ベルカ研の二人

「間違いない! バアルじゃ!」

「あれが!」

 

 各地に現れたデーモンの対応に追われていたベルカ研が、バアルの出現を把握した。

 モニターに映ったデーモンの姿をみたブエルは、不快極まる記憶の中からバアルの特徴と紐付けて確定させた。

 

「ミッドタウンのデーモンハンターはバアルを集中して狙え! アーチボルト隊は住民の避難を急がせて!」

 

 この日のために各地からデーモンハンターやアーチボルト家の私兵をかき集めてきたのだが、どうにも数が足りない。せめて軍と警察も動かせれば良かったのだが、政府は頑なに軍を出してくれなかった。

 

「軍部への通信は途絶えさせるな、なんとしても援軍をださせるんだ」

「はい」

 

 通信士への命令を出して、ドクターは一息吐く。元々ドクターは研究者であり、こうして戦闘指揮をとるのは向いていないのだ。ゆえに余計に疲れてしまう。

 

「エヴァンはどうしてる?」

「今チャイナタウンにおるぞ、交戦中じゃ」

「バアルと戦わせられるか?」

「いや、無理じゃろうな。奴と戦えうにはデオンかクラウザーがおらんと」

「デオンとの連絡はまだとれないのか!?」

 

 デオンはこちらへ帰る途中、乗ってた飛行機が墜落して行方不明となっている。デモニアックである性質を考えると死んだとは考えにくいが、連絡がつかないので何もわからない。

 

「バアルの動きが止まりました」

 

 ハッとしてモニターを見る。オペレーターの言う通りバアルは大人しくなっているが、その周辺には死体が山のようにつみあげられている。最早道路は大量の血で変色している程だ。

 一体どれ程の人間を殺したのだろうか。

 

「ヤツめ何をするつもりだ」

 

 バアルの動きが読めない、しかしバアルの特性を考えれば簡単な話であった。

 

「奴は恐怖を煽るつもりじゃ」

「そうか確かバアルは恐怖を糧にしていたな」

「うぬ、そして恐怖とは知る事から始まる」

 

 それはつまりバアルが大々的な宣伝を行うということ。

 答えを合わせるかのように垂れ流していたニュース画面が突如バアルを映し出した。

 

「電波ジャックじゃ!」

「古典的な手を!」

 

 しかし有効な手である。

 

『皆さん、バアルです。見ての通りデーモンです。いけませんねぇ、私はこういうのは苦手なんですよ、ですので手短に済ませたいと思います。

 たった今、たくさん人を殺しました。見えます? ここにいっぱい死体があるんですよ、楽しくないです? 私は楽しい。

 これからもっともっともっともっともっともっともっとたくさんたくさんたくさんたくさんの人を殺して殺して殺していきます。

 テレビの前の皆さんは是非ともその様子を見ていただきたい。

 マンハッタンにいる皆さんは、お気の毒ですがお亡くなりになってください。

 ひとまず以上です』

 

「ふざけてる!」

 

 ドクターが怒りを顕にする。

 

「そう、奴はふざけてる。しかしそのふざけてる姿がより恐怖を感じさせるのじゃ」

 

 圧倒的な力に対する恐怖はわかりやすい、未知への恐怖は底知れない。バアルはその二つで人々へ恐怖を植え付けていってる。

 あろう事か文明の利器と通信網を利用すらしている。バアルが最盛を誇っていた三千年前より今の方が恐怖を与えやすいかもしれない。

 

「どうにかしてこの放送を止めれないものか」

「奴がエンパイアステートビルに陣取ってる限り無理じゃの」

「そうだった、エンパイアステートビルは電波塔の役目も果たしてたんだった」

 

 放送はバアルの姿から切り替わり、マンハッタンのあちこちで起きているデーモンを映し始めた。そのいくつかはデーモンハンターが討伐していたり、警察が対処していたりするが、多くはデーモンに食い散らかされる人間の映像だった。

 

「バアルはマンハッタン中で起きてる出来事を見せて更に恐怖を集めようとしとる」

「これはチャンスかもしれないな」

「ドクターもそう思うかの?」

「あぁ、恐怖を集めるのが目的なら大規模な攻撃で一瞬のうちに終わらせる事はしない筈だ」

 

「うむ、奴の性格からしてもそれは有り得んじゃろて」

「ならばバアルは電波塔であるエンパイアステートビルの防衛のためにあそこを動かないのではないか?」

「朕も同感じゃ、見張りを残して他の地区に人を回し」

「その間にあの四人を集めれば」

「勝つ見込みがでてきたぞい」

 

 まずは連絡のとれるエヴァンからだ。今の彼ではあまり大した戦力にはならないが、一つ博打に近い手を打ってある。

 それはエヴァンの執事であるレイノルドがどれだけ上手くやりきれるかにかかっているが、その心配は必要ないようだ。タイミングよく危惧を払拭する人物達が研究室に入ってきた。


「よく来てくれた。我々は君達を待ってたよ」

 

 

 

 

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