第6章 悪魔編

第40話 冒険者と手合せ

 スコルの街へは王都からおよそ5日、ついでに護衛の依頼を受けるために、悠真達は冒険者ギルドで依頼を探している。


 「ご主人様、スコルへの護衛はありますが、必要ランクはDからになっていますね」


 スコルへの道のりは険しくない。平坦な道が続き、見晴らしも良いし、出てくる魔物は他の街道と比べて弱い。

 さらに、王都で消費する食糧のおよそ4割を賄っている街道でもあるため、騎士の巡回も頻繁に行われているため、盗賊の類もほぼ皆無である。

 そのためスコルへの護衛依頼は5日間の拘束だが、Dランクから受注することができる。


 「この護衛を俺らが受けるとDランクの人に迷惑がかかるな。受注せずに、普通に乗合馬車に乗って移動しようか」


 後進のためにもこの依頼を受けることをやめた悠真は、ポーションや食料などを買い足しながら、乗合馬車が集まっている広場へと進んで行く。




 悠真達は無事にスコル行きの乗合馬車に乗ることができた。

 乗ることはできたが、グリが目立ってしまい、Aランク冒険者ということが御者と護衛の冒険者にバレてしまった。


 「Aランク冒険者のユーマさんですよね?」

 「ええ、悠真です。スコルまでよろしくお願いします」

 「おおお、初めまして、エイクと申します。Dランク冒険者です。よろしくお願いします」

 「ディントンです。よろしくです」

 「リカーノと申します。よろしくお願いします」

 「こちらこそ護衛よろしくお願いしますね」

 「Dランク冒険者がAランク冒険者を護衛するって、普通逆ですよ」

 「ははは、まぁ俺達は護衛の依頼を受けてないからな。普通の客として扱ってくれ。色々な依頼をこなして、色々経験を積むことが強くなる近道だよ」


 そう言う悠真だが、悠真はこれまで護衛の依頼を一度も受けたことがない。


 「やっぱりAランクの人が言う言葉って重みがあるよな」

 「ははは……」

 



