ドラゴンディセンダント

ドクターわたる

その名は神明(じんめ)

第1話1-1.黎明―――それは突然に―――

プロローグ

深夜2時40分・・・。


寝ずの番をする気だったが、さすがに少し眠くなっているようだ。

「俺もちょっと眠いっす」

欠伸あくびしているのは緑川尊みどりかわたけるだ。ベッドでスース―寝ている“ドラゴンディセンダント”のリーダー如月葵きさらぎあおいの横顔を見ている。


「それにしても、たった2ヵ月でこんなに色々あるとは驚きっす」


まあ確かに濃密な2ヵ月だったことは間違いない・・・普通の高校1年生では経験できまい。

ボソボソ小声で独り言を言っている・・・。

「まずジェニファーのお姉さま、あんなスタイルのいい女性は初めてっす。まさしくグラマー美人っす、いっしょにいるカンナさんは対照的な和風美人っす・・・なんかカンナさんは最近、俺に気があるような気もするっすけど・・・まさかっすね。二人とも年上っすけど俺は全然いけるっす・・・」

色々って最近の激戦のことじゃないのか・・・何言っているんだ。


眠気と疲れで何を口走ってるのか・・・・。

「“ドラゴンディセンダント”もかわいい子ぞろいっす。未来みくちゃんはファンクラブまでできて・・・そういえば沙羅ちゃんも和風な感じの美人っす、まさかあんな誤解されるとは思わなかったっすけど・・・」なんのこっちゃ・・・。

「そして如月の姐さん・・・美人コンテストは実は5位だったすけど・・・俺の中では不動の1位っす・・・まあ1位の子もぶっちぎりで奇麗だったすけど・・・ID交換したかったっす・・・そうそう由良のお姉さまも良かったっす」


「っは!そうっす・・・連戦で疲れた如月の姐さんの体を拭いてあげた方がいいっす・・・全然、俺にはいやらしい気持ちはないっす・・・全然っす。よく寝てるから今のうちっすね・・・」

そう言って立ち上がり何かを準備し始めている・・・。



拭こうと近づいた瞬間・・・目が合っている。


!!!


「ん~良く寝たぜ」

「げ!・・・き、如月の姐さん、残念。いや、よく寝てたっすね」

ここは如月葵の自室・・・昨日からの死闘で、つい今まで寝ていたのだ。傍にいるのは緑川尊だけ。他のメンバーはすでに帰っている。

「さすがに連戦で疲れてるっすね」と心配そうに言うが「あたしは大丈夫だぜ、緑川だって戦ってたじゃねえか」即座にそう言い放ち上半身を起こす。日中よりずいぶん顔色が良くなって上半身の背伸びをしている。

「俺はジェニファーのお姉さまが助けてくれたんで・・・」


部屋を見渡しても誰もいない。

「他の連中は帰ったんだな?」

「ちょっと前に帰ったっす」

大丈夫とは言うものの葵は本調子ではないだろう。


ふと気づいたことがあるようだ、少し口元は笑っている。

「あたしが寝てる間に妙な真似してねえだろうな?」「ま、ま、ま、まさかっす」女性とみれば結構節操ない緑川だが今晩は大人しく看病していたのだ・・・ついさっきまでは。

「姐さんに相応しい男になるまで手は出さないって決めたっす」

「・・・」


「明日は戦えそうっすか?」

分かっていることを聞くが・・・聞かずにはいられないのだろう。三日連続で死闘・激闘が続いているが明日は葵にしか可能性がないのだ。

「戦えなくても戦うしかねえな」とくに表情を変えずに葵は答えている。

そしてもう一度分かりきっていることを言う。

「相手はあの西園寺桔梗っす、昨日・・・というかもう一昨日っすね・・・自爆技を使ったダメージがどう考えても回復してないっす」

少し考えたが葵の表情は変わらない。

「・・・あいつはあたしのツレだ、助けられるのはあたししかいねえ。贅沢言っても仕方ねえぜ。今日のことは・・・でも“DD-stars”の連中にはいずれ礼を言わねえとな」「そっすね」


妙な事を口走っていることは本人も分かっているのだろうが止められないのだろう。急激に成長していると言っても二人とも15歳・・・厳しめの試練ではある・・・緑川は誕生日って言っていたから16歳になったか。

「分かりきってることっすけど西園寺桔梗はただの召喚戦闘の高校生全国大会優勝者じゃないっす。世界チャンピオンっす。俺の魔装武具レベルだと掠り傷一つ負わせられないっす」

「知ってるぜ」

「・・・できれば日を改めたほうがいいっす、せめて万全で」

「明日・・・多分明日・・・あたしが桔梗に勝たねえと・・・あいつは異能者専用の特別刑務所に送られる・・・桔梗を倒すしかねえんだよ」

難易度は相当に高いが・・・倒せる可能性があるのは葵だけ。


「・・・俺は、それとチーム“ドラゴンディセンダント”は強くなるっす・・・それに強くならないと口説くこともできないっす」

「何言ってんだが・・・後、あたしは同い年なんだから姐さんはやめろ・・・」






戦いがあった・・・第一次聖魔大戦である。約4000年前に人間と魔族の間で起きた大戦である、当初は一方的な魔族側の蹂躙じゅうりんだった。人間は絶滅するかと思われたが当時最も力を持っていた国フランヴィーネの王子Su-Saは魔族と敵対関係であった竜族との契約に成功した。

王子Su-Saは両目に紅い霊眼を宿して生まれたと言われている。竜族と人間との契約、これが召喚士/召喚戦士の始まりである・・・そのためこの大戦は召喚士戦争ともよばれている。多くの召喚士が生まれ、又あまたの戦いで死んでいくこととなるが。人間は召喚士となることで魔族と戦う手段を得た・・・竜族の支配下にあった魔獣族や妖精族、妖蟲族等との契約/召喚も可能となった。人は召喚士となることで身体能力が上昇し、魔法を使うことができるようになったのだ。その後、長きにわたる人と魔族の戦争は膠着状態となり人々は束の間の安寧を得ていた。


