人ナラザルモノ

大福がちゃ丸。

第1話 狂行

 木枯らしが吹く中、太り気味の男が夕方の河川敷を少し足早に歩いている。

 河川敷には、この季節がらか散歩をする人もいない。


 男は安物の野球帽を目深にかぶり、大きなマスクをして顔を隠している。


 長い脂っぽい髪が額に張り付き、その腫れたマブタで潰れた細い目は、爬虫類のように神経質そうにキョロキョロと辺りをうかがいながら。


 大きなマスクをかけた表情はわからない、メタルフレームのメガネは唯一オシャレのつもりだろうか。

 安物のダウンジャケットは、パンパンに膨れ上がり、ボンレスハムのようだ。


 両手をポケットに突っ込み、背中を丸めデイバックを背負い、寒空の中歩いている男は、マスクで隠れている口を歪め、ニヤニヤとしていた。


 背中に背負ったディバックの中で、金属が当たったような微かな音が時々響く。


 男の唯一の趣味とでも言えるのだろうか。

 あまりにも悪趣味で、人の耳に入れば顔をしかめられ、嫌悪されるであろう。


 残虐な嗜好を持つこの男の手で、いくつもの小さな生き物たちは、その命を消していった。


 男の背負うデイバックの中には、微かな血の臭いともに、残虐な欲望を果たした凶器が入っている。


 マスクで隠れた口をニヤつかせ、男は今日の凶行に心を踊らせていた。

 『今日の獲物もなかなかに楽しめた。』

 『無抵抗のヤツはもちろん、抵抗してきたヤツも楽しませてもらった。』


「つっ!」

 にやけていた口を歪め、分厚い手袋越しに右手を押さえる。

 良く見れば、手袋は破れ血が滲んでいた。


「畜生が……」

 男の誤算は、今日の獲物に反撃され、まさかの手傷を負った事。

 厚着とぶ厚い手袋をしていたのだが、今日の獲物は必死に抵抗してきた。

 手袋のおかげで大した傷口ではないのだが、病気にでもなれば原因を探られかねない。


 くぐもり湿ったうなり声ような低い声を出し呻く。


 ざわざわと木枯らしに吹かれ芦が揺れるなか、男は足早に河川敷を後にして行った。


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