第35話2-8-4.生命の裏庭―――思い出はボロボロ―――

―――夏のある暑い日の午後だ。山間とはいうものの中々この墓地も暑くなっていた。

父王が亡くなりすぐそのあとで娼婦と蔑まれた母も亡くなり6年、大阪の施設の葵とわかれて3年たっていた。学校は行くことを許されず、通信教育を受けていた。お金もなくていくつも畑を作った。料理はアビルが絶対にさせてくれなかった、これが私の仕事ですというのだ。


竜王家の長男・・・僕は11歳になっていた。


その日は5月に植えたキュウリを取り込んでいたのだ。僕は井戸水で冷やして食べるキュウリが好きだった。


そしてそれは唐突にやってきた。


ただ・・・ただ2人で訓練していたのだ何度も何度も繰り返し。

不幸なメイドと不幸な王子の・・・僕らの行動は迅速そのものだった。

2人とも召喚士ではない。普通の人間だ。


―――襲撃―――


アラームが鳴ったのだ・・・つまり召喚士が敷地内に入った知らせだ。しかも魔装鎧をまとっている状態だ。そこまで探知できるマジックアイテムで幾重にも魔力探知網を屋敷周囲に張りめぐらせていたのだ。


人数も多く、スピードも速い。強力な召喚戦士であることは予想できた。

2人ともどもダッシュで館へ逃げ込んだ。屋敷にはずっと昔からある符術を基にした罠のいくつかを整備して復活させていた。


刺客は魔力を使う、一般人の警察官は役に立たない。電話できる端末は屋敷にひとつあったがそもそも誰かに助けてもらう選択肢は僕たちにはなかった・・・とても間に合わない・・・信用できる人も皆無。

それに刺客を送って来るのなら後見人の矢富沢が一番怪しいし。


当然、僕とアビルは魔力がほとんど全くない、ほとんどというのは僕は霊眼には目覚めてはいたがまだコントロールもできていなかった。

符術のトラップは魔力のない僕たちには長時間作動させられない。まさしく時間とタイミングの勝負だった。符術のトラップの順番は事前に練りに練っていた。

自信がある・・・トラップを避けたところにトラップが重なるように組んでいた。


2階はアビルが1階は僕がトラップを作動させた・・・3階から上は捨てる。

魔力では探知しにくいようにいくつもの術式を組み合わせていた。

100年以上竜王家に仕えた御庭番の一族の住んでいた屋敷だ、有事の際の殺傷能力の高いトラップはいくつもあった。5歳と8歳の時に毒殺されかけていた僕は人間の行動学やあらゆる劇毒物・・・その対処法。身の護り方、逃げ方。罠のつくり方・・・設置方法。最後に戦い方を独学で学んでいた。


マジックアイテムの魔力探知機には11種の魔力の反応が記されていた。古いもので刺客の位置は全くわからない。11人いるということだけだ。


一階の窓、裏口、二階の窓、三ヵ所同時に入ってきたようだった。


訓練された動きだ。屋敷の中もある程度間取りがバレている可能性がある。すぐに僕とアビルは複数ヵ所から侵入された場合にどうするかという事前に作ったマニュアル通り・・・符術を使って敵を分散させる作戦を開始した。

裏口の鋼鉄の矢を避けると魔力で拘束され天井が落ちる仕掛けの作動後に1人、魔力探知機から反応が消えた。11人が4、4、3人に分かれているとすると。

あの仕掛けを残りの数人は避けたことになる。敵の戦闘力は想定内では最も高い状況だと認識するしかなかった。二階のトラップは音はするが魔力探知系に反応はない、すべて避けるか対処されているわけだ。一階の一瞬だけ強力な魔力をまといかなり広範囲を切断する魔力刀の仕掛けが作動した後で、避けやすいところに魔力を帯びた強酸のシャワーを浴びさせて拘束する仕掛けも作動した後で・・・2人の反応が消えた、あと8人だ。


