第2話 時計

マナミ「起きろ〜」

タクロー「起きてるよ。ってかみてから言えよなぁ」


昨日突然タクローの日常が変わった。

…はずだったのだが、タクローは適応能力が高いのか、ただ鈍感なのか普通である。


タクロー「でっ。俺は普通に生活してて構わないんだな?」

マナミ「うん。私は適当にやってるから気にしないで大丈夫よ。」

タクロー「ほれ。」

マナミ「えっ、鍵?」

タクロー「俺は大学とバイトがある。夜9時までは帰らないから必要だろ。」

マナミ「ありがとう。鍵と、信用してくれて。」

タクロー「信用と言うか、まだよくわかんないけど、悪人にはみえないし。」

マナミ「悪人かもよ〜。」

タクロー「かもな。もしそうだったら人間不振になるな。俺。」

マナミ「痩せちゃうね。」

タクロー「かもな〜、って俺そんなにデブじゃねーし。」

タクロー「小太りくらいだし。」

タクロー「ポッチャリくらいだし。」

マナミ「自分で言っるし。」

タクロー「まっ、なんでもいいや。」

マナミ「いいのか、それで。」

タクロー「ってかさ、マナミ学校とか仕事ないの?そういやなんも聞いてないな。」

マナミ「私も学生よ。一応ね。ただ私の学校今休暇中なのよ。その間この街に用があってさ。」

タクロー「そっか。」

タクロー「じゃっ、俺行くわ。」

マナミ「いってらっしゃーい。」

タクロー「えっ、お、おー。」

タクロー「いってきます。」


大学までは歩いて10分くらい。

バイト先もアパートから5分くらい。

スーパーもコンビニもアパートからは徒歩3分くらい。

徒歩10分圏内で生活は成り立つ。

なのでタクローはこの街にきてから3年間、徒歩10分圏外にはほとんど行った事がないのだ。そんなに大きな街ではないが。


タクロー「なあ、頼みがあるんだが。」

シュン「なんだよー。真面目な顔して気持ちわりなー。」


シュンはタクローの唯一の友達である。

タクローは面倒くさがりなので大学のほとんどは知り合い程度の関係。

このシュンだけが友達と呼べる関係なのだ。


タクロー「お前ん家時計屋だろ。朝寝坊しないような目覚まし時計ない?」

シュン「なんだ。そんな事かー。真面目な顔して言うからもっと面倒くさいことかと。」

タクロー「予算千円!」

シュン「そーいうことかー」

シュン「よしっ、わかった。二千円!」

タクロー「千五百円!!!」

シュン「わかった。わかったー」

シュン「デザイン、機能、俺チョイスな。」

タクロー「起きれればなんでも。」

シュン「でもなんでいきなり?お前朝全然弱くないだろう。」

タクロー「起きれない日が来るかも。」

シュン「意味わかんねー。まっ、わかったから任せろな。」

タクロー「たのんます。」

シュン「おう。じゃあ、また明日な。」

タクロー「じゃあなー」


バイト先にむかうタクロー。

徒歩数分のピザ屋がバイト先である。

タクローの担当はバイクで配達。

そう、この時だけはタクローの行動範囲外に行くのだが、それでも常連さんが多いせいかいつも近くばかり。

今日もそんなに忙しくなく、遠くへ行くこともなく勤務終了。


ガチャ


マナミ「おかえりなさーい。」

タクロー「ただいま。」

タクロー「マナミ飯食った?」

マナミ「あっ、そっかー、忘れてた。」

タクロー「ちょうどよかった。ほれ、バイト先で買ってきた。」

マナミ「あ〜、お腹すいてきたー。」

タクロー「忘れてたくせに。」

マナミ「だっていいにおいするし。」

タクロー「ピザ食べれる?好き嫌いとかは大丈夫か?」

マナミ「好き嫌いはあまりない。私あんまり食べたことないんだー。ピザって。」

タクロー「珍しいなー」

マナミ「私の住んでる近くになくてさ。」

タクロー「まっ、食べよーぜ。」

マナミ「いっただっきまーすっ。」


タクロー「っあ〜、食った食った。」

マナミ「あー、美味しかったー。ごちそうさまでした。」

タクロー「で、今日はどっか行ったの?」

マナミ「うん。少しだけ歩いてみた。駅の近くの柱の時計あるとことか。」

タクロー「あー、時計塔ね。」

マナミ「時計塔?」

タクロー「一応時計塔らしいよ。見るからに柱時計って感じだけど。」

マナミ「柱時計だね。あれは。」

マナミ「あとは調べてる事、修理するものとかあってさ。」

タクロー「修理?」

マナミ「学校で製作したやつの修理?私機械ってうか、そういう関係の学校だから。」

タクロー「そっかー。そこに置いてある黒いスイカみたいなやつも機械かー。」

マナミ「そー。これの修理が大変なの。」

タクロー「それなに?」

マナミ「これはわかりやすく言うとー、」

タクロー「あーっ、やっぱいいや。聞いてもわかんないし、難しそうだから。」

マナミ「難しいかも。説明が。」

タクロー「よし、わかった。なんかわかんないけど修理頑張れ。」

マナミ「今面倒くさいこと聞いたと思ったでしょ?」

タクロー「……」

マナミ「正解だね。」

タクロー「はい。正解。」

マナミ「わかりやすっ。」

タクロー「明日は俺大学終わったらバイトないし、どっか行きたいなら案内できるけど、行きたいとこある?」

マナミ「ある。なんか小さい橋で、橋渡る前にベンチとかあるとこ。」

タクロー「あっ、あの橋だな。あんなとこ行きたいわけ?」

マナミ「おばあちゃんに写真で見せてもらった事あって。おばあちゃん昔この街に住んでたらしくて。」

タクロー「へー。色々共通点あるな。」

マナミ「今のところ共通点これしかないけど。」

タクロー「そーいや、そーだな。」

マナミ「適当だなー」

タクロー「だなっ。」

タクロー「じゃあ明日大学終わってだから、15時くらいに時計塔で待ち合わせな。」

マナミ「橋ってそっちの方なの?」

タクロー「そう。駅の裏の方なんだ。だからここに戻ってくるより大学から行った方が近い。」

マナミ「わかった。じゃあ柱時計で待っるわ。」

タクロー「ってか時計塔な。あれ一応。」

マナミ「じゃあ時計塔で。」

タクロー「そろそろ寝るかぁ」

マナミ「そーだね。おやすみ〜」

タクロー「おう。」

マナミ「おーやーすーみ〜っ」

タクロー「はいはい。おやすみー。」


タクローは昨日、今日の出来事を考えた。

冷静に考えればとんでもない事が起こってるはずなのに、あまり違和感がない。

「やっぱ親戚なんだなぁ。」

タクローの単純な思考回路が導き出した今のタクローなりの答えである。



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