2章メイドは唐突に 11

 宮城に帰り、顛末を報告されたトールは「そうか」とだけ言ってムランを下がらせ、自室へと帰っていった。


 淡白な反応ではあったが内心は息子達の所業を褒めてやりたいとさえ思えるほどに喜んでいる。


 確かにダランからの『特別な配慮』は欲しいものであった。


だが彼は領主である前に一人の武人であり、侮蔑を受けてまで哀れみを受けようなどとは到底思ってはいなかったのだ。


 ただ招かれた礼儀として息子を派遣させたに過ぎない。 


 逆に息子が媚びへつらってダランから褒美を受けて帰ってきてたなら叱り飛ばすつもりですらあった。


 だが息子は彼の密かな期待を裏切らず、グラン家の面貌を保って帰還したばかりか、高慢ちきな大貴族を張り倒してなおかつそれを悪びれず堂々と自分に言ってきたのだ。


しかも何かあったら自ら責任を取るとまで言い切った。


 息子の後ろに控えるメイドは恐縮しきっていはいたが、決して主の行動になんら悪い感情など抱いておらず、熱っぽい尊敬の情すら見せてくれていた。

 

 どうにも頼りないと思っていたが…あやつも成長しているのだな。


 まだまだ若造ではあるが少なくとも人の上に立つことの意味を理解してくれていたのだ。 


こんな喜ばしいことは無い。


 自室に戻ると彼はそっと部屋の奥に飾ってある肖像画の前に立つ。


 肖像画には椅子に座った黒髪の女性が描かれていて、温和そうでとても美しい姿であった。


その表面を無骨な指でそっと撫でると、


「スメイラよ…我らが息子は着実に育ってるぞ、我らの望んだようにな」


 威厳と慈しみの込められた声は静かに室内で吸い込まれていく。


 そしてトールはそっと戸棚を空けると彼自身の秘蔵の酒を杯に注ぎ、一つを絵の前に置き、もう一つをグイっと飲みほす。


 そしてもう我慢が出来なくなったのか豪放に大きく笑声をあげるのだった。

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