王子Su-Saは竜王Su-Saと呼ばれるようになって数十年、伝記によっては数百年以上たったころ“聖魔審判の日”が訪れたのだ。8体の最上位魔族が結界で守られていた王都内で突然物質化して侵攻。そして、それらが呼んだ数えきれない魔物で王都は埋め尽くされた・・・ほんの数刻で人口180万人と言われ、この世の楽園と呼ばれた王都は壊滅・・・王族や貴族や市民、召喚士も一般のものも大部分が戦う間もなく広域魔法攻撃で焼き尽くされた。老王となっていたSu-Saが狂い魔族を王都に招き入れたといわれている。27人のSu-Saの子の内、左目に霊眼を持って生まれた王子Ko-Maと右目に霊眼を宿した王女Ki-Aに狂ったSu-Saは討たれたといわれている。


魔族の攻撃は熾烈で王都滅亡の寸前、老王を討った霊眼の王女Ki-Aが自らの命と引き換えに王都を次元の奥に封印した。その時、王都は無数の次元環に分かたれ、それぞれが異なった亜空間に封印されたと言われている。8体の最上位魔族はその時に力の大部分を失いながらも生きており、分かたれた王都のいずれかの次元環に縛られ“竜王ノ聖印”によって封印されていると言われている。その後、魔族の大規模地上侵攻である聖魔大戦は約400年に一回のペースで世界各地で起きている。4000年前ほどの超々大規模侵攻はその後は認めず、地上に増えた召喚士と文明の進んだ人間によってすべて撃退されている。ご存知の通り来年の4月、ちょうど一年後は11回目の聖魔大戦の年である。といっても観測機構の報告では過去最少、極小規模な侵攻であることは世界魔族観測機構により事前に調査済である、出現箇所も3ヵ所とも既に特定されている。魔族の地上進行は聖魔大戦以外のものも含め現在ほとんどが予測可能で、最低でも70時間以上前から発生であろう魔族の編成/種類も含め推測できる、ただしイレギュラーなものを除けばである。突然のイレギュラー魔族警報にはみなさん注意しましょう。


さて、Su-Sa王には子がいた。27人もの王子、王女は魔族による大規模王都襲撃と王都次元封印により大半が帰らぬ人となっていたが隣国へ出国していた王子1人と空間転移によって逃がれた王子1人と幼い王女1人が生き残り・・・3名の王族により王朝は存続した。しかしその後分裂し、2つの王朝となったとされている。霊眼の王子Ko-Maが生き残っていたかは伝記によって異なるが一命を取り留め第一王朝を作ったとされるのが有力な説である。また生き残った幼い王女は霊眼の王女Ki-Aの娘との説もある。その後王朝は時代は異なるがそれぞれ分裂し4つに分かれる。第二王朝から第三王朝が生まれ後に第一王朝から第四王朝が独立した。4つの王朝の王はそれぞれが竜王を名乗り我こそはSu-Sa王の後継者だと隆盛を極め、あるいは竜王同士で争い、あるものは欲望の赴くまま破滅の道を歩んだ。文明が発展し科学が進歩しても人の本質はあまり変わらない、現代も似たようなものなのかもしれないと思う。第二王朝と第四王朝は第4回聖魔大戦で滅亡している。


竜王の血筋であることの証ともいえる竜の霊眼を持つものは数世代に一人の割合で生まれ超常の能力を有した・・・ただし両目に霊眼を宿したのはSu-Sa王のみとされる。

まあこれはとにかく昔々の話。王朝はすでに廃れてしまって久しいが、みなさんもご存知の通り現在も直系の子孫がいる。第一王朝グランヴィーネと第三王朝レグラの二つである。

この降魔六学園にも竜の王朝の末裔がいるのだ。




僕は夜の海にいる。一人きりで立っている、いつからここにいるのだろう。暗い海と闇の塊のような重い空だけが無限に続いているように見える、星はない。海と空の境界線だけ異様に青く明るい・・・荘厳だ、美しいと思う。どれだけそこに佇んだかわからないが突然何かの気配を感じる。一人きりかと思われたが視線を感じる・・・すぐ後ろに誰かがいる。僕は振り向く。女性のようだ、浮いている・・・いや、とにかく妙だ。両手は真っ黒い羽が生えていて彼女のつま先よりも下までの長い羽だ、体幹は真っ黒い羽毛で覆われた女性、身体はそう女性と分かる・・・カラスのような女性だ。目は両方とも黄色く淡く光る。その黄色いガラスのような目でこっちを見ている。ただただこちらを見ている。誰だっただろうか、顔は無表情だ。名前は思い出せない、見たことはない、分からない。声をかけようとすると烏女(からすめ)の身体が―――そう烏女と呼ぼう―――足先から闇に溶けていく。その中で黄色く輝く双眸だけが残り何かを訴えるように光り輝いている。以前もこんな光景をみた気がする、そうここは多分夢の中・・・起きれば記憶は流れて留めておくことはできないのだろう。




―――2055年4月15日。


召喚士は悪魔を打ち払うもの―――なんて今では誰も思ってはいない。

一般の認識は、召喚士は強い、一般人と戦えばまず勝てる、なんかカッコいい、お金持ち多い、権力者、特権階級、さらに竜族の召喚士ならなお上位の特権階級、その程度の認識だろう。実際本当に特権階級になるには召喚士国家試験を合格し・・・且つ一流企業のソードフィッシュやサマナーズハイにいい条件で就職しなければならないが・・・さらにそのあとも競争は続く。


召喚士を育成する降魔六学園に今年も春が来て各学園の校庭の桜は咲きかけている。

降魔六学園は結界で守られた巨大な敷地に六つの高校がある、敷地の中央にはデパートや商店街もある。世界でも珍しい召喚士だけが入学できる全寮制の高校群だ。一般人は商業関係を除き基本的に立ち入り禁止だ。

六つの高校の間は能力や成績でかなり自由に転校が可能だ。だが能力が低く強制的に転校になる場合もある。これは生徒のみならず教員も同じだ。

六つの高校にはそれぞれ特徴がある。ちなみに生徒は全員が各学園の召喚戦闘部の各チームに必ず所属する。文化部は兼任になる・・・文化部に入るかは基本的に自由である。通常のスポーツ部は存在しない。


