第20話2-2-1.あの日は長かった―――まず女教師

―――桔梗との死闘に辛勝したのは僕の高校生活においては思った以上に分岐点になり、そして今後の僕の人生においては恐らく暗い影を落とすだろう。


―――あの日、桔梗にに勝った日は本当に夜までいろいろあったのだ。まず足がつくとマズいため、優勝楯を六学園の敷地外まで“神速覚醒”で飛んでいき質屋に売り払ってやったのだ。しかしこのミッションは困難を極めた。


「―――名前が刻まれているので当店では基本的にお取り扱いできません」

駅裏の繁華街、その一角の質屋の店員、20代後半くらい、丁寧な物腰の七三分け黒髪のスーツの男性は困ったように言う。

「ですからこれは僕の名前ですよ、金属部分だけでも売れませんか?」

「名前は個人情報になりますし、お客様のお名前でしたらなおの事、お客様にとって大事なものではありませんか。降魔六学園主催、六道召喚記念第一回予選大会優勝と書いてありますよ。日付は今日になっていますね。いえ偽物かと疑っているわけではありません、18歳ということも詮索はいたしません」そもそも17歳の僕は本当は売れない・・・。

「ですから名前のところを削って金属部分だけでも売れませんか?」

「あとで後悔することになりかねませんよ、お嬢さん」

「・・・お嬢さん?」

「いえ、お客様。しかし金属部分に名前が彫られていますよね?AKIRA ZINMEと、ここを削りますと外観にも損傷がでますし・・・。金属専門のショップでしたら買い取ってくれるかもしれませんが。およしになられた方が賢明かと思われます」


―――さんざん店員と押し問答したあげく5000円で売れた。

「あのお嬢さん・・・しばらく預かっておきますので気が変わりましたらご来店ください、本当に売るつもりでしたら・・・」

「ありがと~~」そう言って僕は店をでた、足取りは軽い・・・。


(苦労したが報われた・・・、やっとお金持ちになれたのだ。つかお嬢さんってなんやねん・・・まあいいか)軽くガッツポーズだ、周囲の一般人にジロジロみられるが知ったことではない。


美人コンテストの優勝の商品券は既に換金し、ほとんどがZ班一のお金持ちである青木小空君への借金―――約2年分―――で消えてしまった。オールバッカー主催の合コンとやらは参加費が4000円もするという―――きっとすごい料理が出るに違いない。

美容院は無料で助かったが全財産1050円しか無かったのだ。5000円プラスだ、これで6050円の所持金となったわけだ。ここ数年間で所持金が5000円を上回ったのは初めてだ。


「綺麗ですね、お金になる仕事は興味ありますか?うちの事務所でモデルしませんか?ああもう事務所にはいっているとか?」「芸能界に興味あるでしょ?」「カワイイですね・・・」「詳しい話は事務所で・・・」1ブロック歩くごとに誰か知らない人に話しかけられたが無視だ、無視。


そうそう・・・大金を持っているのだ気を付けねば。


まあ一応JDとかいう人たちとの合コンとやらの4000円はとっておくとして、残りの2050円で僕は最後の晩餐ばんさんをするつもりだ。今晩生きていれば土曜日の合コンとやらに初陣で参戦できるかもだが、今晩はすごく危ないのだ。僕の命が危険だ。


隠していたコト―――僕が竜の召喚士である事実―――は間違いなく敵にバレただろう。

敵は多く強大だ・・・。

竜王の王位継承権は、前王との続柄、例えば長男、また男子であること、召喚士であること、またさらに竜の召喚士であること、さらにTMPAが高いと上がっていくのだ。竜王位継承権、第一位は今朝までは第2高校3年A組、飛竜の召喚士、神明帝―――つまり僕の義理の弟、たった3ヵ月違いの義弟―――であった。第3高校1年A組、火竜の召喚士、如月葵―――正確には如月・神明・睦月・葵は女子だがTMPAがつまり戦闘力が異常に高くそれに肉薄し第二位であった。竜王家の長男の僕は竜の召喚士でないために王位継承権は二十位くらいであったはず。


