undefined、謎の男と『待ち合わせ場所を決めて何百年』

よくは覚えていないけれど、誰か、優しい声の男の人と海で会おうって約束をしたの。ううん、もしかしたら一緒に海に行こうとか、海に連れて行ってあげるとか、そんなだったかもしれない。忘れられないのはその人の声と海という場所だけ。どうしてそんな約束をしたのかもわからないわ。


一面の海。もはや世界のどこにも陸はないから逆にどこで待っていればいいのか迷子。それでもいつかあなたは「お待たせ」って笑って私の頭をなでてくれる。


音のない場所。光が反射して灼ける。水の中に潜れば涙の音が響く。あなたはどうして私を海に誘ったの。海底に佇むかつての街並み。


みんながあたりまえに持っていて、私にはなかった「いのちの終わり」。神様に「どうして」って聞いてみたわ。


強すぎる想いは呪いになるんですって。私が死にたいって思う以上にあなたは生かしたいと願ったの。拗れてしまった呪いは誰にも解くことができなくて、何度世界が終わっても繰り返す。お伽噺。


いのちがちっぽけなうちに、普通に死んで理の輪にまきこまれていればそれでよかったのに。あなたは私の笑顔にこだわり、幸せにこだわり、生きのびることにこだわったの。「どうして」って聞いてやるの。


どんな答えだとしても馬鹿らしい。意味なんてないのよ。


あなたが困った顔をした時、やっと私は笑える気がするの。


価値観の殴り合いを制するの。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る