番外編 メリー・クリスマス ♥️

とある寒い日のお昼の公園を付き合いだして間もない三姫と悠仁は散歩をするために訪れてた。


こんな低気温の中を歩く人はあまりおらず、公園はほとんど貸切状態。


今日はゆっくりしていられるわ!

この人気のなさに三姫はほっと胸を撫で下ろす。

久しぶりに女性からの厳しい視線がなくてほっとするわ~!

今度行きたい洋菓子店の話など、たわいもない会話して、のどかな一時を楽しんでいたところ、いきなり悠仁さまが何かを思い出したように『あっ』と声を出されたの。


「私とした事が....すっかり忘れていた。」

悠仁さまはいきなり歩くのをやめると私の方を向く。

「クリスマスって知ってる?」



『クリスマス』



それを知らなかった私はこの一言をきっかけに今まで味わった事がない特別な12月25日を迎えることになったの。



ークリスマス当日ー


「よしっ!」

濃紺のバッスルドレス(ヒップが強調されているスタイル)に3粒の丸い小粒のダイヤモンドが縦に繋がったイヤリングとネックレスを身に付けた三姫は意気込みながら銀座に降り立った。 どれもこの日の為に用意した新品。質素だが品のある大人の装いである。


待ち合わせ場所の銀座に着くと、燕尾服を着た悠仁が先に着いており、何時もと変わらない様子で待っていた。


悠仁は三姫の片手を取ると手の甲にキスを落とし「ごきげんよう」と挨拶する。

あまりにも華麗な仕草に三姫の胸の鼓動が高鳴り、体が暑くなる。

「じゃ行こうか。」

三姫の心中に全く気付かない様子悠仁はそのまま三姫の手を自分の腕に添えるとレストランへ足を向けた。


「三姫がそういう色を着るの珍しいね。てっきり桃色系を着てくると思ったよ。」

悠仁が素早く何時もと違う雰囲気の三姫に気がつく。

「私だってこういうのも着ますわ。」

「新鮮でいいね。」

「あっ、ありがとうございますっ...!」

珍しく率直に褒められた三姫は調子を狂わせられ思わず声がうわずる。

てっきり、『子供が大人の真似をしてどうするの?』とからかわれるかと思ったのだけれど。

「今失礼な事を考えていない?」

「ま、まさか!考えてないですわ~。」

三姫は両手を顔の前でブンブンと振る。

相変わらず鋭いこと...。冷や汗が出るわ...。あっ!

「このレストランでしょうか?」

悠仁の気をそらそうと三姫は目の前の建物を指す。


「椿さま、お待ちしておりました。」

中からレストランの案内人が出てくると、予約客の顔と名前を覚えているのか、悠仁をみるなり迷いなく名字を言い2人を中へと案内した。

「こちらがメニューでございます。」

ウェイターからメニューを受けとった三姫はじっくりと読み出す。

ん~胃に優しいものはどれかしら?

三姫は以前、悠仁と友人のエドワードの3人で食べたカレーが原因で胃に激痛を起こして以来、材料をよく読むようになっていた。

「三姫?何時もよりメニューをみてどうしたの?あーひょっとして前回のカレーで痛い目にあったから慎重になってたりするのかな?」

ついつい何時ものからかい癖を出した悠仁は少し愉快な声で話しかける。

「ま、まさか、ここのレストランはとても有名らしくて、どれを食べようか悩んでいただけですわ。オホホホホ。」

「ふーん。でも、そのメニューはお酒のだけど?」

「えっ!?あっ、知ってますわ。ど、どれを飲もうかしら?」

お酒を飲まない人からすれば、小難しいカタカナメニューは全て食べ物にしか思えなかった三姫は狼狽える。

「お決まりでしょうか?」

悠仁のアイコンタクトを受けたウェイターが注文を聞きにやってくる。

ちょっと待ってまだ決まってないわ!

まだ決まってない三姫をよそに、「三姫はこれで、私はこれを。」と悠仁は三姫の要望を聞かぬまま、2人分の飲み物を勝手に頼んでしまう。


ー数分後ー


「お待たせしました。」

注文した、というより注文された飲み物がやってくる。

ど....どうしましょう.......

お酒にめっぽう弱い三姫は、目の前に置かれた、泡立つ透明の液体が入ったワイングラスを凝視する。

「おや?飲まないの?せっかく三姫の為に選んだのだけどね?」

慌て出した三姫をからかうのは、悠仁の困った癖だ。

いつかこの恨みは返すわ!......飲むわよ!えいっ!!

一生無理だろうが悠仁への復讐を誓うと、三姫はワイングラスを口元へ運び、勢いよく中の液体を流し込む!


えっ......うそ?これって......