そう今朝まではだ・・・まだ安全だったのだ。


自衛省は竜王位継承権の順位等をホームページ上で公表している。恐らく明日には僕が竜王位継承権第一位になるだろう、僕は長男で竜の召喚士でTMPAは44000のはずが竜気のために計測値50000以上とさらに誤解されている。神明帝は如月葵にもうすぐ抜かれて第三位になるだろう。神明帝はTMPA10800程度だからだ。


僕が今まで命を狙われたのは3回、5歳のとき毒殺されかかけ、8歳のときは神経毒だったが九死に一生を得た、11歳の時は11人の暗殺者に襲われた、これは本当に死闘だった。最近暗殺されないのは何故か、11人の暗殺者に襲われた直後に僕は妖蟲族の召喚士となり、ほぼ同時期に義弟は竜の召喚士となった、3か月違いの長男と次男には大きな差がつき、竜王位継承権の順位が覆らなくなったからなのだ。つまり僕は竜王を継ぐ可能性がほとんど無くなったのだ。


義弟の神明帝の母型は名家の鷺藤さぎふじ家だ。何年か調べて、これは調べがついた・・・残念なことに予想通り僕を暗殺しようとしていたのは鷺藤家の暗殺者もしくはその類縁の手のものだった、詳しく言えば竜王家の正妻にあたる神明・鷺藤・綾佳、カタチ上、僕の義母。神明帝の実母に何度が暗殺されかけたのだ。

彼女は劣等感に裏打ちされた性格の捻じ曲がった女性で僕の恐るべき敵の一人だ。鷺藤家はかつての戦前の莫大な財は無く、権力を行使するには厳しい状態だ、父、前竜王との強引な婚姻もそうだが・・・もがいているのだ。最もヤバいのは仇敵であるはずの西園寺家と組んだことだ。


火竜の召喚士、西園寺御美奈は西園寺桔梗の姉にして、まだ20代後半だが西園寺グループの総帥、もちろん独身だ。こいつが非常にヤバい。賢いし、その非情さ、その実行力、カリスマもあるだろう。第1高校召喚戦闘チーム“ホーリーライト”の創始者でもあり、降魔六学園の現理事長でもある、学園にはほぼいないが。西園寺グループはファッションから車、パソコン、軍事産業、軍備の中には西園寺グループの粋と言われる人工召喚獣も含まれるが、年商70兆円を超えるバケモノのような企業だ、旧財閥の闇そのものだ。


恐らく西園寺御美奈は誰が次の竜王でもいいのだ、どうでもいいのだろう。

西園寺グループに有益でありさえすれば。その合理的な考えで、笑顔で11歳の僕に妖蟲族を強引に感覚合一させたのだ、竜の召喚士にしないためだ。もちろん違法だ。そして僕の左肩に解呪不可能な死の呪詛を埋め込んだクソ女だ。

呪詛はもちろん・・・おもいっきり違法だ、重罪だ。だが彼女を法廷で誰が裁けるだろうか。僕の左肩の呪詛は現在クロニック状態であるが一度アキュート化すれば僕は6秒後に心臓が止まり蘇生は不可能になる。

死因は“心臓突然死”・・・それだけだ、呪詛の痕跡すら見つからないだろう。


―――つまり西園寺御美奈はいつでも安全なところから任意に僕を呪殺できる、いつでもだ。

対抗手段はどれだけ調べて・・・何千時間と莫大な時間、呪詛を研究しても一つだけしかなかった。

呪詛を僕の長い髪の毛を通させることで心停止を遅らせることができる、恐らく6秒で死ぬところ40秒ほどに寿命が延びる。髪の毛に呪詛を誘導するのは覚醒抗術がいるが。それだけのために何年も髪をのばしているのだ。


残り時間40秒で何ができるだろう。

―――もしも僕の近く、半径2キロ以内に呪詛発動者がいれば、霊眼で見つけ“加速一現”“神速覚醒”の二つの加速を重ね、音速でそいつに接近し古代竜語魔法の自爆魔法を発動する・・・ほかにも自爆のパターンはあるが。