降魔第1高校・光聖学園、エリート中のエリートの高校。生徒数は最も少ない。

降魔第2高校・輝生学園、権力者や富豪、貴族、財閥の血縁等、肉親が社会的にエリート。

降魔第3高校・帝斉学園、バトルマニアが多い。自主イベントも多く、生徒満足度が高い。

降魔第4高校・翠盛女学園、女子高。第2高校と同じく権力者の娘が多い。

降魔第5高校・金星男子校、なぜか学ラン。全生徒が二つある応援団どちらかに所属する。

降魔第6高校・更正学園、掃きだめ6高の異名を持つ、ここでもダメだと退学になる。


将来を夢見ている新入生がほんの数日前、3000人ほどもが第1高校の敷地内にある凌空門をくぐり―――凌空門と言うのは高さ70mもある凱旋門のことだ―――一か所に集まり合同宣誓して統合入学式を終えた後で六つの学園にそれぞれ分かれた。さらに各学園で入学式を行うのだ。


各高校とも新たな期待に満ちたような独特な4月の雰囲気だ。

最も、3000人のうち召喚士の資質の低いもの・・・数百人は3年間の高校生活の中で弾かれ退学か降魔六学園以外に転校になる。

ちなみにボクはこういう、うわっついた雰囲気は大嫌い。どうせ何かが変わるなんて幻想なのだから。



朝6時前、そろそろ始まるはずだ。


赤いブレザーを着た女性が第1高校の校舎の一階廊下を歩いている。

長身でスタイルは良いだろう、身長は175㎝と公表している。胸には青い魔水晶、プラチナのチェーンで首から下げている、足早に歩くたびに魔水晶が揺れて淡い青の光がゆらゆらと輝いている。髪は肩まで黒髪で顔立ちはモデルの誘いも何度かあるとのことで整っている方だろう。

が、眼光は異様に鋭い・・・ただ者ではない威圧的な雰囲気をかもし出している。この降魔六学園で最も有名な第1高校の生徒会長の西園寺桔梗さいおんじききょうだ。召喚士のみが参加できる公式中学生召喚士全国大会は中学二年で個人戦を全国優勝して以来、一度も公式戦で負けていない。つまり高校1年にしてその年の10月の公式高校生召喚士全国大会の個人戦で上級生を倒しまくり優勝したのだ。召喚戦闘の個人戦はもちろん男女混合で行われる。つまり西園寺桔梗はぶっちぎりで最強の現役高校生召喚士だ。100年に一人の逸材と言われている。


召喚士戦闘能力とほぼ同義語のTMPA(Total-magic potencial ability; 総合魔法能力、TMPAはTMA、Total-magic abilityと略されることもある) が召喚士の大体の戦闘能力を知るとき重要だが西園寺桔梗のTMPAは52000を誇る。多くの生徒は個人情報である自身のTMPAを公表していないがこれはバケモノのような数字だ(ちなみに桔梗も公表しているわけではない)。高校生でTMPAが30000超えていたら各地区の大会で余裕で優勝できる、地方の高校なら英雄になれるだろう。TMPAはさらにMMO(Max-Magic Output;最高魔法出力、つまり魔法攻撃力)とAnti-Magic ability(AMA;抗魔法能力、つまり魔法防御力)に分けられる。桔梗のMMOは29000、AMAは23000である。MMO29000は理論値だが実際、全国大会レベルの防御特化型の召喚士を一撃で葬る。そして公表している完全魔法防御率33%も異様に高い、23000×0.33は約7000。つまり桔梗の魔装鎧の上からの攻撃つまりMO(Magic Output;魔法攻撃力)7000以下の魔法攻撃を完全無力化、MO7000以下の物理攻撃をほぼ完全にダメージカットできる。TMPA15000前後の召喚戦士は、魔装鎧をただ着ているだけの桔梗にダメージがほとんど通らないことになる。



―――西園寺桔梗は廊下をやや足早に歩いている、朝もまだ早い。丁度、巨大な置時計の前を桔梗が横切ったがAM5:50である。まだ薄暗い第1高校の第三校舎の廊下をさらにスタスタ歩いていく・・・会議室へ向かうためだ。今日は降魔六学園の敷地内にある6つの高校の生徒会役員3名ずつがこの第1高校に集まる総生徒会の日である。定例会後に各高校へ生徒会長ら役員達は戻る必要があり、さらに各高校で伝達/検討するため開催時間が段々早くなっているようだ。最近議題が増えたせいと4月の今年度最初の定例会だからであろう。桔梗は去年の高校2年の4月に第1高校の生徒会長となり昨年10月、今年4月と選挙を勝ち3期連続で第1高校の生徒会長と降魔六学園すべてを束ねる総生徒会会長を兼任している・・・桔梗は最近のいくつか面倒な問題を思い出しているようだ。


「おはようございます、総生徒会会長。桔梗さま」桔梗は気配は既に感じていたようだが自身の斜め左後ろから声がした。足音は全く聞こえない。そして振り向かずに答えた。

「おはよう更科書記長」

「はい、あの」

更科書記長と呼ばれたのは同じく赤いブレザーを着た第1高校女生徒だ、髪は三つ編みで胸には白い魔水晶をかけている。そして両膝を曲げたまま宙に浮遊している・・・足音がしないのはそのためだ。桔梗は更科と呼ばれた女生徒を遮り続けた。