 道中はやはり問題が起きることはなく、無事に夜営ポイントに到着した。


 「今日はここで夜営となります。設営しますので、しばらくお待ち下さい」


 御者がそう言うと、護衛の冒険者達が悠真に声をかけてきた。


 「ユーマさん、移動でお疲れのところすみません。もしご都合が悪くなければ、ぜひ手合せをお願いしたいんですが、お願いできないでしょうか」

 「そうだね。じゃぁちょっと離れたところでやろうか」

 「有難う御座います!」


 そう言うと護衛の3人の内、2人が見張りとして残り、交代で手合せすることになった。

 まずはエイク、斧をメイン武器に使っている。


 「行きます!」


 力任せに振り被った斧を、エイクが悠真に振り下ろすが、難なく回避する。


 「そんな大振りしてたらバレバレだぞ。もっとコンパクトにする必要がある」


 そう言うと孤児達のときと同じように、剣の腹でエイクを殴打するが、孤児達とは違い吹き飛ぶことはなく、そのまま横薙ぎに斧を振り回してきた。


 「どりゃぁぁ!」


 悠真はバックステップで回避し、すぐさま距離を詰め、再度剣の腹でエイクを殴打しようとするが、エイクが斧に振り回され、偶然にも回避されてしまった。


 「おいおい、斧に振り回されてるぞ」

 「大丈夫です! もういっちょ!」


 今度はコンパクトに構えつつも、フェイントもなく馬鹿正直に振ってきた。


 「おいおい、ちょっと待て。ストップ」

 「はぁはぁ、どうしました?」

 「よくそんなんでDランクになれたな。斧に振り回されっぱなしだぞ」

 「はぁはぁ、やっぱりそうですか……」


 詳しく話を聞くと、以前まではもう少し小ぶりの斧を使っていたが、Dランクに昇格した際に、昇格記念として今までのを下取りに出し、大き目の今の斧を買ったらしい。

 使い慣れない斧に加え、重さが今まで使っていた物と比べてかなり重い。そのため上手く魔物が狩れないみたいだ。


 「俺からできるアドバイスは、その斧を売って、小ぶりの斧を買うことだな。どうしても売りたくないなら、扱えるだけの筋力と体力をつけることだな」

 「そうですよね……。筋トレします」

 「体幹も併せて鍛えると、斧に振り回されることもなくなると思うぞ」

 「有難うございます」

 「あとはフェイントだな。馬鹿正直に振ってるだけでは上達はしない。適度に目線や身体の動きで、フェイントを入れることを常に念頭に置くこと」

 「はい、有難う御座いました」

 「次はどうするの?」

 「ディントンを呼んできます」


 そう言うと、エイクは一礼してディントンを呼びに走って行った。




 「おらっ!」

 「斬撃が軽いぞ」


 悠真はエイクの後にディントンと手合せしており、ディントンの斬撃を剣で受けている。


 「くそっ、これならっ!」


 ディントンは飛び上がり、悠真に切りかかるが、悠真は回避し、剣の腹で殴打すると、エイクとは違い吹き飛んだ。


 「軽いってのは体重を乗せろって意味じゃない。無駄に飛ぶと回避ができないぞ」

 「まだまだ!」


 中断に構えながら悠真に突っ込んでくるディントン。

 悠真の目の前まで突っ込んでくると、その勢いに合わせて剣を突きだしてきた。


 「おっ、なかなかいいぞ」


 突っ込む勢いに突きのスピードが合わさり、かなりのスピードの突きになったが、悠真は難なく回避し、ディントンの後ろに回り込むと同時に、背中を軽く押し出した。


 「うわっ」


 バランスを崩したディントンは前のめりに倒れ込む。


 「今の突きは良かった。だがその後の事を考えないと、今のように致命的になるぞ」

 「はぁはぁ、はい。有難う御座いました」


 ディントンは立ち上がり、悠真に一礼した。


 「斬撃を途中で止める癖があるんじゃないか? そのせいで斬撃自体が軽くなってるから、きちんと振り切るイメージを持った方が良い」

 「昔ですが、寸止めして遊んでたことがあり、その癖で無意識に途中で止めようとしてしまっているのかもしれません。気を付けます」

 「あと、腕だけで振ってるから、身体をもっと入れたらもっと良くなるぞ。ディントンはこんな感じだけど、こんな感じで」


 ディントンの振り方と、悠真の振り方を実演し、その違いを見せたところ、ディントンには解りやすかったようだ。


 「なるほど。これからはその点も気を付けてみます」

 「頑張ってな。ちなみにリカーノは杖術と魔法かな?」

 「そうですね。杖術と魔法を使います。呼んできます」




 「お待たせしました。よろしくお願いしますユーマさん」

 「杖術はあまり得意じゃないけど、よろしく」

 「さっそくですが、いきます!」


 リカーノがいきなり悠真に突っ込んでくる。

 そのリカーノに軽く突きを繰り出す悠真だが、それに合わせて土魔法のクリエイトシールドを使うリカーノ。


 「うおっ!」


 クリエイトシールドで突きを回避されただけでなく、視界を奪われ、焦る悠真。

 悠真の突きでクリエイトシールドが壊れると、その壊されたタイミングに合わせたのか、杖で突きをタイミングよく繰り出すリカーノ。


 「おぉ、やるな!」


 まだ余裕を見せながら回避した悠真だが、リカーノの攻撃はそこで終わらなかった。杖を斜めに回転させ、足元に振り下ろして追撃してきた。


 「もらいました!」


 思わずバックステップで回避した悠真だが、今の一撃は悠真の予想外だった。


 「上手いな。今のは焦ったぞ」

 「有難う御座います! まだいきますよ!」


 リカーノが杖を縦に構え、攻めてくる。

 悠真はリカーノの攻めに合わせて剣を振り下ろすと、リカーノが半身をずらし回避すると同時に、杖を回転させ、悠真の下からみぞおちを狙い突いてくる。

 悠真はリカーノとは反対側に半身をずらして回避し、リカーノの杖のさらに下から杖を跳ね上げ、杖を飛ばす。


 「参りました。さすがAランクですね。決まったと思ったんですが……」

 「連続攻撃が上手かったね。動きに緩急をつけると相手を翻弄して、連続攻撃も決まりやすくなると思うよ」

 「なるほど、次からは意識して緩急をつけてみます。有難うございました」


 このような手合せが5日続いた後、乗合馬車は問題なくスコルに到着した。

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