僕の能力は理論的だ、感情や感傷を挟む余地はない・・・一時期・・・ただ相討ちを狙うためだけに傾倒し鍛えに鍛えたのだ。


つまり西園寺桔梗を倒し、竜族の召喚士だとバレた今晩は呪殺される可能性がびっくりするほど高いと僕は推察する。


西園寺御美奈以外にもヤバい敵はまだまだいるが―――。


「あ!あった!」


珍しく僕は声を荒げている。探していた“カームフル”というファミレスだ。ファミレスならなんでもよかったのだが。

「や、やった!」

まだファミレスが開いているじゃないか、営業時間知らないけど。ぁあ、お腹がすいた。最後の晩餐ばんさんにおいしいものが食べたい―――。メニューを遠隔視してやる、あ、ある!


―――リンローン!


入店のチャイムみたいのが鳴ってちょっと音に驚きつつ僕は“カームフル”に入った、ファミレスに入るのは青木君におごってもらって以来二年ぶりかな、もちろん一人でファミレスに入るのは初めてだ。ちょこっと緊張するじゃないか。

ああ、キンチョーする。高校生だってバレるとこの時間はまずいのかな?


「いらっしゃいませ、禁煙ですか喫煙ですか?」黄色い制服の女性に話しかけられる、ウェイトレスっていうんだっけ。

「あ、あの、き、禁煙で・・・高校生だし」あ、自分で高校生って言ってどうする。

「こちらへどうぞ」


案内されたのは窓際の4人席だ、オレンジのシートで窓には“カームフル”の文字が逆向きに見えている。僕は席に腰かける。あれが食べれるじゃないか。超久しぶりだ。2050円もあるんだ無敵だ。

「お水をどうぞ」

「あ、すみません、お、おかまいなく」

「ご注文が決まりましたらそちらからお呼びください」この奥のスイッチをウェイトレスさんは手で指しているようだ。

「あ、ご丁寧にありがとうございます」

あぁやっと、やっとあれが食べれる、一回やってみたかたんだ。お腹が空いて死にそうだった時に一切れあれを食べて超おいしかったもんな。


僕はすぐ呼ぶのは何かいけない気がして、メニューを見ているふりをしながらしばらくしてからスイッチを押した。あんまり早く呼ぶと怒られるんだろうか、そんな気がする。


ん?さっきと違う男性がやってきた。さっきのウェイトレスさんは来ないのかな?嫌われたの?

「ご注文でしょうか?」まあまあ気を取り直してあの子とあの子を頼むのだ。

「ミックスピザとマルゲリータのピザを、あ二つですよ、二つ。と、ドリンクバーをお願いします。」よし!言えた。対人恐怖症の僕には注文はハードルがとても高い。


ギリ2000円以内でおわる。2000円と言うとだいたい数ヵ月分の夜の食費になる。痛い出費だが僕に明日は無い、今日くらいは豪勢にいくのだ。一生に一回くらいあの黄色くて丸いやつ、ピザを一人で食べてみたかったんだ。

しかもドリンクバーはすごいよ、ジュース飲み放題じゃないか、貴族の気分だ。今日は朝は寮で食パンを食べて、それから水道水しか飲んでないのだ。


校内予選優勝記念一人っきりパーティーだ。


―――おおお!きた!きたよ!誰のだろう僕のピザが!!

ん?なんか思ったより小さいけどまあいいか。・・・僕は軽く祈る。

「もうちょっとだけ呪殺まっててね、御美奈さん」


―――ん?


―――いやな予感がする。外からだ・・・?


キキキキキキキィキィイイイイイ――――――!!!!!


何?関係ないよね?僕?

これから僕とピザのミラクルワールドを作らなきゃいけないのだ。無視だ、無視。


僕は窓の外のだれかと目が合っている、スーツ姿の鳥井大雅教官によく似ているな、そっくりだ。

自転車に乗っているみたい。脇にはどこかで見た優勝楯を持っている―――幻覚だね。これは。

幻覚だ、ゲンカク・・・タイガーセンセにそっくりな・・・あああ・・・・・・・。


―――リンローン!