強力な召喚士が8人もいる。


事前に作ったマニュアル通り僕とアビルは別々の経路から地下へのがれ、一瞬合流し別れた。

地下には魔力の帯びない強力なトラップがいくつもあったが、この場合は何人地下に来るかでトラップの種類を変える必要があった・・・地下への入り口の魔力探知計では8人全員が下りたことを示していた。

符術の影響で僕とアビルの正確な位置は分からないはず。


冷静に分析した・・・驚くほどクールに。


仲間が行動不能の重症でも間違いなくターゲットの僕を目指して追ってきている。かなりの手練れ、精神的にも強い。間違いなく全員訓練された召喚士だ。


もう最終プランしかない。


地下へ降りる階段を岩の柱が下りてくる仕掛けで二ヵ所とも封鎖。岩はかなりの重さだ、一つ5トンはある。そしてこの屋敷最大の仕掛けを作動させた、渓谷の水をためており一気に地下を水没させるのだ。水は大量の符術とまざり行動を抑制し勿論毒物も混ぜてあった。僕とアビルも毒水に触れればまずい。唯一の地上への通り道の備え付けの鉄の梯子はしごを二人で登り、そして鉄の梯子をスライドさせて折りたたんでしまう。これでこの経路もふさげた。僕らの気配を追ってきていた刺客はそろそろ真下に着くころだ。


そこはトラップだらけでしかも・・・とてつもない水圧で水没するのだ。


ドッゴ―――――――――――!!!!!


地響きとともに地下すべてが水没していく。水没しつつありったけの符術が刺客を水流の中で攻撃しているはずだ。さらに僕らはキッチンの奥の隠れ部屋に逃げ込む・・・もっとも硬い造りの部屋だ。


・・・だが懸念は常にある・・・これで終わらなければ・・・どうする?


ここから先のマニュアルは作っていない。

危険な手はいくつかあるが敵の出方が分からない。基本的にこの毒水と酸欠を抜けて岩の壁をぶち抜いて地下から出てくるのならお手上げだ。毒では倒せない。それほどの召喚士を魔力を帯びていない武器では倒せないだろうし。


魔力探知機はまだ3人の刺客が生きていることを示しているが時間だ・・・もう・・・探知機は動かなくなった。つまり魔力探知機の動力である符術からの魔力供給が終わった。魔力のない僕たちに魔力探知機はもう使えない。


こんなとき霊眼を自由に使って敵がみえたらどんないいいだろう。霊眼の遠隔視能力を増幅するような、双眼鏡のようなアイテムを作る必要がある。遠隔視できればここにいていいのか、逃げるべきなのか・・・戦うべきなのか分かるのに・・・。


無常に時間が立っていく。

アビルと僕は隠れ部屋で音もたてずにジッとしている。

祈るような恰好のメイド服のアビルだ。


このまま終わって欲しい・・・。


・・・10分。


・・・20分。


・・・30分。


どれだけ2人でそこにいただろうか。

・・・もういいだろうか。


・・・本当にもう大丈夫か。


僕の左後ろにいるアビルがゆっくりと一歩・・・歩み出た瞬間空間が切れた。

前方からまっすぐ白い線が走って目の前で壁になって消えた。


アビルは一瞬でいなくなった。

いや僕の視界から消えただけで壁に叩きつけられている。

愕然とした・・・地下から岩盤ごと切ったのか。


一瞬見えた赤いのは血か?


斬撃の衝撃でモノが倒れで揺れている・・・崩れてきている。


アビルの足音に反応して切ったのなら、音を立て崩れているモノは今なら多い。


つまり今ならば逃げれるはずだ・・・僕一人なら。


負傷したアビルはこっちを見ていた、僕の方を。左の顔は出血で真っ赤になっていた。

音を立てないように彼女の唇は動いていた。


(申し訳ありません、お逃げください)


彼女の出血は少量ではない、助からない可能性は高い。


今の斬撃で壁も切られて崩れ、館の外に直接逃げられそうだ・・・そうだ逃げるべきだ。





―――2分ほどたって斬撃で切った箇所を強引にこじ開けながら、1人の銀色のフルプレートの魔装鎧を纏った召喚戦士が出てくる。キッチンの壁を破壊して隠れ部屋に入ってくる。


倒れ伏しているメイドを見て・・・そして僕を見てこう言ったのだ。


「なぜ逃げなかった?」


計算する・・・高速で・・・これは情報だ、言葉が通じる、交渉できる可能性がありうる・・・僕は冷静だ。

言葉には動揺がある、なぜ動揺した。何が推測できる?


