第9話 そうだ王都へ行こう

 悠真はオークの姿をしているセラと、テーブル越しに向かい合い食事をしている。


 「さて、食事をしながらでいいので教えて欲しいんだが、鑑定というスキルは聞いたことがあるか?」

 「はい、しかしながら対象の名前と年齢くらいしかわからない、ゴミスキルと聞いております。ご主人様は鑑定が使えるのですか?」

 「使えるぞ。しかも対象のスキル構成やその適正までわかる。これは異常なことなのか?」

 「――ッ! そこまでわかるのですか!」


 セラは驚き、思わず立ち上がってしまう。


 「そうだな。セラは剣術がC、解体がDランクだな」


 さすが神様の御業だと興奮する気持ちを抑え、椅子に座り直しながら努めて冷静にセラは答える。


 「通常は教会に行かないとスキルは見れません。あまり多くの人に言うのは避けた方がよろしいかと存じます」

 「そうだね。気を付けるよ。ところでこれからの事なんだけど……」


 そういってこれからの事を話し合う。魔物の討伐やダンジョン攻略を目的として活動していく事。欠損部位が治っていることを奴隷商会に知られると面倒だという事。そんなことを話していると、王都チターニアに向かってはどうかとセラから提案された。


 「私がまだ奴隷として売り出されている頃に、王都付近に新たなダンジョンが発生したと耳にしました。まだ若いダンジョンなので階層も深くないと思われますし、王都に到着した後はそのダンジョンに挑戦することを視野に入れてみてはどうでしょうか」

 「そうだね、それじゃ次の目標はそのダンジョンの攻略ってことでいいかな」


 次の目標が決まった悠真は、食事が終わったのを機に、ダンジョン攻略の一助となるようセラの剣術スキルの適正を引き上げる。


 「さて、俺の秘密を1つ打ち明けようと思うんだが、先ほどと同じく秘匿することを厳命する」

 「承知しました。どの様な事があっても秘匿いたします」


 そう前置きをした後、セラの剣術スキルの適正を引き上げるために、まずはエディットについて説明した――。


 (流石です。そのようなスキル聞いたこともありません)

 「それじゃ剣術スキルの適正を引き上げるけど、今までと剣の使用感が変わるかもしれないから、しばらくは慎重にね」


 そう言うと悠真は目を閉じて、セラの頭に手を乗せ、剣術Cを対象としてエディットを使用し、剣術Sへと変更する。

 目を開けた悠真に訪れたのはキリキリとした強烈な腹痛だった。


 「――ッ!」


 そう声を漏らした悠真はトイレへと駆け込んだ。

 セラは自分のためにそうなったことに罪悪感を覚えつつ、トイレの前で五体投地をしながら悠真の回復を必死に祈っていた。

 回復した悠真が出てくるときに、セラの頭にトイレのドアが当たったのは想像に難くない。




 翌朝、宿から出発した悠真は、なるべくセラの欠損部位が治っていることをこの街で秘匿するために、護衛のクエストを受けずに乗客として乗合馬車を利用するために、ローブを着せたまま広場へと向かった。


