スティール・フェデレーション 〜4人のヒーロー〜

芳川見浪

マジック・マスター 編

傲慢な大賢者


 とある街の大通り、人通りの多く、曲がり角のない真っ直ぐな石畳の地面を、フードを目深に被ったローブの男が歩いている。

 不意に目の前にあった魚屋の屋台が突如ガラガラと音をたてて崩れ落ちた。

 その屋台の店主は、崩れる前に「ヒィィ」と小さな悲鳴をあげながら、売上を持って何処ぞへと逃げていった。

 崩れた屋台の下から、腰に剣を携えた人相の悪い男が現れる。どうやらこの男がぶつかったため崩れたらしい。

 

「てめぇやりやがったな!」

「最初に手を出したのはお前だるぉが!」

 

 屋台を壊した男の視線の先には、これまた同じくらい人相の悪い男が、剣を引っ提げて立っていた。握りしめた右の拳は少し赤くなっているのを見ると、どうやらこの男が殴り飛ばしたせいで屋台が壊れたようだ。

 ようはよくある喧嘩である。

 

「顎の骨の一つや二つ覚悟しろよおらぁっ!」

「顎の骨は一つだけだっ!!」

 

 二人の男は睨み合いながら剣を引き抜く、同時に空いた手でポケットから真っ赤な晶石を取り出して、剣の柄に装飾されているスロットに嵌め込んだ。

 するとその剣が淡く光り、刀身に紋様が浮かび上がる。

 

「やべぇ、あいつら魔道士マジックキャスターだ!」

 

 彼等を遠巻きに見詰めていた民衆の誰かが呟いた。

 それを機に野次馬の輪が少しずつ広がり始める。

 

 最初に屋台側の男が剣を振るった、踏み込みもなく間合いの外でも関わらず、男は片手で力一杯横薙に振るう。すると切っ先から炎が吹き出て剣閃に合わせて尾をひいた。炎は直ぐに消えたものの、一部周囲の屋台に引火してしまい火災を引き起こし始めた。

 

 対する殴り飛ばした男の方も剣を振るって炎をだす。僅かながら屋台側の男よりも炎の勢いが強いため、勝ち誇った顔をする。

 そしてこの男の炎もまた火災を広げる事に一役買ってしまうのだが、本人達には気にする素振りがない。

 

「大変だ、早く警衛隊を呼べぇ!」

「誰か水の晶石をもった魔道士マジックキャスターはいないのか!」

 

 それまで喧嘩を面白半分に見ていた民衆達は、広がり続ける火の手を前に狼狽え、恐慌状態となる。

 それでも男達は自らの力を誇示する事をやめたりせず、炎を出したり剣戟を繰り広げたりしている。

 

 殴り飛ばした方の男の剣が屋台側の男の頬を掠める。横に流れた剣先から炎が吹き出て鱗粉のように周囲へ飛び散る。その炎の鱗粉の一部が、様子を伺っていた長いフード付きのローブを羽織った男に引火した。

 

「あっつぅ!」

 

 案の定炎はローブの先に引火する。直ぐに消したものの先っちょが焼け焦げてなくなってしまった。

 

「満月三回分も愛用した俺のローブを!」

 

 恋人並に愛していたローブが焦げてしまったゆえ最早怒り心頭である。

 その怒りの衝動のままに一歩を踏み出して男達へ近寄る。

 

「おいっ! てめぇらがどこで喧嘩しようが勝手だ! だがな、俺様に被害をもたらしてんじゃねぇよ! 愛用のローブが焼けちまったじゃねぇか!」

「なんだお前は?」

「邪魔をすんじゃねぇ!」

 

 当然ながら男達は怪訝な表情である。

 ローブの男は徐に腰から掌サイズの青くて小さな晶石を取り出した。そして左手をローブの下から掲げて男達へ突き出す。左手には篭手が装着されていた、その篭手には何かを差し込むスロットがあり、そこに先程の晶石を差し込んだ。

 

「まさかてめぇも魔道士マジックキャスターか!?」

「大方お前も賞金につられて討伐軍に参加したくちか?」

「あん? 俺様を知らないとかてめぇらモグリか?」

 

 ローブの男は晶石をセットした篭手を高らかに掲げると、拳をぎゅっと握る。その瞬間篭手から青い塊が発射されて上空で弾けた。

 青い塊は水だったようで、それは小さな雨として周囲に降り注いで燃え広がり続ける火を消し止める。

 

「あんな僅かな晶石でここまでできるとは、中々の腕前のようだな。水の魔道士マジックキャスターよ」

 

 どことなく余裕の笑みを浮かべつつも驚愕の表情でいる屋台側の男が言った。

 ローブの男はあからさまに不快感を表した。

 

「ちっ、知らないなら教えてやる俺様の名前はクラウザーだ。それと魔道士マジックキャスターじゃねぇ、魔道士マジックキャスターより上位の存在、大賢者マジックマスターだ。

 畏れと敬意と服従の意味を込めて俺様の事はマスター・クラウザーと呼べ。

 わかったら大人しく降参して有り金全部だしな、ローブの修理費と屋台の修理費とみんなの迷惑料だ」

 

 その後、マスター・クラウザーによる一方的な暴力が開始されるのだが、割愛しておく。

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