子供だからだ、相手にしていたのは子供だった・・・そういうことか。ならば。


二本足で立ち・・・毅然としてあまりにも強大な敵に僕は言うことがあるのだ。

身長は向こうがもちろんずっと上・・・戦闘力の差は測り知れない。

「我が名は竜王家が長子。神明半月全である。ここには3年間軟禁されている。わたしとメイドの2人しかおらぬ。望まれぬ客人よ。名を名乗れ」そう言いつつ僕はショートソードを右手で構えている。普通の人間である僕の戦闘力は召喚士の彼と比べて驚くほど小さいだろう。だがこういうのは重要だ。


見下してくれれば勝機はある・・・あるいは・・・。


彼は魔装兜・・・フルフェイスの兜を脱いだ。

「私は竜騎兵、正騎士。名は高成笹雄です。・・・ここに非常に危険な魔法生物がいる・・・恐らく人に化けた魔族がいるとの情報で探査および事実であれば除去のためにやってきました」いわゆる竜騎士だ。竜王に仕えるべき竜騎士が・・・竜王家を奇襲してくるとは・・・皮肉だ。


「あいにくキュウリしか作っておりません、戦闘行為の発案者はどなたですか」

「・・・2部団長、咲原中尉です」

「そうですか。・・・だまされましたね。咲原中尉はわたしが来る前のこの墓地の管理人代理で・・・ここにわたし達がいることを知っていますよ、前任者ですからね」まずい・・・血まみれのアビルは気を失ったようだ・・・顔色が悪い。


「竜王家の王子を殺したらあなた達もただではすみませんよ。つまり私が死んでもあなたがたが投獄されてもあるいは共倒れでも良かったわけですね。咲原中尉は。咲原中尉と上手くいっていないのでは?邪魔なのではないですか?お互いでしょうけどね」

「まぁさか、こぉれぇが実地訓練だぁとぉ?ぉお?」

「訓練かどうかわたしが知るわけないでしょう」


上手く喋れない高成笹雄はどっと倒れた。


・・・ようは無色無臭の神経ガスだ、符術で強化してある。逃げずにこの部屋に散布したのだ。

つまり・・・僕とアビルはあらかじめ効能を符術で高めた硫酸アトロピンを体内にうっている。つまり解毒剤だ。


会話したのは魔装の兜を脱がすのが目的だったわけだ。壁に穴が開いているために効くかは賭けだったが。


重症のアビルを館の外に運んで治療しなければ救急車を呼ばないと・・・ひどい傷だ。回復の符術では追いつかないだろう。止血くらいできればいいが。


11歳の僕には重かったが、館の壁の割れた箇所からアビルをなんとか連れ出した。

神経ガスの中で倒れた高成笹雄がどうなっているかなんて知ったことではない。


その時僕は見えたのだ。舌打ちする奴をすぐ近くに感じだ。肉眼では見えない真後ろにずっと奥に木々に隠れて・・・、咲原中尉だ。持っている最後のトラップ発動用符術で咲原の周囲の罠を発動させた。そのヴィジョンが霊眼によるものだと気づいたのはトラップの攻撃を受けた咲原の小さな叫び声を聴いた一瞬後だ。

ムカデのような魔法生物による攻撃で傷に同化するために通常の方法では治療できない・・・つまり傷が一生残るはずだ・・・そしてヴィジョンは徐々に途切れていく・・・なんとかコントロールを・・・能力ちからがいるのだ。


