第3話 スキル0個で転移!?

 「……わかった」

 「はいダメね。んじゃバイバ……えええええ!?」


 さっさと断られ秘蔵のワインを楽しもうとなおざりな対応をしていただけに、この返答にメルは戸惑った。


 「ちょっと待って。貴方私が言ったこと理解してる?」

 「どっかに連れて行ってもらえるんだろ?それくらいしかわからん。だが俺の現状を大きく変えてくれそうな予感がするから欧米でも中東でもかまわん。お金もある程度だが準備できるし、楽しませてもらうさ」

 「そ、そう? 若干違うけど、同意があったということでいいわね? それじゃぁ行くわよ」


 そうメルが言うと一瞬で真っ白な部屋みたいな場所に移動した。辺りにはソファーとテーブルが1つずつ、そしてテーブルの上には後でメルが飲む予定の、適温に冷やされたワインとグラスが1つ用意されている。


 「は? な、何が起こった?」

 「同意があったということで、今から私が創造した世界アマルテアへ行ってもらう準備をするわ。」


 メルが手をかざすと、カジノで使われているポーカーテーブルのような物が出現した。


 「ちょっと待ってくれ。アマなんとかってどこの国の都市だ? しかも創造した?」


 状況が把握できていないにも関わらず、さらに目の前にポーカーテーブルのような物が出現し、悠真の混乱は加速する。


 「同意したんだからもう説明いらないでしょ。私は早くワインが飲みたいんだからさっさと転移の準備するわよ」


 メル曰く、ポーカーテーブルの上にある6面体のサイコロを振って、出た数だけスキルを貰えるらしい。しかしながらサイコロの面は0が3面、1が2面、2が1面しかない。


 「悪いが十分な説明もなく、ここまで条件が悪いのはさすがにキャンセルだ。リスクが高すぎる。客を混乱させ、その隙に口車に乗せて契約を取ろうとする、悪質な営業と同じだ」

 「もう遅いわよ。この場所に来た時点でキャンセルは不可能、アマルテアに行ってもらうしかないわ」


 十分な説明を怠り、理解しないまま連れて来たにもかかわらず帰ることができないって、高齢者を狙った胡散臭いセミナーや悪質商法の様な臭いがプンプンする。


 「だから今できることは、サイコロで2が出ることを祈りながら振ることよ」

 「仲間に裏切られた次はこれかよ。良かったのはいつの間にか治った二日酔いくらいじゃねぇか」


 仰向けに寝転がり、最初にもっと詳しく聞くべきだったと後悔しながら目を閉じた。


 「ねぇ、早くワイン飲みたいんだけど。早くサイコロ振ってくれない?」

 「ちょっとくらい待てないのかよ。こっちは説明不足で連れてこられた上に、そんな条件の悪いことに付き合わなきゃいけないんだろ?」


 ゆっくりと立ち上がった悠真はポーカーテーブルの前に立ち、深呼吸をする。社員旅行で行ったカジノで大勝した時を思い出し、少しでもテンションを上げようとしている。


 「よし、やるか!」


 そう言葉にしてサイコロを手にし、2が出ろ! と念じながらサイコロを転がすが――。


 「…………」

 「残念、0ね。まぁこんな時もあるわよ。でもステータスは現地人と比べて高いから、苦労はしないと思うよ。現地で生活してればスキルも覚えるし、心配しなくてもなんとかなるよ。転移した先に初心者用の装備とかお金とか置いてあるから、それ使って死なないように頑張ってね」


 サイコロの結果を見て茫然としている悠真をよそに淡々と話を進めるメル。


 「あ、まずは街を目指すといいよ。冒険者ギルドがあるから、そこで冒険者として登録することをお勧めするよ。まぁ死なないように頑張って、魔物の討伐とダンジョンの攻略お願いね」


 悠真に向かって可愛くウインクするが、それはめったに怒らない悠真の神経を逆撫ですることに一役買った。


 「現地人よりステータスが高いだけで、現地の知識や武術の経験も何もない俺が魔物の討伐やダンジョン攻略できると思ってるの? ふざけるなよ!」


 怒気を含ませながら悠真は抗議するも、私が苦労するんじゃないから関係ないとでも言いたげな顔をしている。


 「大丈夫、多分なんとかなるよ」

 「多分ってなんだよ!」

 「さっきも言ったけど私は早くワインを楽しみたいの! それじゃ転移させるよ」


 メルは右手を悠真に向け、転移させようとした――。


 「そこまでじゃ」


 悠真とメルだけだったその場に突然1人の老人が現れた。

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