「いらっしゃいませ・・・」

ほんの数秒後には何故か僕の真向かいに通称タイガーセンセと呼ばれる鳥井大雅先生26歳女性巨乳でスーツ姿がいる。優勝楯を机の上に立てかけて足を組み、指で楯をトントンして顔を斜めにしつつこっちを見ている。


―――まあ怒ってるよな、多分、あれかなタイガーセンセのジャージ着てるからかな。

ああ困った、決死の覚悟でピザまでたどり着いたのに僕は一口もピザを食べれていない。


なにやら渋い顔のタイガーは重い口を開いた。

「あの、じんめ君。優勝おめでとう。心からお祝いいたします・・・が」

うんうん上げておいて落とす会話の手法かな、ボロクソ言われるんだな・これから。


「これはどういうことなの?事情を説明してくれますか?」

あんまりボロクソ言わないな・・・思ったよりも。


「ピザのことですよね?このピザはですね・・」

「違います!」僕の話を聞かずに食い気味で言ってきた。

「え?・・・じゃあなんの話ですか?鳥井先生?」

「優勝楯のことに決まっています。」

「はあ?」意味わかんね。


「じんめ君の匂いを追跡していけば質屋に着きました。これは売ってはいけないでしょう。わかるよね?どうしてか?どうしてですか?」

「ええっ?」(微塵みじんもわからんが。)


「わからないって顔してるけどね。じんめ君?今日優勝した記念でしょう?いろんな人の思いが詰まっているのよ?」

(なにが詰まってるって食べれるの?どうでもいい、あぁピザが冷めていく。あぁ今、呪殺されたら最後に食べたのは水道水になってしまう、ドリンクバーのジュースくらい飲めばよかった。最後に食べたのが水道水に・・・悲しみの水道水なんて)


「優勝したのは本当にすごいわ、動画もみせてもらった。本当にすごいわ。先生驚いた、感動したわ。身体の動き、技のキレ、一長一短でできないわ。ものすごい鍛錬だわ・・・ん?じんめ君?どうしたの?え!どうしたの?なんでちょっと泣きそうなの?ごめんなんか気に障った?どうしたの?」

「・・・悲しみの水道水になってしまう・・・」

「す、水道水に?水道水になってしまうの?誰が?・・・先生全然、わけわからないから教えてくれる?今なにをしてるところなの?と、とにかく聞かせてくれる?」



「―――なにを言っているの」


「―――なにを言っているの、あなたは」


「―――なにを何を言ってるの?あなたは?・・・11歳の時から夕ご飯を食べてないの?・・・何を言ってるの?育ち盛りの子が・・・うそでしょう、うそだ、うそぉ、ぅそっていってよ。・・・聞きたくないわ」なぜかタイガーが肩を震わせてボロボロ泣き出した。ほんの少し伝えただけなのに。聞きたいって言うからさ。

「なにをいってるの?あなた?寮の朝ごはんとお昼の無料のランチしか5年間たべてないの?日曜日はランチないでしょ?どうしてたの今まで?夕ごはん食べて無かったの?なんにも?・・・どうしてお金無いの?」

「時々は食べてましたよ、青木君ときどきおごってくれるし」(木曜日だけはサンドイッチの差し入れがあったけど)なんでこんなに泣いてるんだこの先生は?僕のために泣いてるの?呪詛の話しもしてないのに。


「お金は18歳になるまで後見人の許可がないと下ろせませんから」

「ぇええ、ぁなたは竜王家の人間なら自衛省の金融か何かに担当がいるでしょう。そんなのひどいわ・・・ひどい・・・ぁああ・・・もんく言ってあげますからね」


「―――じんめ君の後見人は知ってるの?制服買うお金もないって・・・。11歳の子に夕ご飯食べさせないなんて・・・あなた何言ってるの?・・・何年も何年もあなた。・そんなの・・・聞きたくなかった・・・聞きたくなかったわ」僕は天井を向いて困っている、タイガーはヒックヒック本気で泣き出してしまった。大人って泣くんだな。まあ制服やジャージは神明帝の腰ぎんちゃく達に定期的に破られて燃やされてるんですけどね。


