第十八話~カルディナ村4~

ーーールーディア王国 カルディナ村


 なんか納得できない話がいくつかあったが、状況は把握した。

 永遠の森から魔物が湧き出したと同時に、カルディナ村には悪魔と自称する得体のしれない男が現れた。

 男は、いくつかの条件を飲めば、村の安全を保障するという契約を持ち掛けてきた。

 この村の人々は、その条件を守ることで、魔物から襲われなくなった。

 その条件とは。


 一つ、夜中に外を出歩かない。

 二つ、村の外との関わりを絶つこと。

 三つ、満月の夜の日に生贄を差し出すこと。


 これさえ守っておけば、命は助かるし、安全に暮らすことも可能となる。

 逆に守れなかったものには、残虐な死が待っているという訳か。


 人生、都合のいいように進まないことを知っている俺は、今の状況が不気味に思える。

 まるで、ゲームの中にでもいるかのようだ。

 いくつかのフラグを回収した後に訪れるイベント。俺はそのイベントシーンに突入したような気分になっている。

 俺の予想だと、悪魔と自称する男が、今回のボスだろうと思った。

 もしゲームなら、ボス戦前に何かしらのイベントが起こりそうだ。

 そこでふと思いつく。

 そういえば、誰が生贄になるのだろうか。


「ティーナ、一つ聞いていいか」


「はい、なんですか?」


「誰が生贄になるんだ」


「あ、私も思った。個人的には凄く許したくない外道の行為だと思うけど……」


「え、えーっと」


 ティーナは俺たちから顔を逸らした。目が泳いでいて、とてもいいずらそうにしていた。

 突然、「さて、この話は終わりにして御飯にしましょう」と言い出したが、ミーナが話を終わらせてくれなかった。

 肩をがっちりと掴まれて、ミーナとティーナは見つめあう。


「ねぇ、ティーナ。正直に話して」


「う、うん」


 ミーナの真剣なまなざしに、ティーナが折れた。ちょっとばかし強く掴まれたからだろう、掴まれた場所を擦りながら痛そうな表情をしていた。

 だけど、ミーナの行動を咎める気にはなれない。だって、ティーナはミーナにとって大切な家族だ。もし、家族が生贄にされたら、彼女はたった一人取り残されてしまう。

 女性関係のトラブルで、俺は経験したことがある。俺の場合は大切な友達が、俺にまとわりつく女性たちのせいで生死の境を彷徨うことになった。

 死んではいないが、それでもすごく胸が苦しくなったのを今でも覚えている。

 ミーナの姿は、友達を失いかけた、かつての俺とそっくりに思えた。

 俺とミーナの顔を見比べたティーナは、諦めたように語り始めた。


「生贄に選ばれたのは…………三丁目のクレティマちゃんです」


「…………だれ?」


「お姉ちゃんの知らない子。ずっと死んだように眠っていたから村の人のほとんどが知らないよ」


「へぇ、そんな子いたんだ、知らなかった」


 俺は、ティーナの話が若干嘘っぽいと感じた。でも、嘘だと断定できないので黙っていることにした。

 今更感はあるけども、憶測で話を中断させたくないと思った。

 そういった思いで黙っていたのだが、気が付けばティーナとミーナの話し合いが激しくなっていった。

 悪魔がどんな人間を生贄にするのかなんて言っていない以上、ずっと眠ったままの人を生贄に捧げるという選択肢は、村全体として考えてありなのかもしれない。

 だけどやっぱり、誰かの命を無理やり終わらせて生き永らえるのはなんか間違っている、そういった討論が繰り広げられている。


「そういえば、満月の夜に生贄を差し出すんだよな。それっていつだ?」


 ふと思ったことをそのまま口にする。

 すると、討論していたティーナとミーナが俺のいるほうに向きなおり、静かに見つめてきた。


「えっと、三日後ですよ」


 そう言って、ティーナは目をそらした。きっと嘘をついているのだろう。なぜ、嘘をついているのかわからない。

 だけど、ひどいことにはならないだろうと楽観視した。大丈夫、大丈夫。


「今日はもう外には出れないし、これからご飯を準備しますよ」


「俺は手伝わないぞ」


 料理を一緒にしてしまったら、間違って触れてしまうかもしれないだろ。だって台所狭いもん。

 そう思っての発言だったのだが、ティーナは、何を感じたのか、こちらを半目で睨んできた。

 きっと自堕落なダメ人間をだとでも思っているのだろう。

 そんなティーナをミーナは台所に連れて行った。色々と俺のことを教えてくれていることだろう。

 ダメ人間じゃない。女性がダメなんだ。正直今も吐き気がする。

 俺は今日一日生きていることが出来るのだろうか。

 若干不安だ。


 それから数分立った後、おいしそうな料理が並べられる。とてもいい匂いがして、おなかがなってしまった。

 ちょっぴり恥ずかしいと思いつつ、二人を見つめ、吐き気を感じた。

 相変わらずの体質に涙が出そうになる。

 ティーナは相変わらずジト目で俺のことを見つめている。ミーナが説明してくれたんじゃないのだろうか。

 何か気まずい感じになったので、出されたスープをスプーンですくって飲んだ。

 野菜のうまみが凝縮されたスープは、体をとても温めてくれる。とってもおいしい。

 おいしいスープで気を紛らわせていると、ティーナがとんでもないことを口走った。


「ねえ、奏太さん。もしかして、男が好きなの」


「ぶふぅ」


 思わずスープを噴き出す。ミーナに少しかかり、汚いと怒られた。

 ちょっとまて、どうしてそういう話になるのかな。きっとミーナが何かを言ったのだろうけど、それはない。

 どういう説明をしたらそういう話になるんだよ。


「お姉ちゃんから聞いたんだけど、奏太さんって、女の子と話すと気持ち悪くなって、触れると蕁麻疹がでて気絶するんでしょう。

 だけど男の人の前に出ると、ドキドキして、顔を赤らめて、緊張でうつむいてしまうんでしょう。これって、恋?」


「絶対に違うから。ミーナ、一体何を教えたんだっ!」


「え、言葉の通りだけど」


 え、本当に何を教えたんだろう。さっきまで不穏なことを一体考えていたけど、全部忘れちゃったよ。


 この後俺はめちゃくちゃいいわけをした。なんとか男好きという不名誉は回避できたけど、女嫌いで男もなしっていったい誰を好きになるのという、不思議な質問をされてとても困った。

 何とか話を逸らすことに成功したわけだが、そらした先が、先ほどまで話していた悪魔と生贄についてにしてしまったことをちょっとだけ後悔した。

 ミーナは、日が出たら村長に会いに行くと言い出したのだ。

 もちろん、悪魔との契約、生贄について抗議しに行くようだ。

 なんだかんだで正義感の強いミーナは今回のやり方をよく思っていない。

 そんなミーナをティーナは必死に止めた。

 話は結局泥沼化して、終わらずに食事が終わり、就寝する時間となった。


 真夜中に、突然目が覚めた。

 なんだろうか、嫌な予感を感じた。

 リビングに進み、水を飲んでいると、ミーナがやってきた。


「ねぇ奏太、ティーナがいないのっ!」


 俺たちの元から、ティーナが姿を消した。

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