第二十話~生贄の少女と悪魔2~

 俺たちは、微かに光る道しるべを頼りに永遠の森を目指していた。

 あそこにはきっとティーナがいる。そして、ティーナをかどわかした悪魔も一緒にいることだろう。

 この後どうなるかなんてよく分からない。だからこそ、今できることをやっていこうと思っている。

 この光る道しるべに沿っていると、顔のない化け物が俺たちを襲うことはなかった。


「あの化け物が襲ってこない今、進めるだけ進んでおこう」


「ええそうね、早く、ティーナの元に行かないと」


 俺たちは二人そろって走る。

 道しるべの通りに走っていても化け物たちとは遭遇する。

 だけどあいつらは、こちらに顔を向けて笑うだけ笑った後、風に吹かれた砂のように消えていった。

 化け物たちが何をしたいのか、最初は分からなかったけど、今ならよく分かる。

 夜中に闊歩する得体のしれない化け物が人の恐怖の象徴になるなんて、そんなに時間のかからないことだった。

 そんな化け物が俺の目の前で消えている、もしくは俺が消したかのように見えているとしたら、恐怖から救済した救世主とでもいえるべき存在と見えてしまうことだろう。


 やっぱり、得体のしれない何かの仕業か。

 唯奈の時もそうだった。あいつは関係のない命を巻き込んでやがる。


「っち、なんかおちょくられているような気分になってくる」


「もしかしたら、それが狙いなのかもしれない」


「どういうことだ?」


「私も専門家じゃないから詳しくは知らないけど、悪魔は人間の魂を食事にするのではなく、人間の負の感情を食べて生きているらしいの。悪魔の中には人を食べるものもいるらしいけど、基本的に悪魔と呼ばれる部類は、人の嫌がらせをしたり、盗みを働いた時に出る嫌だなという気持ちを食べて生きている。 私たちにさりげない嫌がらせをすれば、その悪魔の好物である悪感情が出てくるのではないのかしら」


 うーん、そういうことも考えられるか。

 だとしたら、得体のしれない何かがかかわっているのは、俺の思い違いかもしれない。

 確証が持てない以上、考えるのも無駄だ。俺は何も考えず、ただ助けたいという想いだけで行動すると決めた。


 俺たちはひたすらに走ると、永遠の森の入り口にたどり着いた。

 きっとこの森の奥に悪魔と呼ばれる者がいるのだろう。

 だけど現在の時刻から考えて、森に入るのは自殺行為だ。

 しかも、悪魔のしもべの敵が現れないとも限らない。

 出来るだけ明かりを消したほうがいいのかもしれない。

 あれもだめ、これもだめで考えていると、いつまでたっても終わらない、そんな悪循環にはまっていると気が付いた。

 俺は敵が来ても抵抗できるように、武器を構える。あと、悪魔が襲ってきたときのために、聖水をすぐに取り出せるようにしておく。これで準備万全だ。


「ミーナ、準備はいいか」


「私は大丈夫。夜だから分からないけど、森の入り口付近はそこまで危ないのは出ないから、安心して。あと、火は絶対に消しちゃだめよ」


「それはどうしてだ」


「魔物っていうのは夜行性が多いの。少しでも明かりがあれば、こちらを視認できる目を持っている種も多い。あと、夜行性の魔物は大抵鼻がいいから、明かりを消して自分の視覚をつぶすのはもったいないわよ」


「でも、火を持っていて襲われたりしないのか」


「獣は基本的に火を恐れるの。敵から発見されやすくなる可能性はあるかもしれないけど、しょせん相手は知恵無き獣。こちらが万全に戦えるほうがいいわ」


「了解した」


 ここは獣の専門家の判断に従うとしよう。俺が素人だということもあるけど、そもそも俺はこの世界に来てまだ一度も戦ったことがない。だから俺がちゃんと戦えるのだろうかという不安もある。

 でも、初めてというのはしょせんそんなものだ。

 今考えるべきはティーナを助けること。怖いで逃げるは許されない。


「よし、行こう」


「ええ」


 俺とミーナは森の中に入っていく。入ってすぐに、黒い毛並みをしたイノシシが襲ってきた。

 ミーナが言うにはあれも魔物らしい。悪魔の部下らしきあの化け物のほうがよっぽど魔物っぽかった。

 襲ってきたイノシシ型の魔物は迷わず俺に突進をしかけてくる。

 俺は襲われたという事実を認識した途端、不安と恐怖を感じたのか体が硬直してしまう。

 怖い、だけど今はティーナを探し出して連れ帰ることの方が重要なんだ。

 そう思ったら、俺の体が無意識に動き出した。

 イノシシの突進を避けながら、持っていた剣で切りつけた。

 イノシシ型の魔物は引き裂かれながらも突進の勢いは止まらず、そのままどこかに消えていった。

 何だこれ、一体何が起こった。

 まるで自分が自分じゃないようだった。体が勝手に動いて適切な対応をとる。もしかしたら、これが得体のしれない何かが言っていた祝福なのかもしれない。


 襲ってきた魔物はイノシシ型だけではない。狼型、シカ型、ゴブリン型、ウサギ型、多種多様の魔物が襲ってくる。

 俺はイノシシ型の魔物を倒したときの感覚に身を任せて戦った。


「おお、やるね」


「まあな」


 なんて恰好つけてはいるのだが、ゲームのオートバトルのように身を任せているだけだ。ばれたらどうしようと、ちょっとだけ思っている。

 まともに戦っていないけど、自分の力なんだ。これでティーナを助けられるとしたら安いものだろう。

 それに、この戦いは、ある意味で唯奈を助けることにつながっていると思っている。

 あの得体のしれない何かが仕掛けている、信仰を広めるためのデモンストレーション。

 この出来事をきっかけに、信仰を広めることが出来るはずだ。

 それに、今はミーナが見ている。無様な真似は見せられない。

 魔物が怖いという気持ちはあるけど、それでも助けたい人がいるという気持ちの方が強かった。

 だから俺は戦うことが出来た。


「奏太、あんまり無理しないで」


「これぐらいなら大丈夫だ。それよりミーナは」


「私はある程度慣れている。獣の突然変異種だとしても、攻撃パターンが変わるわけじゃない。殺傷能力や力が変わるだけよ。これぐらいなら大丈夫だわ」


「よし、大丈夫ならこのまま進むぞっ」


「わかったわ」


 永遠の森を進んでいると、木々がひらけた場所にたどり着いた。そこには一軒の家が建っている。

 その家の前に、ティーナがいた。ティーナはその家の中に入って消えていく。

 俺たちはティーナの後を追っていった。

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