「僕の後見人は西園寺と癒着している。要は西園寺グループの息のかかった一人です。僕は竜の召喚士であることがバレてしまって細かく言いませんけど竜王位継承権が上がると命の危険があります、それで最後の晩餐と言ったんですけど」涙が机にこぼれてる・・・こんなに泣くか先生。もう全く会話にならない、つられそうになるから泣くのやめて欲しい。


横目でチラッと見てみる・・・もう完全にピザ冷めて固くなってしまった。・・・まだおいしいといいけど。


「―――ファミレスのピザなんておいしくないでしょう。もっと、おいしいところの好きなだけ頼んであげますから帰りましょう。じんめちゃん」ええ?一口も食べてないんだけど、お腹すいたし。でもそんなにおいしいの?もっとおいしいの?

「でもあの・・・」

「大丈夫、大丈夫よ。私がついています。ここの支払いはしておきます。わたしの自転車なら、あっという間につきますから・・・この時間なら部室ではなくて先生の教員用マンションでしましょうか」ややこしい最後の晩餐になってしまったな。まあおいしければいいか。


―――結局、ファミレスを出てタイガーセンセの自転車の後ろに乗ることになった。

「そっち向きに乗るの?じんめちゃん?」

僕はタイガーと背中合わせで乗ってみたのだ。何か身体でも触れば怒られそうな気がするし、まあこれでいいや。

「先生に抱きついた方が安定するのに・・・。まあいいわ。落ちないようにね」



―――時速120キロ程度か?

タイガーセンセにしてはゆっくり自転車をこいでいる。なるほど、自転車が壊れないように簡易魔力で防御してるのか、抗術に近い。ほとんど外に魔力が漏れてない、なかなか見事な能力の行使だ・・・タイガーセンセの実力ならそもそもサマナーズハイやソードフィッシュでエージェントとして就職すればよかったのに。


「待っててね。すぐピザ注文するから。他には何か食べたいものなぁい?」少し振り返りながらタイガーは話しかけてくる。

「今日で僕は最後の命かもしれないんで、普段聞かない余計なことを聞きますけれど?先生?」

「なぁに?」タイガーは乗用車を余裕で抜かしていく。

「助けられないやつらを助ける必要はないと思います。“ロードクロサイト”とめてるんでしょ?・・・熱血正義なんてイタイだけですよ」

「ふふっ、何?気にしてくれてるの?・・・そうね、珍しく自分の事はなしてくれたものね。じんめちゃんも」そう言ってセンセは話し出した、妙な感じになってきたな。


「―――昔ね、ある人を助けられたのに助けなかったことがあったのよ。チームも仲間もみんなライバルだと思っていたから。先生以外の当時のチームメイトもその人を助けなかった。結構仲も良かったんだけれど・・・普段はね」

「亡くなったんですか?その人?」

「いいえ、ピンシャン生きてるわ。・・・トラブルを起こしてから召喚戦闘ではその人は成績も振るわなくなってね、召喚戦闘部も高校ごと辞めてしまったの、その人の夢だったクラスAサマナーの道は閉ざされてしまった。私は当時猪突猛進で人と衝突ばかりしていてその人が辞めてはじめて気づいたの。ずっと助けてくれていたんだって。私は一度も助けなかったのに」

「生きてるならいいじゃないですか、生きてれば勝ちですよ、男性ですか?」

「―――ええ、男性よ。じんめちゃんて変わってるよね、不思議な感性だわ」


―――ん?この気配―――


「センセ、すみません、ちょっと用事を思いつきました、センセのマンションは分かるのであとでうかがう感じでいいですか?」

「え?いいけど?一緒に自転車で送っていくわよ。今日のヒーローですからね、なんと言っても」

「飛んだ方が早いので―――」


“加速一現”


タイガーセンセが振り向いた時点で優勝楯を残して僕はもういない。すでに僕ははるか上空、夜の街明かりを見ながら滑空していた。

(この気配は、あいつ、あいつだ・・・あいつがいる!)

今日だけで何度発動したかわからないが最大レンジで霊眼を発動する。

見つけてやる!

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