 「リシテアへの馬車はこっちだよー」

 「テーペに行く人いないかねー」

 「護衛の冒険者はまだか!」

 「チターニアはそろそろ閉め切るよー」

 「ポリに行く馬車はどこー?」


 護衛であろう冒険者もおり、大勢の人でにぎわい、活気に溢れている。中には護衛のクエストに遅刻している冒険者もいるようだ。


 「さて、俺達は王都だな。チターニアだっけ。」

 「はい。そろそろ閉め切ると聞こえましたので急いだ方がよろしいかと存じます。こちらです」


 チターニア行きの乗合馬車は需要があるのか2台用意されていた。


 「すみません、チターニアに2人お願いしたいんですがまだ大丈夫ですか?」

 「おう、あんちゃん、十分な人数が集まったし、ちょうど閉め切ろうとしてたところさ。2人なら銀貨40枚だな。そっちの馬車に乗ってくれ」


 恰幅の良い男性に銀貨40枚支払い、後ろの馬車に乗り込むと、12人ほど乗れそうな馬車に、子供から老人まで幅広い年齢層で先客が7人ほど乗っていた。


 「よーし、じゃぁチターニア行き出発します」


 そう聞こえると馬車が動きだし、チターニアへと出発した。




 道中は護衛の冒険者が魔物を難なく退治し、至って順調に進んでいる。変わったことと言えばセラの印象を変えるために腰まであった長い黒髪を肩くらいまで短くした。

 他には夜営をしているときに護衛の冒険者達――パーティー名は蒼い閃光らしい――と談笑し、これまでの冒険譚やダンジョン攻略のアドバイスなどを頂いたくらいだ。

 特に問題もなく翌日の午後、王都チターニアに到着した。乗合馬車を降りた悠真達は、近くのダンジョンの位置や情報などを仕入れるために冒険者ギルドへと向かった。




 冒険者ギルドの中はテミストと似た感じで酒場が併設されている。朝は酔い潰れている者もいるが、昼にはクエストに出るのだろう。王都にもかかわらず酒場には人がまばらだ。


 「ご主人様、付近のダンジョンの情報はあちらの掲示板に張り出されます。まずはそちらに目を通して頂くのがよろしいかと存じます」

 「おっ、ありがとう。それじゃ見に行ってみるか」


 カウンターに行って情報を得ようとしたところセラに止められた。掲示板に情報が張り出されるらしい。掲示板はカルメ、テュクス、フォボスの3つがあり、ざっくりと読んでみた。

 カルメは王都付近では最古のダンジョンで、浅い階層に平原エリアがあるらしく、薬草採取クエストなどに多く利用されており、初心者向きのダンジョンだそうだ。現在65階層まで確認済みらしい。なお、攻略禁止ダンジョンに指定されている。

 テュクスはカルメに次ぐ古いダンジョンみたいだ。様々な鉱物が産出されるらしく、武具や調理器具など幅広く利用されている。こちらは現在81階層まで確認されているらしい。こちらも攻略禁止ダンジョンとなっている。

 最後にフォボス、これが今回のターゲットとなるダンジョンだ。発生してからまだ日が浅く、現在は17階まで攻略済みらしい。特に攻略禁止ダンジョンに指定されてはいない。

 攻略禁止ダンジョンについてちょっと話を聞いてみようと、冒険者ギルドのカウンターに並んだが、こちらも酒場と同じ様に空いていたため、思ったよりも早めに悠真の順番が回ってきた。


 「すみません、ダンジョン掲示板を見たんですが、攻略禁止ダンジョンが2つあったんですが、なぜ禁止なんですか?」

 「はい、まずカルメは色々な種類の薬草を豊富に採取できるダンジョンです。そのため薬師ギルドからの採取依頼に活用されており、市場に出回っているポーションの原料をカルメで賄っております。テュクスも同じように市場に出回っている武具や金属を使用した商品などの原料を賄っております。攻略するとダンジョンが消滅するため、この2つは攻略禁止となっております」


 攻略すると原料が取れなくなり、市場バランス等に悪影響があるから禁止ということらしい。人類の繁栄を考えると、神様からの依頼的にもこのダンジョンの攻略はしない方が良さそうだ。

 ちなみに答えてくれた受付嬢は、耳がとがって長く、美しい容姿をした所謂エルフという種族だ。ネームプレートにはランシアと記載されている。


 「フォボスは現時点では攻略禁止とはなっておりませんので、最近は冒険者の出入りが多いみたいです」

 「なるほど、有難う御座います。ではフォボスに行ってみることにします」

 「失礼ですがランクはおいくつでしょうか。発生して時間も経ってない若いダンジョンとはいえ、少なくともDランク、できればCランクはあった方が適正ですよ」

 「ありがとう御座います。自分は登録したてでEランクなんですが、セラがCランクなので大丈夫だと思います」


 セラは、「私がいるので大丈夫。私がご主人様を守ります!」と気合が入った表情でランシアを見た。

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