「二人の時は下の名前で良い、友人なのだから更科麗良さらしなれいら。それで第3高校の新入生について何かわかったか?」

「さすがです桔梗様。その情報を直接伝えたく思いまして、3高の例の新入生問題児ですが・・・」

「うむ。第3高校のあの纐纈守人を校内ランク戦で破ったとかいう?纐纈3回生は降魔六学園十傑の一人である。事実なら面白い」

「はい。まずそれに関しては事実確認できました・・・」

更科が勿体つけるときは何かあるのが通例だ、桔梗は歩くスピードは緩めず初めて更科書記長の方を向く。更科書記長は一定の距離を保ち浮遊しながら着いてきている。


「あの桔梗様、まず新入生の召喚獣はやはりといいますか。竜族です・・・火竜の一種どうも・・・”紅蓮返し”のようでございます。」

「・・・”紅蓮返し”?ほう。それは・・面白い・・な。」目を少し見開いた桔梗だがそれほど興味なさそうだ。

「それと夜通しデータベースにアクセスして調べたのですがとても重要なご報告が・・・」

「ふむ。まあいい後で聞こう」

第12会議室と書かれたプレートの前で桔梗は立ち止まり右手で話を続けようとしている更科書記長を遮るしぐさをして会議室に入っていく。



第12会議室は比較的小さな作りだがすでに各高校から生徒会長と副会長、書記が左から順に3人ずつ並んでいて全部で18人いるはずである。一段高い壇上に進む桔梗から見て左周りで第2高校、第3高校と続き楕円形の円卓にすでに各高集まっている。降魔六学園の高校の位置、配置と同じだ。第5高校のみ全員男性で学ランである。後は少々形と色、校章は異なるがブレザーである。


会議室に西園寺桔梗と更科麗良が入ると緊張が一気に高まる。各高3人ずつ全員直立不動であるが各席の机には金属のネームプレートが付いている、各高校の生徒会選挙は最近終わったばかりだが既に各人の金属プレートができているようだ。壇上で桔梗を待っていた長身の男子生徒―――第1高校の副会長の高成弟である―――は必要あるのかという位にうやうやしく桔梗に一礼している。


「おはようございます。総生徒会長」ほぼ一糸乱れず全員が図ったように頭を下げる。一昔前の軍隊のようだ。総生徒会長をはじめ会議場のすべての出席者は全員チェーンのネックレスを首に下げており先端にはそれぞれクリスタルがついている。このクリスタルは力ある石―――魔晶石だ。召喚士の魔力の媒体となり特に魔装鎧のコアになるのだ。

「うむ、みんなおはよう。座ってくれ時間がおしい、高成副会長待たせたな。今日の議題の進行を頼む」

「わかりました、着席してください皆さま。桔梗様それでは・・・」と高成が続けようとした瞬間、全員が着席するや否や桔梗は座ろうとはしない、何かを見付け、はじけたように全身に紅い魔力をまとっている。髪の毛が赤くなり魔力の放出に伴いゆらゆらとうごく。


「第4高校の蜂野菫子はちのすみれこ生徒会長が来ていないようだが何か聞いているか?城島由良じょうしまゆら副生徒会長?」

第4高校の生徒会役員は、楕円の机の西園寺桔梗の席の対面にいる。4高の役員席は一席が空席になっており生徒会長が欠席しているようだ、第4高校のみ生徒会役員は2人しか出席していない。つまり会議室にいるのは17人のようだ。


一同の注目を集め飛び上がるように城嶋副会長は立ち上がる。髪はピンク色のツインテール、目はややつり目できつい印象、両手の指すべてに色違いのネイルアートをしておりブレザーを着ていなければ高校生には見えないかもしれない。化粧もばっちりしているようだ。第4高校の左隣の書記席の地味な女生徒も同時に立とうとしては思いとどまり机の上に両手をのせて桔梗と城嶋の顔を交互に見ている。二人とも第1高校と異なりブルーを基調としたブレザーだ、城嶋の胸の魔水晶のチェーンは装飾が豪華で静まり返った会議室内で勢いよく立った瞬間なかなか派手な音を響かせている。


「あ、いえ先ほど1高の副会長であらせられる高成崋山(たかなりかざん)様には今もご報告させていただきました通り、あ、蜂野は昨日から体調がすぐれないとのことで昨日、あのですね。あの、いえ。わたくしに夜間連絡がありまして。あ、いえあの昨日はわが・・・あの4高の校内戦の説明会とか忙しかったこともあり・・」城嶋由良はこれでもかというほどシドロモドロしている。圧迫感は増し、桔梗の赤い髪がさらに激しく動きながら城嶋の話を最後まで聞かず話し出した。


「今期1回目の総生徒会を各高の代表たる生徒会長が休むとは何事か、落胆以外のなにものもない。協力し合う気が無いとの現われか?体調がすぐれないだと、真剣みが足りないのではないか?降魔六学園総生徒会執行部に反意でもあるのか??選挙で役員になったばかりで申し訳ないが第4高校の生徒会役員と各召喚格闘部部長をすべて解任・解体し我が第1高校総務部のものを第4高校のの臨時生徒会長に任命し転校させる。明日午後まで貴高の蜂野菫子生徒会長から何らかの申し開きがない場合は総生徒会権限を履行する、よろしいか?城嶋由良副会長?」

桔梗の全身を包む炎のような魔力の波動は既に天井に届きとてつもない迫力だ。ほぼその場の全員が飲まれてしまって引いている感じだ。


「はぃはぃはひ、反意などありぃません。分かりました必ずご連絡いたします。蜂野董子の方から必ずでございます」声が震えている・・・。


第4高校の城嶋は桔梗の圧力で顔が引きつり声も絶え絶え、両足はがたがたと震え魔水晶もチャリチャリ音をたてる。相変わらず桔梗は特に第4高校に異常に手厳しい。桔梗は昨年も総生徒会長を務めたが1年の間に総生徒会権限で3人の生徒会長をクビにしているのだ。そのうち比較的自由な校風である第4高校の生徒会長は二期連続で二人とも解任され掃きだめ第6高校へ強制転校させられている、一人はすぐに六学園以外へ転校した。城嶋由良副会長の恐怖はかくあるべきなのである。


