ハイチュー関羽3   

このエピソードについては、

魏晋ぎしん期の文官である傅玄ふげんが、

私的メモにこぼれ話を記録してたっす。

そのメモ、後には傅子ふしって呼ばれたっす。


張遼ちょうりょう、慰留任務の失敗を気に病んだっす。

怒った曹操そうそう関羽かんう殺しちゃうんじゃ、

そう心配したんすね。


だいじょーぶだいじょーぶ、

あの男どっちかって言えば

感情よりも陰謀のために人殺す口っす!

……慰めにならんっすね。


ともあれ、はじめ任務失敗を

打ち明けられなかったそうっす。

けど、言わないのは配下としてはアレ。


なので、自分に言い聞かせたっす。


「曹公は我が父、

 関羽は我が兄弟。


 孝の道に照らせば、

 どちらを優先すべきかなど、

 考えるまでもないではないか」


そうして、ついに曹操に打ち明けたっす。

そしたら曹操、感極まったっす。


「君主に仕える、とはどういうことか。

 まさにその大本を忘れていないがゆえだ。

 まさしく天下に鳴らすべき

 義侠心と言えようよ!」


……これ、張遼さん、

どんな顔で聞いてたんすかねえ。

多分、なってたっすよね。無。


張遼さんめっちゃ懊悩してんのに、

曹操のやつガンスルー。

いや、ねーわ。


「……で、お前の見立てだと、

 どんくらいであいつ、

 いなくなっちゃうと思う?」


関羽、どこまでも関羽。

これは同期の桜としても、つらい。


いやまぁ、

傅玄が省略しただけかもっすけど。


ともあれ張遼、答えたっす。


「関羽、公より受けた恩については

 なんだかんだで重んじております。


 そのため、去るとすれば

 大功を立てた後となるでしょう」



……いやー、なんつーか。


関羽が自分になびかないって

承知しときながらも、

その義侠心に感動しちゃうとか。


ぶっちゃけ、

王者としちゃアウトにも程があるっす。


ただまぁ、いち個人としちゃ、

カッケー! って叫ばざるを得ないっす。


いや、繰り返すっすけど、

「いち個人としちゃ」曹操、

マジでカッケーっすよね!




《傅子》曰:遼欲白太祖,恐太祖殺羽,不白,非事君之道,乃歎曰:「公,君父也;羽,兄弟耳。」遂白之。太祖曰:「事君不忘其本,天下義士也。度何時能去?」遼曰:「羽受公恩,必立效報公而後去也。」

臣松之以為曹公知羽不留而心嘉其志,去不遣追以成其義,自非有王霸之度,孰能至於此乎?斯實曹公之休美。


《傅子》に曰く:遼は太祖に白いたるを欲せど、太祖の羽を殺したるを恐れ、白わざれど、君に事うるの道に非ざれば、乃ち歎じて曰く:「公は君父なり。羽は兄弟なるのみ」と。遂には之を白う。太祖は曰く:「君に事うるに其の本を忘れざる、天下の義士なり。度るに何ぞの時に去りたる能わんか?」と。遼は曰く:「羽の受けたる公が恩、必ずや效を立て公に報い、後にて去りたるなり」と。

臣、松之おもえらく、曹公の羽の留まらざるを知りたるも其の志を心に嘉し、去りたるに遣わせ追わしめず、以て其の義を成らしむるは、自ら王霸の度を有せるに非ざれど、孰んぞ能く此に於いて至らんか? 斯くたるは、實に曹公の休美なり。

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