第3話 唐突におとずれる


 それは、ノートの下書きが話のクライマックスに達したあたりで、唐突におとずれました。

 とつぜん話が勝手に動き出したのです。

 ぐるぐるぐるぐる、勝手に回る感じでした。キャラクターたちの動き、言葉、物語の進展。なにかが勝手に動き出して、もう止まらなくなったのです。

 ぼくは、ノートに最後のセリフを書きこんだのち、原稿用紙にこの「AG」の物語を記し始めました。


 楽しかったです。キャラクターたちは自由に動き回り、言葉は流れるように紡がれます。描写もセリフも、キャラクターたちの細かい動きも、すべて自動で筆記されてゆきます。ぼくが書いているのに、まるで誰かが書き込む小説をそばから眺めているようでした。


 そして、物語への没入感も半端なかったです。書き終えた後、強烈な喪失感を受けたことをいまでも覚えています。


 もしかしたら、あの喪失感は、小説を書き終えた達成感からくるものではなく、じつはあのとき自分が失ってしまった、小説を書く能力の喪失を無意識のうちに感じていたのかも知れません。そのときはそんなこと考えもしませんでしたが、いま思い返すと、そうなのかな?とふと考えてしまいます。


 このとき、ぼくは自分が小説を上手く書く力を手に入れたと思いました。そしてあの執筆中の高揚感と物語との一体感をふたたび感じたいと願いました。


 そして、次の長編を書きます。

 決して悪い出来ではなかったと思います。ただ、「AG」のときのような高揚感は感じませんでした。そして、書き上げたとき、こう思ったのです。

「ま、こんなもんだろう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る