そのまま桔梗は微動だにせず続ける。

「本年度の第一回の総生徒会である。初めて生徒会役員となったものも多い、最初なので少し議題の前に話しておく。我々の立場と義務を徹底させる必要がある。わが降魔六学園は召喚士と召喚士の素養のあるエリート中のエリートのみで構成され、厳重な審査のもと凌空門をくぐり入学を許されている。この凌空門をくぐった時点で我々は選ばれたのである・・・自覚を持たねばならん!我々は須らく将来、過去、現在において社会の模範で且つ指導者たらねばならない、この点の自覚が各人足りなさすぎるのだ。この世に召喚士は50人に1人、2%だ。さらに召喚士の50人に1人が竜族と感覚合一し竜の召喚士となる。全人類のたった0.04%が栄えある竜の召喚士となれるのだ。生徒会役員の絶対条件、立候補には竜族の召喚士であることが義務付けられている。これには竜族以外の召喚士からの否定的な意見や反発が多々あることももちろん知っている。しかし声を大にして言おう。我ら、力を持つ者は行使する義務があるのだ。力無き者は従わせればよい。知っての通りこの学園は今年で20周年の節目を迎えている、内外に力を見せるには竜族の力が不可欠なのである。我らはこの国のすべての高等学校および社会をリードし君臨せねばならん!」

桔梗の両隣の更科書記長と高成副会長は拍手しており高成副会長に至っては何故か涙ぐんでいる様子だ。少々気持ち悪い。

「ここは南北に20キロ、東西に13キロの強力な結界で守られている。この敷地内に六つの高校がある、これは850年前の召喚戦争のときに六つの召喚軍に分かれ戦ったことに起因し初代理事長、西園寺孝蔵が作りあげたものだ。さらに現在は学園敷地内であれば魔力の使用と召喚獣の召喚には国や自治体への許可が基本的に不要である。この国の召喚士の通う高等学校は数知れないがこの降魔六学園のみに与えられた特別な権限であることを自覚せよ!いつでもだれでも自由に校内ランク戦が生徒同士の判断で行える・・・これを生かし発展させるのが生徒会の役目である。

召喚士が生まれ4000年、貴賤はこの時より生まれ現在も続いている。人は平等ではないのだ。召喚士もまた平等ではない。召喚士の役目は元来命を賭け魔族を打ち払いまた命を賭け持たざる者を守りその人々を指導し導くことである。力を持ち優秀なものがリーダーとなるのだ。そういう意味で各高の校内ランク戦は召喚士を成長させ自覚を促す狙いがあるというのに活発さが欠け特に4高は校内戦そのものが少なすぎる!また真剣みが全く足りていない。戦いとはとかく真剣・・・命がけでもちろんルールを厳守し行うものである。そう思わないか高成副会長?」

高成弟は忠犬だからなあ。

「無論であります!総生徒会長さま!・・・我々は桔梗様の手足となりこれを助け桔梗様の御意思を理解できない、あるいは仇なす輩はこの栄えある第1高校の副生徒会長兼、六学園風紀委員総長の高成が厳罰を持ってあたります!お任せくださいませ!・・・・えーえー・・・それでは議題の進行を始めさせて頂いて宜しいでしょうか?」

「うむ、まかせる。始めてくれ。高成副生徒会長」

そう言って桔梗は初めて壇上の席に腰かけ足を組んだ。他校から来ている出席者たちの表情は固まっている・・・まあそりゃそうだろう。



―――いくつかの議題が終わった。

中でも度重なる第4高校の関与する私闘の問題で城嶋由良副会長はもう一度立たされ叱責され全身汗まみれになって桔梗の指向性の高い魔力波動で化粧が少し崩れ服までボロボロになったことは言うまでもない。


「―――ほかに何か今回議題にあがっていない問題提示のあるもの。挙手を?」

高成弟がこう告げるとたいてい会議は終了である。

「無ければこれで今年度の第一回総生徒会を終わりま、ん?」

小悪魔的に軽く笑いながら更科書記長が高成を見ながら手を挙げている


「えーうっほん、更科書記長どうぞ」

「はい、問題提示ではないのですが。しかし情報の共有が必要と思われますので挙手させていただきました。総生徒会長、発言して宜しいでしょうか?」

司会進行役の高成副会長がどうぞと言ったのだから発言は問題ないはずだが更科は桔梗に許しを求めた。

「もちろん構わない。」


やりにくそうに高成弟は右手で後頭部をかいている・・・更科麗良が苦手なようだ。

「ではご説明させていただきます。3高の新入生についてです。如月葵1回生のことです」

ちらりと更科は3高の3人のほうに目をやる。3高の生徒会長と副生徒会長は顔を見合わせ「やっぱり」などと小突いている。

さらに更科は続けて「入学したてですが校内ランク戦を2回と私闘を2回行っておりすべて勝っております。私闘に関しては褒められたものでありませんが相手はいずれも上級生でかつ複数対一人ですのでこの際、賞罰に関しては不問とします。校内ランク戦は全国大会常連のDD-starsのレギュラー、また降魔六学園十傑5位の纐纈3回生を倒しました。」


「え―――!」

「一対一でかあり得ん!」

「まじでぇ?あの纐纈守人がぁ?」

もっとも大きな声を上げたピンクツインテールの城嶋由良は桔梗に睨まれ一瞬で小さな石像のようになって固まっている。


「まあ優秀な竜の召喚士は学園的に歓迎ではあります。ちなみに召喚竜は火竜系最強の”紅蓮返し”だそうです」

目が泳いでいる高成弟が唸る・・・纐纈君が倒されたのがショックなのだろう・・・ライバルだからな・・・。

「むう、火炎ブレス最強の”紅蓮返し”か・・・しかし校内戦は抗召喚結界の中だ。魔装鎧のみで通常戦闘中は召喚はできない。”紅蓮返し”にブレスを吐かれることはない。ただ纐纈選手を倒すとなるとただ者ではない!・・・1回生に倒せるのか・・・」


首を傾け更科はにっこり小悪魔風の笑いを続けながらぼそっと言う。

「高成君は纐纈君に勝ったことないんでしたっけね?」いい性格してるなあ・・・。

この総生徒会出席者の中で纐纈3回生に校内戦や公式戦で勝ったことがあるのは西園寺桔梗と更科麗羅の二人だけである、というか二人とも一度も纐纈3回生に負けていない。高成は両手を後ろに組み押し黙ったままである。


