ゲームセンターで遊ぼう

 街に出かけた桜崎の生徒はの多くは、オシャレなカフェに行ったり、高価な品を扱うブティックでショッピングをするのが大半だろう。だけどアタシ達はそんな一般的な生徒とは違って、もっと庶民的な複合エンターテインメント施設、『ラウンド壱』に来ていた。そして今いるのが、その建物の中にあるゲームセンター。アタシはそこで、エリカちゃんと一緒にゲームをして遊んでいるんのだった。


「秘儀、二丁拳銃!」


 ガンシューティングゲーム機の前で、アタシは本来は二人で扱うべきであろう二丁の銃を両手に携えながら、画面内に映し出されるゾンビを次々と撃ちまくっていく。

 前世からの乙女ゲーマーなアタシだけど、それ以外のゲームだって得意なんだ。西部劇さながらに、指に引っ掛けた銃をクルクルと回していると、それを見ていたエリカちゃんが驚きの声を上げる。


「春乃宮さんって、ゲーム上手なんですね。テレビで見た事ありますけど、こういうのって二人でやるものなんですよね?」

「まあね。けどアタシくらいになると、一人でもこれくらいできるんだよ」


 なんて得意げに言ってるけど。実はアタシ、前世では一緒に遊ぶ友達がいなくて、一人でゲームセンターで遊んでいてこの特技を習得したんだよね。我ながらちょっぴり悲しい理由だ。今日誰とも遊ぶ予定が無かったというエリカちゃんの事を、どうこう言えた立場じゃないな。

 しかしだからこそ、一人でいる事の寂しさと、誰かと一緒に遊ぶことの楽しさの両方を知っている。アタシは手にしていた銃の片方を、エリカちゃんに差し出した。


「さあ、次はエリカちゃんの番だよ。思いっきり撃ちまくったら、きっと良いストレス発散になるよ」

「ええと、でも私、こういうのやったことが無くて。上手くできるかどうか」

「大丈夫だよ、アタシも一緒にプレイするから。さあ、始まるよ」

「えっ、ああっ!」


 エリカちゃんは慌てながらも、画面に向かって引き金を引いていく。上手く命中せずに外してしまう事も多かったけど、そこはアタシがフォローして快調にゲームを進めていく。そんなアタシ達の様子を、ちょっと離れた所から壮一達が見ていた。


「エリカちゃん、楽しんでいるみたいで良かった」

「最初旭がゲームをやらせてみようって言いだした時はどうなるかと思ったけど、意外と良かったのかもね。アレなら余計な事を考えずに遊んでいられるのかも」

「アサ姉って意外と、人の面倒を見るのが上手だからなあ」


 そんな事を言っている壮一達。本当言うと特に考えもせずに、アタシだったらゲームでもすれば楽しめるかなって思って連れてきたんだけど、実際楽しそうなんだから良いよね。聞けばエリカちゃんはこういった場所に来るのは初めてで、ゲームもほとんどやったことが無いそうだ。


『お姉ちゃんは違うんですけどね。と言っても、ゲームセンターに行くとかじゃなく、自宅にアーケード用のゲーム機を用意して遊ぶんですけど。対戦する人がいつも接待仕様なので、毎回勝っていましたっけ』


 御門さん、それはやっていて本当に楽しいのかな?まあいいか、相手は御門さんなんだから、アタシ達の常識なんて通用しないよね。

 エリカちゃんはそんな御門さんの様子を冷めた目で見ていたせいで、ゲームの楽しさが今一つよく分かっていなかったみたいだったけど、こうして実際に遊んでみる事で、面白いって思ってくれたみたいだ。


「私、こういう銃で遊ぶゲームなんて初めてやりましたけど、面白いですね。癖になりそうです」

「そうでしょそうでしょ。ここは元々乙女ゲームの世界なんだし。なのにゲームの面白さを知らないなんて勿体無いよ」

「え、乙女ゲーム?なんですか、それ?」


 しまった、ついうっかり口を滑らせてしまった。どうしようかと慌てているとそんなアタシ達の様子を見た空太がすかさず間に入ってくる。


「次はあっちのレースゲームなんてどうかな?アレなら最大四人プレイが可能だし、遊び方はだいたいわかるよね?」

「はい、何となくは」


 エリカちゃんの意識は、すぐにレースゲームの方に行ってくれた。ふう、空太がフォローしてくれて助かったよ。エリカちゃんや壮一に聞こえないよう、アタシはそっと空太に囁く。