「お水!?」


何の味もしない。ただ味わった事のない刺激が口の中に広がる。

「それは炭酸水でね。水に重曹を入れたものだよ。弾けるような感覚があったと思うけど、それが炭酸の力。お酒じゃなくて安心した?」

「普通に『お水あるよ~』と言ってくれてもいいではないですか!?」

アルコールではないことに安堵した三姫は目を潤わせる。

「三姫だってカレーの事を認めて、素直に『お酒飲めません~』と言ったら教えたよ?」

「も~う、ゆー...」

「お待たせしました。」

三姫が言い終わらないうちにウェイターが料理を手に持って現れる。

さっきから私の存在、無視されてないかしら??

「お料理っていつ頼んだのかしら?」

飲み物しか注文していなかったはずなのに....あら、美味しそうなスープ!

料理が目の前に置かれるとウェイターはまた去っていった。スープ皿からはいい感じに湯気が出ている。

「今日はディナーだからメニューは最初から決まっているんだよ?」

悠仁は知っているよね?とこれまた意地悪っぽい笑みを浮かべる。

「もちろん、覚えていましたわ!」

こんな見え見えの嘘をつく強情っぷりが悠仁からすると可愛らしく思えるようで、ついついからかってしまいたくなる原因となっている。




「美味しかったわ!」

無事?に食事を終えた三姫は満足そうにお腹に手を当てる。

「じゃ、お楽しみのプレゼント交換をしよう。はい、三姫。メリークリスマス。」

ジャケットの内ポケットからラッピングされた正方形の厚みが薄い物を取り出し手渡される。

「ありがとうございます。私のはこれですわ。」

長方形のこれまた厚みがほぼないものを悠仁に渡す。

丁寧にお互いの包みを開けた2人は感嘆の声を上げる。

「ほお~これはこれは。」

「まあ、可愛らしいわ!」

悠仁は和紙に『椿』が押し花にされたしおりを貰い、三姫は『椿』が3つ刺繍された薄い桃色のハンカチを受け取る。

どちらも手作りだとわかる物だった。

「読書家の悠仁様にはぴったりと思いまして。」

「私は寂しがりやの三姫のお供にと思ってね。ハンカチならどこに持ってても大丈夫だし、私のことを思い出せるでしょ?」

サラッと恥ずかしくなる事を言う悠仁に顔が紅潮し、少しうつむきかげんになる。

「ん?どうかした?」

「いえ、なんでもないですわっ!」

今日の悠仁さまは何時もと違って直球だわ!洋服を褒めたり、今のもだって!!もう......


ドキドキする...。


「しおりありがとう。大切に使うよ!」

しおりを数秒じっと見ると悠仁は大切そうに内ポケットにしまった。



楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、2人は秋本家の門の前で、惜しみながら別れの時を過ごしていた。

「来年もまた一緒に2人でしましょうね!クリスマス!」

ね!と首を少し傾げる。

「あれ、3人の間違いじゃない?」

「2人じゃなく3人ですか??あと、もう1人は誰ですか?」

「さあ?誰かな?ハンカチを見るといいよ。」

悠仁は形の良い唇をニヤっとし、いつもより少し低めで色っぽい声色で

「またね、さ・ん・き」

と三姫の頭をポンポンしながら言うと優しく額にキスを落とし、三姫に背を向けて自宅へと夜の帳の中を消えていった。

「お待ちになって~!3人目は誰なのよ~! !!もーう!ゆーじーんさま~~!!」



ー自室ー


「うーん。」

ランプが淡い光を灯す中、三姫は布団の中で悠仁からのなぞなぞを解こうと貰ったハンカチを広げたり、畳んだりしてみていた。

「女性よりも綺麗に刺繍されてるわ。さすが悠仁さま。」

ハンカチは特に仕掛けがあるわけでもなく、手も大変器用な悠仁が刺繍した椿が綺麗に縫ってあるだけだ。

「.......あれ?このお花」

3つある椿の大きさがそれぞれ大中小となっており、更に左に大きいのが、右に中サイズのがあり、そして大と中のあいだに小サイズのが配置されていた。

「これって....1番大きいのがお父さんで、その次に大きいのがお母さんで、その間の小さいのが子供ってこと?......ということは....。」

三姫は人差し指を唇にあてて首を右に傾げる。考え事をする時のポーズだ。

「んんっ!?これってまさか!!!大きい椿は悠仁さまで、中くらいのが私、じゃ1番小さいのは......」




赤ちゃん


ようやく悠仁の意図を理解した三姫は顔がみるみるうちに熟れた苺のように赤くなると、


『来年は私たち2人と赤ちゃんでクリスマスを祝おうね。』


赤ちゃんを腕に抱いた自分を後ろから包み込むように抱き締める悠仁を想像した三姫は全く眠れない夜を過ごすのでした。


「悠仁さまのバカ!!」




番外編 メリークリスマス 完

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