「校内戦と私闘の話はおまけです。彼女について本題に入らせていただきます。昨夜から調べていたのですが彼女の正確なフルネームは如月きさらぎ神明じんめ睦月むつきあおいサマです。」更科は一語一語区切って彼女の名前を説明する。


「何?竜王家か?」


一瞬で回答にたどり着いた桔梗とそして周囲の者も幾人かは気づいたようだ。

「如月という母親の姓を名乗っており発見が遅れました・・・といいますか今までどうやって隠れていたのか不明です。前竜王の娘、神明家の第二王女です。間違いありません。王位継承権はご長女で第一王女である神明じんめ十六夜いざよい瑠実燕奈るみえんなサマがすでに継承権を放棄していますので序列第二位になります。竜族の召喚士でかつこのTMPA(総合魔法能力)40000前後を加味いたしますと序列第一位になる可能性もあります。」


「計測間違いではないのか?更科?」こわばった顔になっているな高成弟・・・。

「よ・・・4万だと!!一年生のレコードじゃないのか、下手したら桔梗さまより上なんて」

「いやいや・・・まじか!」

「ひょぇー!!!」

「ぇえ――――!」

「序列2位!!そ、それはまずいぞ」

第2高校の目の細い生徒会長が一番驚いて頭をかかえて呻いている。第2高校3年生にも竜王家の家系の一人がいるのだ。

「大問題になるぞ・・・あの方にどう説明するんだ!・・・あぁあ」と初めて今日発言した。冷徹な桔梗も珍しく天を仰いでいる。

「何らかの手を考える必要があるとういことか」


・・・西園寺桔梗と如月葵さて・・・刮目して見るべし・・・だ。




―――昨日、降魔六学園の統合入学式が終わり・・・本日午前中に各学園での入学式が終わり・・・そして新一年生にとっては退屈な午後のレクリエーションもつつがなく終了し一旦今日は学校という檻から解放されるわけだ。


―――降魔第3高校・帝斉学園の1年生校舎の正面入り口に数人の人影がある。

「おめえどこに目ぇつけてるんだ!一年坊主!」

「すんません、すんませんっす」

「すんません!じゃすまねえんだよ!・・・周りのやつらは何見てやがんだ!くそうぜえ!」

まわりの1年生は蜘蛛の子を散らすように消えていく。


啖呵を切っているのは降魔第3高校・帝斉学園3年の白川だ、真っ赤な坊主頭で身体はタンクトップ、かなりの筋肉量で浅黒く両手をズボンのポケットに突っ込んでいる。金のネックレスをしておりシルバーのクリスタルがついている。威嚇している顔はまさしく醜悪を絵にかいたような様相で右の眉を大きく釣り上げている。不細工だな・・・。こいつは第3高校の校内ランク戦ではB級上位、TMPA:約22000、召喚獣は妖蟲族だ。さらに後ろに二人連れている。多分二人ともC級だっただろうか・・・3人組だ。帝斉学園召喚戦闘部のチーム“BQラーズ”の連中だ。BQはなんの略だったか思い出せないが・・・。とにかく“BQラーズ”はランク戦より私闘が多く素行不良で知られている。1年生の校舎に用事がないのは見え見えでようは絡みに来ているわけだ。


その絡まれている不幸な1年生は身長170㎝位、髪は長めで茶髪・・・よせばいいのに髪をかき上げながら名前を答える。

「お、おす。1年C組の緑川尊みどりかわたけるっす」

「おお!緑川君か!上級生に挨拶はできるんだな!」

醜悪な表情のまま、白川はズイっと緑川1年生に寄りながらまくしたてる。


「上級生に会ったらまず挨拶だろ!おれが3年の白川だ!覚えとけぃ!」

「は、はい、すんませんでしたっすー!」下級生にすごむ3年生ってカッコ悪いなあ。

緑川1年生は謝り倒してやり過ごす気配だ。

「緑川君!おまえは見所あるわ!」

「ケケ、見所あるね!」

「見所。見どころ!」

白川の後ろの二人・・・手下AとBも乗ってくる。


そのまま人気のない体育館の裏に手下AとBに緑川君は肩を組まれつつ―――パッと見なかよさそうに―――連れていかれる。手下AとBの首にもそれぞれ魔晶石が煌く。


一生懸命に緑川尊は身振り手振りで訴えている。

「はいはい。ご指導ありがとうございましたっす。ではわたくしはこれで失礼いたします。」

爬虫類みたいな顔で白川は左手でそそくさと去ろうとしている緑川の肩をガシッとつかむ。

「いやいや、それはチョットつれねえな!」

「わかりました。得意の“矢吹ゴロー”のものまねをします。ソンナトコロでフワッフ・・・ごっ!!」えええ!結構余裕あるな。


イグアナみたいな顔の白川が緑川一年生の頭を右手でわしづかみにしている。かなりの圧力なのか、緑川君は顔面いきなり汗だらけである。

「緑川尊くうん!」

「は、はい」

「おまえは見所がある!俺には分かるんだ!1年C組だろ」

イグアナ顔の白川は右手で緑川君のあたまをガシガシしながら緑川君の胸の1-Cと書かれたバッチを人差し指でツンツン突いている。


「はいそうですけど?」

「まだ召喚できないやつらはOとかPとかQ組あたりに割り振られるわけだよ?ああ?」

「はぃ」

「だからおまえは俺たちと同じ召喚戦闘部所属の戦闘員なわけだよ、いわゆる?わかるよな?召喚できるんだろぉお?うそつくなよ!あ?」

「いちお、できますけど・・・」

「・・・れなら、はなしはぇ~ぜ。俺ら3人と校内ランク戦しよっか!もちろん一対一だ!・・・まあただし!緑川尊君は3連戦になるがな!」

「ケケ、ランク戦か!頑張っちゃうか!」

「ランク戦ランク戦!」

知能低そうな手下AとBも相槌をうっている。こいつら2年生かな?あんまり興味わかないな。


「いやあの1年はまだランク戦の詳しい説明は受けていませんの・・・いたたっ!!」

イグアナン白川は緑川君の頭を強めに握ったようだ。・・・決めた・・・イグアナン白川ってあだ名にしよう。

「知ってるよ!だから優しい先輩様が講義してやるって!召喚戦闘部はなあ入学した時点でな・・・1年生は1500ポイント持ってるんだ最初はな!緑川君もな。その左手首のポイント計測器な。それでぇ勝つと相手のポイントが少しもらえる仕組みさ!負けると減っちゃうけどなあ!」