「ありがとう空太」

「まったく。もっとよく考えて喋ってよね。頭がおかしいって思われ……おかしいのは事実だけど、更に気が変になったって思われたらどうするのさ?」

「あんた、さらっと凄く失礼な事を言ってくれるわね」

「事実でしょ。ほら、それより俺達も行くよ」


 空太に引っ張られて、アタシ達もレースゲームの席へと付く。四人プレイと言う事で琴音ちゃんが外れて、残りの四人でゲームを開始した。

 これはレースゲームと言っても、亀の甲羅をぶつけたり、バナナの皮で相手を滑らせると言ったアイテムを使っての妨害工作有りと言う、もし現実のレースでこんなのがあったらケガ人が続出するであろう、危険極まりない仕様となっている。


 ゲームに不慣れなエリカちゃんは極力安全運転で走っていて、順位は下位だったけど、このゲームでは順位が低い人ほど良いアイテムが手に入るようプログラムされている。

 ラスト一周で自身の車をミサイルに変化させて他のプレーヤーを弾き飛ばしながら、自動運転でコースを走ってくれるというチートアイテムを手に入れたエリカちゃんはどんどん順位を上げていって、最終的には二位でゴールしていた。


「エリカちゃん凄いじゃない。初めてやったっていうのに二位だよ二位」

「ビギナーズラックですよ。あの……もう一回やってみたいんですけど、良いでしょうか?」

「全然OKだよ。それじゃあ今度はアタシに代わって、琴音ちゃんやってみようか」

「分かった。エリカちゃん、よろしくね」

「はい!」


 二回目のプレイではエリカちゃんも操作を覚えてきたみたいで快調な走りを見せて。だけど終盤に順位を落として最終結果は今一つだったけど、それでも楽しそうに笑っていた。きっと勝ち負けじゃなくて、誰かと一緒に遊ぶということが嬉しいのだろう。


 それとその後、もうひとつ面白い事があった。お金を入れて機械を操作して、中に詰まれているお菓子を取るというタイプのゲームをエリカちゃんがやってみたんだけど、これが中々上手くいかずに。だけどエリカちゃんは夢中になってしまったようで、お札を二枚使ったところで、ようやく『うまか棒』一本を手に入れる事に成功した。お店で買えば十円ですむのに、随分と高くついたものだ。それでもエリカちゃんは、手に入れたうまか棒を満足そうに眺めていた。


「ああ、これがうまか棒なんですね。実物なんて初めてみました」


 そんな事を言うものだから、アタシ達は驚く。

 今世ではアタシの家もお金持ちだけど、それでもうまか棒くらい普通に食べるというのに、エリカちゃんはいったいどんな生活をしてきたのだろう?

 まあたぶん、御門さんやお母さんの感覚に振り回されての結果なのだろうけど。すると案の定。


「テレビで見て知ってはいましたからちょっと興味があったのですけど、お母さんやお姉ちゃんが、あんなものは貧乏人の食べる物だって言って、食べさせてもらえなくて」

「何さそれ?」

「お母さんとお姉ちゃん曰く、御門家の人間は一日に一定額以上の値段の物を食べないと体を壊してしまう、下手をすれば死んでしまうそうなんです」


 一定額以上食べないと死んじゃうだなんて、そんなカネゴンじゃあるまいし。

 相変わらず御門さんのバカさ加減は想像を絶する。そんな心配しなくても、体調を崩すなんて事はありえないだろう。安い食事でもちゃんと栄養を取ればいいんだし。

 だいたい御門さんはバカなんだから風邪だって引かないだろう。


「でもこれならもし御門さんに何か言われても、堂々と食べれるんじゃないの?何せ元手が二千円もかかっているんだから」

「ふふ、そうですね」


 その後エリカちゃんは、うまか棒を美味しそうに食べていた。

 最初遊びに誘おうって話が出た時は、ちゃんと楽しんでくれるかどうか心配だったけど、どうやら杞憂だったみたい。普段は劣等感を抱いているけど、本当はよく笑うかわいい子なんだから、学校の同級生達ももっと仲良くすればいいのに。お姉さんの御門さんのことを恐れているのは分かるけど、やっぱりそれではちょっと気の毒に思う。


 だからせめて今だけでも、アタシ達と一緒に思いっきり遊ぼう。楽しそうに笑みを浮かべるエリカちゃんを見ながら、アタシはそう思うのだった。

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