるが、いつからか、俺は加わらなくなったくらいだ。

 そんな俺なのに、徴兵制度によって宇宙に学兵として上がり、訳の分からない内に試作機フェアリーのパイロットになって前線に送り込まれていたのである。

『ギャアア!!取れない!取って!外して!』

 物凄い声がしてそちらを見ると、明彦のノームが、腕の先にノリブを突き刺して振り回していた。

 古谷明彦ふるやあきひこ。同じく学兵で、試作機ノームのパイロットである。元気で明るい肉体派。勉強は大嫌いな、前衛だ。

 新装備のパイルバンカーを試したらしいが、腕の先のパイルがノリブの固い装甲を突き破ったのはいいものの、抜けなくなったらしい。

 新装備は、時々こういう困ったものもある。

『ジッとしててねぇ』

 言って、狙撃してノリブを粉砕して外したのは、降谷真理ふるやまさと。同じく学兵で、試作機ウィッチのパイロットである。おっとりとした優等生で、狙撃担当だ。

 この3人が学兵5553班のメンバーで、もとは、突っ込み過ぎる前衛と慎重過ぎるスナイパー、中途半端なオールラウンダーの、GO GO ゴミ班と呼ばれていた落ちこぼれだ。一緒に前線にどんどん近付いて行き、試験艦あすかまで辿り着いた仲である。

「だめだな、それ」

 ノリブをブレードで斬りながら同時にビットで別のノリブを射撃で撃墜しつつ、俺は言った。

『焦ったあ。食われたかと思ったぜ』

『ノリブは、食べないよね』

『それでも怖かったんだよお!』

 あはははは、と笑いながら残りのノリブを片付け、ビットを収納して合流する。

 大きな群れを片付けたからか、人類の天敵と呼ばれるノリブもこのところ少なく、こうしてはぐれノリブを片付けるくらいの毎日だった。

「じゃあ、帰るか。

 バード1よりあすか。今から帰艦・・・何かいるぞ」

 俺は、勘に引っかかった何かを探すように、辺りを注意深く探った。敵意ではないが、観察されているような感じがする。

 レーダーに反応は無い。だが、念の為にビットをもう一度出す。

『いねえぞ?』

『ステルスなのかな?』

 明彦と真理も、辺りを探す。

 と、真理が狙撃用の長距離レンズで何かを見付けた。

『あ。ホントに何かいるよぉ』

 ステルスもインビジブルも完全ではない。その気になって見れば、不自然なのだ。

 だが、

『逃げられちゃった』

と真理が続ける。

「まあ、あすかに帰ろう」

 俺達は、あすかに帰艦することにした。


 操艦室兼パイロット控室兼俺達学兵の教室である操艦室の後ろの席で、隊長や先輩達と先程の観察者について考えていた。

「敵じゃないなら、どこかの国が見ていたんじゃないか」

 ヒデこと北原秀久一尉が言う。爽やかで真面目な、オールラウンダーにして副隊長だ。

「でも、隠れっぷりが上手い。この技術に思い当たる国が無いし、1機だけというのがな」

 唸るのは、ユウこと久保優司二尉だ。いつも冷静で物静かなスナイパーである。

「開発したんとちゃうか」

 大阪弁は、タカこと高島光良二尉。筋肉大好きな明るい前衛だ。

「まあ、気を付けておこう。あすかは機密の宝庫だからな」

 締めたのは、明智由則二佐。飛行隊隊長であり、あすかの艦長でもある。タックネームはノリだが、俺達は隊長と呼んでいる。ワイルドで、割と怖いもの知らずなところがあるようだとわかってきたが、頼れる上司だ。

「嫌な予感がするなあ。なあんかお前らって、引き寄せるだろ?面倒なもの」

「隊長、濡れ衣ですよ」

「冤罪だぜ」

「酷いなあ」

 俺達が抗議したものの、

「胸に手を当てて、よーく考えてみろ?な?」

とタカに言われ、考えた末、その通りだと認めざるを得ない事に気付いたのだった。

 そしてそれは、数日して露わになった。

 通信担当の峰岸さんが、告げる。

「見た事の無い船がコンタクトを取って来ました。照会コード、ありません」

「誰だ?何と言ってる?」

「はい。『ワレワレハ、ウチュウジンダ。カイダンヲ、コウ』」

 全員、顎が外れるんじゃないかという程驚愕した。



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