「ケケ」

「減っちゃう減っちゃう!」

「そのポイントかけてすこぉしランク戦をして欲しいわけよ!」


―――ようは“新入生狩り”である・・・カッコ悪い。校内ランクポイントを稼ぐために弱そうな1年生から搾れるだけポイントを奪う気だ。首から魔晶石を下げていない緑川君はカモにされるわけだ(魔晶石を持っていると魔装できる可能性が高いからだ・・・つまり手強い・・・と)。・・・まあ、しかしここでは絡まれる方が悪いのだ。緑川君は先輩たちに安くない授業料を払い第3高校・帝斉学園のルールを叩き込まれるのだ。


ん?

―――どうみても危ない連中のイグアナン白川達に止せばいいのに背後から近づいていく女子生徒がいる。


ゴスッッッ!!


「ブホッッツ!!!」

イグアナン白川3回生がイグアナの悲鳴のような奇妙な声を出しつつ(イグアナの声知らないけど・・・)空中でキリモミしながら体育館にぶつかり、跳ね返りもんどりうって地べたに転がっている。手下二人は目を白黒させている。


「ケ?!!」

「し、白川さん?」


イグアナン白川の立っていた場所にはチェックのスカートから伸びた女性の右足があった。白川先輩はどうやらこの女子生徒のハイキックを背部からくらって飛んでいったわけだ。イグアナン白川の手下AとBが一斉に吠える。

「てめえなんなんだ!」

「おまえ!おまえ!おまえ!なに!なにしたんだ!今!」

呆然として緑川君もその女性に呟いた。

「ああああああ!・・・み、み。水玉、水玉のパン、パンツ・・ゴハッ!」

顔面を突然なぞの女生徒に殴られ緑川君は鼻を変形させながら転げまわった。痛そうだ。

「ぐああ!た、た、助けに来てくれたんじゃ・ないんすかぁ??」うん普通そう思うよね。


手下Aはぎこちなく両手で顔をガードしつつ、

「いやマジでマジで、なんなんだ!おまえ、おまえは!無差別、無差別攻撃か!」


第3高校のブレザーを来た女子高生だ。1-Aのバッチを付けている。


「たっまんねえな!人んちの前で!あんたら・・・ぅるせえんだよ!!」

間違いなくこの女子生徒の家の前ではないだろう。


女子生徒の髪はロングで茶髪だが、ところどころ薄いブルーでありツートンカラーになっている。薄ら笑いをしながら生意気そうに右口角をつり上げている。首には緑と赤の2種類の石のネックレス―――魔晶石をかけている。


手下Aは相手が自分よりかなり小さい女子生徒でやや安心したかのようだ。威圧的な態度が復活している。つまり相手の能力―――戦闘能力―――TMPAが全く感知できないわけだ。

「おいおいおいおい!!よー!!分かってんだろうな!!そっちから仕掛けて、仕掛けてきやがって!おお!?」

頭悪そうな手下Aはポケットに両手をつっこみながら威嚇している。


「すっばらしくだっせぇーな!あんたら!今時めずらしいぜ!」

女子生徒は楽しそうに笑い上唇を尖らせ言う。20㎝は背が高いであろう手下Aがジリジリ近づいて威圧してくるが女子高生は薄ら笑いわ止めそうにない。


「がああああああー!!!!」


イグアナン白川の声だ。肩を貸そうとする手下Bを振り払いながら肩を怒らせながら女子高生に肩を怒らせ近づいてくる。全身擦り傷だらけだ。

止せばいいのに女子生徒が挑発する。

「けっこう防御力たけえじゃん。先輩?」

「3年の白川だ!ガチバトルで有名な第3高校B級ランカー上位の白川だ!1年女子が!わざとじゃねえなんていわさんぞ!・・・おぉおぅ!いい蹴りだ!いい蹴りだったな!覚悟できてんだろうな!!」

擦り傷だらけの自分の顔を撫でつつ、イグアナン白川は全身震わせながら魔力を全身から漏れ出させている。


「てれるねぇ。手加減したのにそんなにいい蹴りだったぁ?でもさっきより男前になったぜあんた。・・・ふ~ん?魔力もれてんぜ、そんなにやりたいか?あたしと?・・・なら・・相手になってやろうか。名乗る名なんてないが、あたしは如月葵きさらぎあおいだ!この名前・・・覚えときな!」

いや名乗るんかい。


顔を真っ赤にしてイグアナンが吠えた!

「おう!如月葵か!覚悟しろ!手越、下池!魔装しろ!3対2だ!ガキはまかせる!」


おびえる緑川君は如月葵の背中に隠れながら困った顔をしている。

「えー俺まだ関係あったんすか?しかも教官が最低一人はいないと、ここで戦ってもランク戦になりませんよぉ?」

手下A、Bは手越と下池だった。・・・でもどっちがどっちかわからないが。緑川君は自分で詳しくないと言いつつ実はランク戦については結構知ってそうだ。


「おっけーっす。白川さん!」

「ガキ!・・・ガキ!」

BQラーズの3人は魔力を物質化させて身に纏う―――いわゆる魔装鎧を発動する。魔装鎧ができるということは手越も下池もTMPA(総合魔法力)10000以上は最低あるだろう。

