隣の料理人

 飲食店にて。


 ここで働いているものはほとんどが若者で唯一五十代の店長が仕切っていた。


「店長ってさ、なんかいつも調理しないでさぼってるだけに見えるのって俺だけ?」

「俺も思いました。でも、昔からの常連さんには好かれてますよね」


 店長はたまにひょっこりと現れてはどこかへ消える不思議な人だ。


 確かに調理しているところなど見たことが無い。


「あっ、店長来たよ」


 噂をすれば、というやつだろうか。

 前から店長が現れた。


「よぉ。店の状況どうかよ」

「いつも通りです。そういえば店長って自宅で料理とかってします?」

「まあするよ」


 嘘だろ。

 奥さんも子供もいると聞いているのにわざわざこの店長が料理するはずない。


 俺も先輩も戸惑いながら相づちを打つと店長は足早にどこかへ行ってしまった。


「店長、どこへ?」

「たぶん調理のほう見に行ったよ俺らもちょっと覗いてみようぜ」


 俺たちはこっそりと未確認生物を見に行くかのようにのぞいた。


「フフーン、昨日はみんなに褒められちまったからなぁ」


 そこには鼻歌を歌いながらサツマイモの皮を手慣れた手つきでむいている店長の姿が。


 一瞬目を疑ってしまった。

 店長はこちらに気づいたようだ。


 来いよ。と言いながら


「おう。まだ君たちにふるまってなかったからよ今日は作ってやるからな。昨日家族に褒められちまってよ、とれたてのこいつで特製の料理作ってやるよ」

「店長…」


 店長はここの誰よりも嬉しそうに食材に魔法をかけていた。


 

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