咲原中尉の気配は遠ざかっていく。一応安全なはずだ。

アビルのポケットに端末があるのが透視できる。電話できるはずだ。取り出してすぐに救急へ電話をする。この渓谷は車で入るのは難しい。医療ヘリを要請したのだ。




―――1時間2分待った、遅すぎる。あまりにも。

屋敷からは結構離れた見通しのいいところで待っているのだが。


悪い予感しかないが回復の符術でアビルの出血は止まったようだ、アビルの左半身は高成笹雄の斬撃が掠っただけだろうがズタズタで意識はもどらなかった。

屋敷は毒ガスと毒水だらけで生身の僕では入って救急箱を持ってくるのは不可能と判断せざるを得なかった。アビルを担いで渓谷から出る必要があるだろうかと考えていると。


・・・やっと上空に気配を感じた。


ヘリコプターが近づいてくる・・・1台じゃない?

ボロボロの僕とアビルの前、数メートルのところにヘリコプターが下りてくる。


確かに救急隊員はいたが、悪い予感的中だ。


黒っぽいスーツの矢富沢が降りてきた。いやそれだけではない、すぐわかった。赤いスーツを着た目つきの悪い女性、西園寺御美奈だ。父を暗殺した西園寺グループの若き指導者だ。最近、西園寺孝蔵は隠居したらしい。それと黒いスーツの女性2人だ。御美奈の側近だろうか。もう一人黄色い服の男もいるようだった・・・あれは確か父が亡くなってすぐ僕を蹴り飛ばした男だ。


口を開いたのは憮然ぶぜんとしている西園寺御美奈だ。

「殿下、なにごとでしょうか?」

「・・・いや突然、刺客に襲撃されてね」

「刺客と申されましたか殿下。どうして刺客だと断定できるのでしょうか?」

「・・・どうでもいいけど御美奈さん、この子は重症だ。手当をお願いしたい」

重症者がいるのに御美奈は無視した・・・救急隊員も動く気配がない。なるほど・・・交渉中というわけだ。


都合の良い返事をしないと救助しませんよ・・・というわけだ。


予想は当たる・・・交渉は難航した。


―――何を言っているんだこいつらは。

救急隊員はマスクを着けて屋敷に入って行った。左半身がズタズタのアビルはそのままでだ。

「―――ですから殿下。近くで演習を行っていた正騎士の隊があったのです。それを一方的に攻撃するとは・・・」

「攻撃してきたのはあいつらでしょう、不法侵入者用の罠が作動しただけです」

「劇毒物を使ってでしょうか、殿下。それは違法です」

「もともとこの屋敷にあったものです。お金も無くてね。毒物なんて購入できません」語気を荒げても事態は良くなる気配はない。僕は迷う・・・子供っぽく喋るのがいいのか紳士っぽく喋るのが効果的なのか・・・恐らくどちらも結果は同じ・・・だとしても。


対照的に優雅に御美奈はゆっくりと会話をした。


ジカンガナイ。


「・・・今の話を総合いたしますと殿下は劇毒物を使用したと言うことを認識していらっしゃいますね?」ジカンガナイ・・・僕の腕の中でアビルの体温はどんどん下がっている。冷たい・・。


ジカンガナイ・・・。


ジカンガナイ・・・!


さっさと決断せねば・・・。

「何が言いたい?こちらは時間がない」

「竜騎兵は国家公務員でございます、たとえまだ学生の身分でもです、その上・・・」

(あの11人は正騎士と言っていたが自衛大学の学生か・・・)


どうしようもない・・・敵の術中だ。


この毒蛾のような女は何を言っている・・・?

