第4話 こじらせ過ぎ

やれやれと気だるそうに首を鳴らす。

今日もやっと学校が終わった。帰りのHRでの先生の話を聞き流し、ぼんやりと窓の外を眺める。眺めるといえども眺めているように見えるだけで実の所頭を窓の外に向けているだけで何も見てはいない。起立!と活きのいい声がかかりクラス中が同じ動作で場を締める。俺は手早く荷物をまとめ家に帰る。背中に背負うリュックは異常に重い。なぜなら、前日の準備をするのが面倒なので全ての教科書類をリュックに詰め込んでいるからだ。非効率のようにも思われがちだが存外この手法は役に立つ。前日に準備する時間が短縮されるし、うっかりして忘れ物をしたなんてことも当然ないのだから、このリュックこそが学生諸君のあるべきリュックサックだと言えるだろう。ま、その効率性を手に入れるためには総重量に耐え兼ねる強靭な肉体とリュックが必要なのだが。ということはだ、こう言い換えることも出来るであろう...この手法は俺のように強靭な肉体と冴え渡る頭脳を併せ持つ者だけが許される手法であるのだと。そんな事を頭の中でひとりでに語りながら席をたち教室をあとにする。

周りでは放課後の予定を聞き合ったり、遊びに誘ったりとまったく煩わしいこと山の如しだが、まぁ、羽虫の雑音とでも思っておけばいいだろう気にすることはない。


「ねぇ、ねぇ、芥川君」


「ん?何だ羽虫。羽虫の癖に言葉を聞けるとはこれはこれは面白い。」

...ヤラカシタ。俺に羽虫と言われたのが男ならまだしもあろう事かパーリーなピーポーのJとKだった。見てみろ彼女の顔を、思わぬ返答に放心状態ではないか。それに、彼女の後ろに控える some party peopleが一斉にこちらを向くものだから嫌な汗をかいた。そんなんだから友達が出来ないのだと言われても仕方ないだろう甘んじて受け入れようではないか。しかしだ、一つだけ言われせてもらうなら俺だけが本当に悪いのか?今のは話しかけてきた方にも非があるのではなかろうか?誰が一体全体周りに飛ぶ羽虫が言葉を発すると思う?これは俺だけのせいではない話しかけてきた方も悪いのだ。などと考えながらその場に立ち尽くす。


「えっと、その...羽虫ってちょっと酷くない?芥川君。」

幸いなことに俺とのコミュニケーションを諦めた訳では無いらしい。しかしながら、その後ろに控える集団の目が痛い。あそこまでの冷めた目は生まれて初めて見たかもしれない。


「ふっははははは、冗談に決まっているだろう?」と、俺は痛みに耐えながら少し大袈裟に誤魔化した。


「そ、そう...」少し気圧されながらも苦笑してなお友好的に接しようとしている。


「あ、そう!それでね。今日の放課後遊びに行かない?」と、放心状態から自分を取り戻し当初の目的を果たした。


...ん?

この女今なんと言った? 遊びに行かない?だと?待て待て待て待て待て!何故どうしてなんのために俺のような人種の人間を遊びに誘う必要がある。いやいや、あるはずがない。恐らくこいつらは俺に遊びで使う金を払わせようとしているだけだ。よくよく、考えてみるとこの女は遊びに行かない?と言ったのだ、一緒に遊ぼう?ではなく。つまり、遊びに行かない?=一緒に遊ぼうでは無いのだ。まったく、何たる侮辱か。己が欲求の為ならば他人を不幸を厭わないその態度、羽虫と呼ばれて当然の行いだろう。やれやれ、こんな羽虫共に要らぬ時間を取られてしまったようだ。さて、ここまでで俺の出した答えは…


「いや、辞めておこう。貴様らの手中でおどるつもりは更々ないのでな。」

と、短く伝えその場を去った。ふっ、危うく外道共の策にはまるところであったな、等と頭の中で捨て台詞をはく。やけに大衆の視線が俺に集まったがその視線を何故か心地よかった。恐らく大衆はこう考えているのだろう。

あの少年はなんと勇敢なのか!我らを導く賢者だ!なんて素敵な勇者様なの!等など彼らの表情から痛いほど読み取れる。と、下校中自分が凱旋でもしているかのような気分で学校をあとにした。


学校を出て15分歩けば駅がある。その駅の周りにはコンビニやら本屋やらが並んでいるが今のところそれらに用はない。改札を抜けホームに入ると海風がいた。


「あ、」とお互いに目が合ったがなんと声をかけていいのかわからない。こいつは一週間前から俺の家に居候している俺の親戚だ。一週間経ったとはいえ中々心の距離は近づかない。国木田海風、中二病である。黒髪ツインテールにサファイアのような碧眼、異世界ファンタジーに出てくる妖精のような美しい顔立ち。そして、中学生とは思えないほどの発育の良い胸。その美貌はしかと母のそれを受け継いでいるのだろう。しかしながら、国木田海風は中二病である。


「はぁ、残念極まりないな。」


「なっ!なにがだ!妾の何が残念なのだ!!」と、思わず口に出てしまった俺の感想を海風が敏感に拾う。こいつ、もしや自分が残念であると自覚があるのでは?


