第23話 失声症

 結局ぼくたちは全員で地下室に行くことに。

 ハカセさんは、

「何か燃えやすいものを探します」と、

 ヒメと一緒に食品倉庫へ。

 一方でぼくたちは実験室へと二手に別れる。


「こりゃ、しらみ潰していくしかねーな」


 重い頭を抱えつつも、

 あねごさんは1つ1つ棚から瓶を取り、

 ラベルとにらめっこして元に戻す。

 白ちゃんもマネをして検査する。


「ぼくはあっちの棚から見ていきます」


「あいよー」と頷くあねごさん。

 実はここに来た目的は鎮痛剤を探すだけではなかった。

 希望は少ないが、

 白ちゃんの声が戻る薬があるかもしれない、

 と感じていたからだ。

 藁にもすがる気持ちで、

 薬品瓶を出しては戻し、

 出しては戻しの繰り返し。

 目的達成はほど遠い。


「見つかったか?」


 あねごさんは棚の隅からちょこんと顔を覗かせた。


「ないです」


「こっちの方がありそうだな」


 ゆっくりとぼくに近づいてきて、

 背中を向けて瓶を持ち1周見渡した。


「向こうは調べ尽くしてんですか?」


「白に任せた」


「はあ」


 溜息のような返事をして再び作業に戻る。

 いつからか知らないが、

 瓶の大きさが缶コーヒーサイズから、

 缶ジュースサイズに成長していた。


「これは?」徐に瓶を握るとあねごさんが肩越しに、


「あったのか?」


「睡眠薬ですよ、こっちも、こっちも。

 1つ飛ばしてこっちも。

 これさえあれば、

 痛みも忘れてぐっすり眠れますよ」


 計4つもある。

 偶然だろうか、それともたまたまだろうか。


「あのな。

 飲み過ぎるとぽっくりっちまうことだってあんだぞ」


 一瞬だけ身体をよろめかせたあねごさんは、

 再びぼくと背中合わせに瓶を見つめ始める。 

 これはもしかして。


 一歩ずつカニ歩きをしていると、

 失声症とラベルに書かれている薬瓶を発見。

 だが、どこにも成分とか用法・用量すら載っていない。

 怪しさ100パーセント。

 薬瓶とにらめっこをしていると、

 真横から気配が湧いてきた。

 流し見ると白ちゃんが、

 クレジットカードくらいの長方形の箱をも持っている。


「どうしたの?」


 と声をかけると、手を伸ばしてその箱を渡そうとした。

 それは鎮痛剤ちんつうざいの薬だった。

 中を開けると、銀色の包装シートに小分けしており、

 押し出して服用する錠剤じょうざいタイプのものだった。


「ありがとう白ちゃん。

 あねごさーん、鎮痛ちんつうざい剤ありましたよ」


「本当か?」


 瓶を棚から取り出すのを止めて、ぼくの右横に並ぶ。


「白ちゃんが見つけてくれました」


「ありがとな」


 あねごさんは白ちゃんの髪をくしゃくしゃにかき乱して、

 出口に歩いて行ってしまった。 

 でもいろんな薬があるんだな。

 あ、白ちゃんに渡しておくか。


「これ見つけたんだ。試しに飲んでみてよ」


 先ほどの失声症しっせいしょうと書いてある怪しい薬瓶くすりびんを見せると、

 白ちゃんは顔を引きずりながらゆっくりと頷いた。


「大丈夫だって。

 声を失う薬じゃない……と思うよ。念のためにね。

 ほら、ぼくたちも戻ろうよ。

 あねごさんひとりにはできないし」

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