7 過去 4

 パトカーと制服警官が刑事と鑑識に取って代わった我が家の近隣は今度は、その警察関係者全員がマスコミに取って代わった。

 大量のマスコミがこの竹田町の宅地分譲地に押し寄せた。もちろん警察が設けた規制線の外からの取材だったが、容赦がないという意味では、矢部翔一やべしょういち、県警、マスコミと我が家以外は全員容赦なかった。

 我が家といっても、もう母と私しかいなかったが。

 姉の遺体は、検死解剖に回され、母と私はもなく、姉と父の大きな血溜まりが残る我が家へとすごすごと帰った。

 犯罪被害者は命を奪われたあと、その人としての尊厳、プライバシーも奪われる。

 家に帰ると、姉の部屋のものはほとんど警察によって持ち出され運び出されていた。

 容疑者宅が捜索令状の元いろいろ運び出されるのはニュースなどで知っていたが、完全な被害者の姉の私物が持ち出されるのは母と私の同意の上とはいえ、容赦がないとは、このことだった。

 母はともかく、私にとっては、憧れの正に神聖な存在だった姉の持ち物だ。姉は平気で私の部屋に入り私の漫画などを持ち出して読んでいたが、私は姉の部屋に無断で入ったことが一度もないとは言わないが、姉の部屋に勝手に入ることすら憚られた。 ゆえに私は身を切られるように痛かった。

 PCから思い出の品から写真、スマホ、まさに姉のプライバシーそのものがすべて警察のものとなる。


『捜査関係者以外に開示されることは一切ありませんから』

 

 この言葉が何度も母と私の身に降り注ぐ雨のように繰り返された。

 母が、病院で矢部翔一やべしょういちの名前をいくら連呼しようがこれは法的執行機関の権力として行われているようでどうしようもなかった。


 その晩、母と私は文字どおり打ちひしがれて辛うじて鑑識の証拠収集が終わり撤収した夜中すぎに風呂にだけはどうにか入り床についた。家、インフラは整っていたがまさに被災者だった。

 TVは意図的に見なかった。そんな気分ですらなかった。その後の近所の方の話だと、もうその晩の10時、11時のニュースでは姉と父の刺殺は取り扱っていたそうだ。

 そして矢部翔一の名前はふせられていたが、姉の交際者が重要参考人に上がっていて警察が追いかけていることも報道では伝えられていた。

 あれだけ大々的に検問や非常線を張った捜査と捜索を行えば、当然だろう。

 私は高校三年生と若いこともあり、布団に入っても当初は寝返りを何度もうって寝られなかったが、気がついたら疲れもあってか、ぐっすり眠っていた。

 わたしと違い惨劇を目の前で見た母た、果たして眠れたのだろうか?。


 警察が十二分な証拠品を確認し持ち出したあと、規制線が取り払われた。もちろんその外側ではその晩からマスコミによる取材活動が行われていたのだが、マスコミが本当にやいばを抜いて襲いかかってきたのはそれからだった。

 被害者遺族は一応、取材拒否と言えば、守られている。が、取材拒否かどうか連名で訊きに来るし、ペーパーでコメントを出せだの家の前のとおりが通行不能になるほどの騒ぎだ。脚立で家の中まで撮影するカメラマンはいるし、どうしようもない。

 

 私は覚悟を決めた。


 翌日、遅刻だったが、私はきっちり高校には通った。

 重要参考人として矢部翔一の名前は伏せられているが、被害者の名前は堂々とニュースで取り扱われる。隠れようがない。

 近田奈央ちかだなお近田知史ちかだともふみと出るのだ。

 クラスで私がその被害者の弟であり息子だということを気付いていないものはいなかった。

 ましてや、学区内でトップの進学校である。受験の眼の前でかわいそうだと思ってくれる友人も居たが、露骨に遠巻きにして面倒臭そうに私をみるクラスメイトもいた。

 これも至極当然の結果だろう。センター試験まであと一ヶ月強しかないのだ。


 覚悟を決めたのだ。もう私には怖いものがなかった。というか、どうしようもなかったというのが本当のところなのだが。


 どうせ、遅から早かれバレることなのだ。


 姉は私が神聖視しているような女性ではなかった。むしろ逆だったと言える。

 姉の過去のボーイフレンドがまず最初に気付き、矢部翔一が気付き、次いで、警察が気付き、最後にマスコミが気づく。

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