「やれやれ、付き合ってられんな人間。」

呆れたように肩を竦め、調子を取り戻したようにそう言った、海風はそこで何かを思い出したようであった。俺に向かって不敵に微笑む海風、さながら中ボスの魔女のようであった。


「そうそう、人間よお前はかなり学校で有名らしいな?」


「ん?それは一体全体どういうことだ?」

「かっかか、知らぬのか。愚かで哀れな人間よのぉ」

とニヒルを決め込みつつ、スマホをチラつかせる


「お主は先程一人の人間の娘からの断っただろう?その人間の娘がお前は知らんかったであろうがこの学校ではかなりの有名人でな、異性からも人気があるそうじゃ」


「ふむ、あの羽虫がか、あまり顔とかは覚えてないが確かに最後まで俺に対して友好的であろうとした態度は感心したな。そういうのが異性にモテたりする要因になり得るのであろうか…」


「は、羽虫とはお前...あまり、学校でその呼び方はやめた方がよいぞ?今後の為に...」


「ん?はなはだ理解出来ぬな、何故だ?」


「かっかっ、教えてやろう。それはな、その娘が異性からの人気であるだけでなく、同性からの人気も非常に高いからじゃ、故にお前はこれから学校で、その娘から誘われたことに対する男共の嫉妬とその誘いを断ったことに対する女共からの嫌悪の両方に板挟みになるであろうな。」


「なるほど、まったくもって面倒なことになったな。まぁいい、どうせ友達の1人もできる雰囲気ではなかったしな。最終的には史華とお前がいる。」


...しばらくの沈黙の後、急に海風の顔が赤くなり

「な!な、なんで、なんでそん、そんなことになるのだ!お、お前と妾は友人になどなったつもりは無い...」と続けた。


「ん?何故だ?まぁー確かに今は友達でなくともこれから衣食住を長く共にするんだ自然と仲は深まるのではないか?」


「ま...まぁ...そうとも...言える」

と何かを落ち着かないようにもじもじとする海風。その理由が分からなかったがとりあえず納得したようではあった。しかしどうだろうな、高校生活中に出来た友人が実の妹と親戚だけとは何だか虚しいやら悲しいやら。やはり、ここは...隣○部を...いやいや辞めておくべきだな。さすがに友達作りをするために人生を終わらせるつもりはない。と、思案する間に電車が来たので二人とも乗り込んだ。

登校時よりは乗客はいるものの、座れないことはなかった。俺はいつもの席に座り海風は俺と対角線上の1番離れた...ではなく、何故か隣に来た。俺のパーソナルスペースが侵略されてはいるが先程友達とった手前拒むことは難しかった。しかし、不思議なことに違和感はなかった、というのも、毎朝同じ様な距離感で妹と座っているからである。海風と史華は海風の方が背は高いがそれも中学生の話である。高校生になった俺からすると二人共体型的にはあまり変わらない(胸以外は)。することも無いので、俺は海風にきょう学校であった話をした。羽虫の話ではない。俺に勇気をだして話しかけてくれたあの眼鏡をかけた少女の話だ。


「なぁ、人間よ。お前はきづいてないようじゃが、それはお前の初の友人を作るチャンスだったのではないか?」と、呆れ気味に言う海風。お互いに向き合ってはなく目の前の次々と流れる景色を眺めていた。


「確かに...まったくその通りだな。」

と、感心したように言ったものの実際興味はなかった。終わった話であるし、もし、向こうが友達になれるチャンスだったとしても1度あったのだから2度目もあるだろう。それに、友達!友達!とガツガツするのもなにか違う気がするのでな。夕日に染まった街並みが次々へと右から左へと流れていく、過ぎ去っていく。時間は過ぎていく一方だ。俺の貴重な青春の1日が、1時間が、1分が、1秒が過ぎ去って消えていく。俺はこれでいいのだろうか、自問をしてみるのだが答えは当然ながらでない。

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