第14話 開かずの部屋

「ここを下りれば地下室なんだな」


 あねごさんは壁に手を添えて一歩ずつ階段を下りる。


「やっぱり、おらぁたちも行かなかあかんべか?」


 ぼくと熊さんは入り口でためらっていた。


「怖いんですか?」


「怖いに決まってるベ。

 おらぁのことデブデブって連呼するから」


 地下が暗いとか幽霊が出るかって意味の怖いじゃなくて、

 あねごさんが怖いって意味ね。


「おーい、早く来いよ。シバくぞー」


 階段を下りきったらしく、

 あねごさんの声が洞窟にいるように長く伸びていた。


「行きましょうよ、熊さん」


「うん」


 ぼくたちが階段を下りきるとあねごさんが、


「鍵のかかってるのってどこだ?」


「1番奥の部屋です」


 あねごさんはドアノブに鍵を差し込む。


「ん? これじゃねーな。これでもない」

 次から次へと試していく。


「鍵に表示されてないんですか?」


「それもあるけど、この部屋もなんだかわかんねえだろ」


 地道に潰していくしかないんだな。


「お、刺さった」


 10個くらいある鍵束で最後の1個で見事引き当てた。

 ある意味才能かも。


「なにかなぁー」


 口笛交じりで上機嫌のあねごさんはドアを引く。

 こっちからすれば不安だらけなんだが。


「真っ暗で見えねーよ」


 他の部屋と構造が一緒なら、スイッチはドア横にあったはず。

 手探りでスイッチを押した。


 「お、これはこれは、武器倉庫か?」


 1メートルくらいあるライフル銃や、

 手のひらサイズのコンパクトなハンドガン。

 刃渡り20センチはあるサバイバルナイフなどが、

 両脇の棚に敷かれていた。


 この箱は何だろう? 

 ふと鉛のように重く黒い箱を発見。

 鍵はない。

 中を開けてみると、

 野球ボールくらいの大きさと同じものが、

 ゴロゴロと入っている。


「これなんですか?」


 するとあねごさんは覗き込んで、


「置いてあるものから想像すると、

 ダイナマイトとかそのたぐいじゃねーの」


「ダイナマイト!」


 イメージからすれば、

 ソーセージを束ねたヤツとか想像していたが。

 冷たい手で首を撫でられた感触をもらったぼくは、

 咄嗟とっさに封をした。


「ビンゴじゃん。あれ無線機っぽいな」


 あねごさんは部屋の奥に進み、

 無線機が積まれた机に、

 椅子を引いて座りながら指先で触りまくる。


「操作できるんですか?」


「テキトーにボタン押してれば動くんじゃね」


「あのですね、

 こういうのって、

 ぼくたち素人が触れてはいけない物なんですよ」


「さっきからうるせえな。

 質問ばっかしてねーで手伝えよ」


 仕方なくぼくは、

 起動スイッチらしき物をくるりと見渡す。


「これ、穴開いてますよ」


 上から覗いてみると、

 親指くらいの大きさの穴が、

 地面へ一直線に続いていた。


「はあ? どれどれ。

 銃で撃っちまったな。

 ダメだ。使い物にならん」


「確かに一致しますね。でも誰が一体……」


 やはり、

 ぼくたちの中に知らない誰かがいるのだろうか?

 でも昼間ヒメと熊さんが屋敷をパトロールしたときは、

 人影はいないって言ってたし。


「動くな! 撃つぞ」


「ちょっとあねごさん」


 あねごさんはピストルを片手に銃口を向けてきた。


「冗談ですよね?」


「ジョークに決まってんだろ。

 これ弾薬入ってなさそうだし」


 半分だけ口を開けて、トリガーを引いた。


 ズドォォォォォォォーン!


 雷鳴と共に、

 ぼくの左こめかみを何かがかすめる。

 両目を動かすと、

 ペットボトルのキャップくらいの大きさの穴から、

 火薬の臭いと一緒にもくもくと煙が泳いでいた。


「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃー!」


 下半身の神経が抜き取られたように、

 その場にしゃがみこんだ。

 あねごさんはじーっとピストルの銃口を覗いていた。


「あねごさん!」


「悪い、外した。もうちょっと右だったな」


「狙ってたんですか?」


「うそうそ、じょーだんだってば」


「何ごとだベ?」


 キョロキョロと左右に目を動かしながら、

 熊さんが入ってきた。

 そういえばこの人、今までどこにいたんだ?


「デブ、何やってたんだ? 入ってこねえで」


「見張りしてたべ。怪しい奴が侵入しねえようにだ」


 いや違うな。

 熊さんのことだから、

 あねごさんと関わりを持ちたくなかったから、

 避けていたんだ。きっと。


「まあいっか。

 えっと実弾はあと2発入ってるから、

 この銃はあたいが預かるわ」


「ダメに決まってじゃないですか! 

 使用する目的がわかりません」


「護身用以外、使い道ねえだろ」


「護身用って、

 この6人の中であねごさんより強い人はいないですよ」


 冗談じゃないよ。

 なにか揉めごとが起きるたびに銃口を突きつけられたら、

 たまったもんじゃない。


「ちっ、わかったよ。

 こっちのサバイバルナイフで我慢してやっから」


「それもダメです」


「20センチのやつじゃなくて、10センチのやつ」


「変わりないです。ダメ」


 知らぬうちに立ち上がっていたぼくは、

 手をクロスさせて、

 バツの表示をあねごさんに突きつけていた。


「ほら、もう戻りましょう。

 これ以上この部屋にいても意味がないですから」


「お、おう」


 くるりとドアの方向へあねごさんを回して、

 背中を押そうとした。


「ピストルは置いていく!」


「おう」


 図々しくも握っていたピストルをテーブルに捨てて、

 あねごさんの背中を強く押した。


「熊さんも行きますよ」

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