・・・うん丁度10000くらい・・・雑魚だな・・・。

―――魔装鎧ができると一人前の召喚士とみなされ、できない者は召喚戦闘で優秀な成績をおさめるのは難しい・・・まあ、たまにいるけど3高にも大津留とか。


さてイグアナン白川達3人は戦闘モードになっている、まあ一応3人のコンビネーションにも注意が必要か・・・。



―――後日、緑川尊は足を組み腰かけ茶髪をかき上げつつ、こう語っている。

「沙羅ちゃん、すげえんすよ。まじで。全然みえないんすよ。魔装鎧も見えないし攻撃も見えないんすよ。3人とも消し飛んでたんで。マジとんでもねえスピードなんす。もともと最初に白川先輩を蹴った時もどこから来たのかも見えねえんす。俺を助けに来てくれたんすね。愛ですよ愛。見えたのは超キュートな顔とですよ、すらっと伸びた白い足の先にはなんとチェックのスカートがめくれて白に水玉の模様のパンテ・・・いてててて!!ガッ!!!」緑川尊はつねられその後、顔面は殴られ変形した―――。



―――手越と下池は一人は校舎に突きささり、一人は木の上だ。足だけが緑川君からはかろうじて見える。イグアナン白川は地面に頭から突き刺さっていて何かのオブジェのようだ。如月葵の魔装鎧はすでに解除されていて緑川はなんとなく赤い鎧だった位しかみえていない様子だ。


「す、すげえ!っすげえっす!如月の姐さん、おれ感動したっす!」

「はあ?そ、そうか。・・・つか姉さんって同じ1年だぜ」


「いや俺には分かったんす。如月の姐さんについていくしかないって。この強さ、この美しさ。このセクシーさ。ぁぁ。ああ!申し遅れました!わたくし1年C組の緑川尊です。今後ともよろしくお願いいたします。助けてくれてありがとうございましたっす。ぜひお礼のためにアドレスの交換を。面倒でしたら週末にでも直接デートでもかまいませ・・・」

「ああ、気にすんなよな」

呆れた顔の如月葵はもう緑川尊を背に立ち去るところだ。緑川君は器用にぴったり如月葵の後ろをついていきつつ絡もうとする。


「ただ俺もですねやられっぱなしじゃなくて。じつはですね、俺もできるんすよ。魔装ができ・・」

緑川はグレーの魔晶石を胸ポケットから取り出しかけた瞬間、後ろから声が聞こえた。


「葵ちゃーん、葵ちゃーん」

ぜえぜえ言いながらショートカットで金髪赤いカチューシャを付けた子が走ってくる。


「葵ちゃーん探したの。鞄、鞄、鞄忘れていっちゃうんだもの。・・・なにこれ?なんなの?」

「ああ、後ろの席の秋元未来あきもとみく?だっけ?持ってきてくれたのか?サンキュ」


目を見開いている秋元未来と呼ばれた女子は周りの惨状をみてさらに声を失っている。

「・・・うわ、これ軽~く交通事故現場なの。何人か倒れてるの、うわーこの学校の人ってこうやって地面の栄養を取って生きているものなの?葵ちゃん?召喚士ってすごいのなの」

おそるおそるイグアナンオブジェクトに近づいていく秋元未来は地面に頭から突き刺さっているイグアナン白川の右足を指で触るか迷っている。

「ああ?多分な」


口を丸く尖らせて緑川尊も二人を見て同じく声を失っている。

「・・・こっちの子もレベルたっけー。・・・あの可憐な金髪ショートのお嬢ぉさま、如月姐さんのお友達ですよね?よね?よね?お名前をお教えくださいっす。わたしは、はい!そうなんす。いつでもあなたがたのために全力で駆け付け、なんでもやります。できます。あなたの学校の便利屋!1年C組、緑川尊でございます。それにつきましてはぜひ連絡先かIDを交換させて頂きたく・・・」

「葵ちゃん、危ないの、寮に帰ろうよなの。葵ちゃん。今日ねあたしたちの女子寮で1年生歓迎パーティーなの」

「葵ちゃん、葵ちゃんてな、おめえ今日あたしと初対面だろ。なれなれしんだよ」

「じゃああたしの事は未来ちゃんって呼んでなの。寮のお部屋もお隣通しなの?知ってたでしょ?明日から朝一緒に登校しようよ。それより歓迎パーティ送れちゃうの、はやくいこ~よ~」

「だー!腕を組むな秋元未来!そうじゃなくってだな」


「葵ちゃん、変な形に寝てる人って突然起きて殴りかかってくるって。おばあちゃんにに聞いたことあるの。すぐにここから離れたほうがいいの。ねえ。葵ちゃんてば。パーティなの~」

「女子寮のパーテーすか!それは聞き捨てならないっす。わたくしも関係者としてぜひパーテーご参加を検討いただけますとうれしいっす・・・」

茶髪をかき上げて緑川尊はキランと歯が煌いている。


痛い同級生をチラッとみつつ秋元未来は「葵ちゃん、最近は変な人多いから、暗くなると人さらいがでるっておばあちゃんが言ってたの」

「パーティならとりあえず今晩のメシはこまんねえか。そうだな。じゃあとりあえず行くか未来」葵はさっさと歩きだす。


「うんうん、そっちじゃないの、逆方向ですなの。葵ちゃん」

「女子寮ってこの方向だろ?」

軽く首を振りつつ秋元未来の指は逆方向をさしている。


「こっちなの・・・葵ちゃんってさっきも思ったんだけどぉ?」

「なんだよ」

「なんでもないの。いこ。葵ちゃん」

二人は緑川君を残して無視して誰もいないかのように足早に去っていく。

「え~連れていってもらえないんすね。女子寮じゃ仕方ないっす、まあ仕方ないっす。・・・あの~まったねえ~~~えへ~。腕なんか組んじゃってダブル超かわいいっすね。秘密の花園いってみたいっす」

ほっぺを真っ赤にしつつ緑川尊は2人に手を振り振りしている。

「おい未来、腕組むなよ」

二人が緑川尊の視界から消えるころ。

「如月葵姐さんに秋元未来ちゃんか。すっげえ、今日は人生最高の日っす・・・。」


―――ドサッ!!


ビクッととなった緑川尊の真後ろに何か落ちてきた。手越先輩か下池先輩のどちらかが木の枝から落ちてきたようだ。

「げ!!やばいっす、忘れてた。逃げるっす!」


・・・それにしても如月葵・・・上手に誰かが誘導しないと・・・いずれ西園寺桔梗とも出会うだろう。

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