「―――よって簡易裁判の結果、殿下を国家反逆罪といたします―――しかし殿下は11歳と未成年ですので簡易の刑をこの場で執行いたします。ここにいる、あなたの後見人であり県議長の矢富沢と国会議員の大糸平太議員が刑の執行を承認いたします」

「原告はだれで罪状はなんですか・・・。弁護士も無しですか・・・」もう僕の腕の中で冷たくなってしまっている・・・アビルはもう全く動いていない・・・息をしているのか?いないのか?・・・心臓は・・・もっと医学の知識があれば・・・。


退路は無い・・・だが希望はある・・・なんとかアビルだけでも助けないと・・・なんとしても・・・何と引き換えても・・・。


その時決意が顔に目にあふれていたかは自分では分からない。

「・・・いいでしょう。御美奈さんを始めここにいるみなさん、罪を全面的に認めます。認めますからアビルを救命していただきたい、何よりも」はじめから勝ち目はない。


まな板の上で好きなように料理されるわけだ・・・これから僕は。

よくも涼しい目で笑えるな・・・キレイな人なのにな・・・。

「では・・・いいでしょう殿下。では刑を執行いたします。そう痛くありませんのであしからず」その瞬間、左肩にその周囲に激痛が走った、視界の周囲は真っ暗になり左半身は痺れていて一瞬で鈍い吐き気がして・・・いや全身が痺れていた・・・いつの間にか僕はその場に倒れた。左半身が痙攣している・・・グラグラと倒れながら見上げると矢富沢はどこか山の方を見ていて大糸平太議員はにやにやして見下ろしていた、黒い猪と黄色いナメクジに見えた。目の前の御美奈は・・・キレイな顔をした毒蛾・・・赤い毒蛾だ。

そして倒れている僕は黒服の側近に仰向けに抑えられて強引に感覚合一の儀式を行われたのだ・・・身体が動かせない僕は妖蟲族と強引に契約されていた。


左肩に消せない呪詛を受けたのは後で分かった・・・望まぬ形で召喚士にされたことも後日わかった、要は竜の召喚士になるかもしれない僕の未来を・・・反逆の意思を力を潰したかったのだろう。


痙攣して意識が朦朧もうろうとしていたその時、ただ綺麗で赤い空を見上げ・・・そして激痛のなかで連中を見渡し・・・心に呟いた。

(貴様らは高成笹雄と同じ過ちをしている。頭を潰さない限り僕は生き、牙を研ぎ、いずれ貴様らの喉笛を噛みちぎる・・・そしてこのキレイで真っ赤な空に誓う―――)




―――刺客11名は全滅だった。

救急ヘリコプターはその後数台来たが一台目が来るのがそもそも遅すぎたのだ。今回の襲撃を恐らく計画した矢富沢が西園寺御美奈と大糸平太議員にこびを売るために二人の到着を待っていて遅れたのと、僕たち一般人2人が勝つなんて予想していなかったのだろう・・・そしてそもそもこの周辺の救急への要請をブロックしていたのだろう。

11名は全員自衛大学の学生で、すでに正騎士になっていたのであればエリートコースの竜の召喚士だったのだろう・・・刺客は全員がただの大学生だった。


―――のちに分かったことだが高成笹雄は新人だが強力な騎士でコネもあり正義感が強く不正を野放しにしていた直属の上司の咲原中尉とは良くない関係であったらしい。屋敷のトラップ攻撃で咲原中尉の左眼は失明し、どんな治療をしても改善しなかったとのことだ。


自衛大学の学生が11人も不名誉な演習のミスで死んだことは隠されイレギュラーな魔族との戦闘で相討ちになったことにされ公表された。


ついでに高成家はもともと西園寺家に仕えており高成笹雄と西園寺御美奈は仲が良かったらしい、この左肩の呪詛は私怨こみだろう。

ただすべてを踏まえたうえ考えるのは・・・どうするべきだったか・・・高成笹雄は兜を脱がず戦闘中であったのだから・・・何者であろうと僕とアビルにとどめを刺すべきだったのだ。


それが僕と高成笹雄の未来を二分した。


そう・・・僕は生きており彼はこの世からいなくなった。

彼には僕と同い年の弟がいたようだ・・・僕と弟が一瞬被ったのかもしれない、そうであれば弟の存在が僕を助けたのかもしれない・・・ただ、そんな気がするのだ。


―――大糸平太議員は数年後に法務大臣となっていった。まあ大量の物品の横流しをしていたことが芋づる式に分かり先々月大臣を辞任、先月逮捕された。


―――後見人の矢富沢県議長はこの一件以来、僕を小間使いのように扱い、それに僕は大人しく従った・・・頭が悪いふりをして何年も何年も顔を隠して従った、そのうち本当に僕を本物のバカだと思うようになっていた。彼も先々月、奴隷売買に巨額の脱税に・・・動かぬ証拠が出て逮捕された。


―――そして僕はこの一件で色濃く人生に影ができた。顔を見せなければ死ななかった高成兄のことを何度も何度も何千回も思い出した。顔さえ見せなければ良かったのに・・・生きている方は逆になったのに・・・僕より彼の方が、僕より彼らの方が未来の世界にきっと役に立っただろう。11人も無実の大学生を僕は・・・何の敬意も払わず殺してしまった、11人も。そして重症のアビルに逃げてと言われて一瞬・・・逃げるか迷った僕は生きていても仕方ないクズだ。


償うには・・・どうしたらいい?・・・どうしたら償えるのか。


そうだ・・・僕こそ息をひそめて顔を隠さなければならないのだ、僕の目の炎に、闘争の表情に誰かが気づけば本当に今度こそ終わる。誰にも見られるわけにいかないのだ、誰にも。人はあまりに恐ろしい、人の目はあまりに怖い。何も見落とさないようにただ霊眼を鍛え、ただ思慮にふける、それが僕だ。


それ以来ずっと髪を伸ばして顔をそして自我を隠すことにした。

事件の約8カ月後に髪の毛がさらに呪詛の効果を遅らせる触媒になることが判明しさらに伸ばし続けた。宿舎に入れられ通うことになった学校で髪の毛妖怪と呼ばれても・・・。


―――僕の召喚獣となった妖蟲族のブラオニ―はサソリに似ているが右前足と毒針のあるはずの尻尾が最初からなかった、なんらかの弱体処置をした個体だったのだろう、無論違法だ。だが魔力が使えるのはうれしくて鍛えに鍛えたのだ。数年で第二段階のレベル100になり、蛹化もできすレベルもあがらなくなった。通常ありえないフルグロースした(育ち切った)状態となったのだ。

そしてフルグロースエッグができた。



―――騎竜モルネを第四段階にするため崖下の秘密の場所で蛹化させた。いくつかの無色の魔晶石を使用して蛹化の調整を行った、付加した竜殺属性のためだ。そしてフルグロウスエッグを発動してブラオニ―の経験を引き継がせるのだ。

これはひとつの節目だ。顔を隠すことを辞めた僕はもう一度歩むべき道を考えねばならない。


おや??蛹と化したモルネの前で頭を捻る事態だ・・・。


TMPAが思ったほど下がらない・・・4万越えている。蛹化するとレベルダウンするため弱体化するのだが。フルグロウスエッグは予想以上の効果があったようだ。蛹化している状態でレベルアップしているようだ、正確なレベルは第四段階にならなければ読めないがレベル30前後で生まれてくるかもしれない。第四段階レベル30というと修行し続けて35歳から40歳とか、召喚戦士が30歳台の後半で早ければたどり着くかというレベルだ。まあ甲竜は弱い分早熟だが・・・。

数日後の第四段階となったモルネに一応期待したい。


6年前、この地で11人は簡単に埋葬された・・・魔族と戦い消滅したことにされたのに遺体があってはおかしいのだ・・・この地で眠る彼らの墓前に手を合わせている暇はない・・・意味はない・・・自分の心に・・・ただ心に祈るのみだろう。


もう後戻りはできない・・・未来に破滅しかないとしても・・・まあそう、あの連中といれば何故か気がまぎれるが・・・ま、楽しくいこう・・・さてデキソコナイどもを毒水なんぞでやられないように多角的に且つ爆発的に成長させてやる・・・竜の召喚士として・・・。

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