第33話 大阪の陣2

 翌朝。


「マンマァァアアア!!!ボクのお城のお堀が埋められているよおおお!!!」


「おのれ家康!!!外堀だけと言ったのに内堀まで埋め始めおったな!!許せん!!!!者共かかれえええええ!!!!!」


 淀君が下したその出陣の合図は当然真田丸にも下った。


「だから拙者は反対だったのだ。家康との和睦などっ!!!」


「如何いたします幸村様?!!」


「主君を守る為忠義を尽くすのが武士。者共続けえええええ!!!!」


 幸村に率いられ、真っ赤な鎧に身を固めた兵が真田丸より出陣する。しかし。


「悪いが堀の埋め立てを邪魔させるわけにはいかん」


「貴様はっ!!?」


「我が名は奥州仙台伊達政宗。互いの首をかけて真剣勝負をして頂こうか?」


「拙者、甲斐信濃国は真田幸村。一つ問いたい」


「何かな幸村殿?」


「あちらに堀を埋め立てをしている連中がいる。そこには政宗殿の旗があるようだが?」


「別のものに兵を貸している。土木工事が得意というのでな。さて、この政宗と刃を交えてもらおうか?」


「なんだと?たった一人で何ができるというのだ?」


 大勢で政宗に斬りかかろうとする部下を幸村は押しとどめた。


「この青空の下。たった一人でも斬り合いが起きれば戰天女が降りて来よう。さすれば政宗。拙者が一太刀斬りかかれば、お主は文字通り一騎当千の戦力となるであろう?」


「その戦いには周囲の人間。兵士は巻き込まれる。かなり高い確率で。それが嫌なら離れなければならない」


「拙者の部下が堀を埋めている家康方に辿り着くには政宗殿。貴殿たった一人を大きく迂回しなければならないというわけだ」


「そういうことだ。ではどうする?」


「豊臣方の他の兵士同様、拙者の部下を堀を埋め立てている連中に向けて向かわす。もちろん政宗公只一人を大きく迂回させてその上で拙者と勝負を致すか政宗殿?」


「もとい、そのつもりだ」


 幸村が槍を構え、政宗が刀を抜く。すると一人の戦乙女が降りてきた。こちらを攻撃してくる素振りはない。

 戦乙女は瓶と盃を携えていた。


「お二方とも名だたる勇士であるお見受け致しました。そしてこれより決闘をなされるご様子。不肖ながらこの一介の戦乙女に立会人を務めさせて頂かせてもらえますでしょうか?」


 戦乙女はそう願うと、盃に蜜酒を注いだ。


「給仕された酒を飲み、そしてどちらかが命尽きるまで戦う。逃走は許されません。そして、死者の遺体を我らが運びます」


「異存はない」


「元より、この場を引いて逃げる場所などあるはずもない」


 政宗と幸村は渡された盃を飲むと、刃を重ね合わせ始めた。


 堀の埋め立て作業は順調に進んでいた。


「家康方に堀を埋め立てさせるなっ!鉄砲隊構え!!」


 ぱーんぱーん


「いてぇーいてぇーかたをうちぬかれた」


「ようしこのまま攻撃を」


 続けていた豊臣方の兵が空から飛んできた光球、マジックミサイルによって吹き飛ばされる。


「ぐあああああ!!!なんだああ!!??」


「戦天女だっ!!俺達が家康軍を攻撃したから戦天女共が仏の国から降りてきやがったぞっ!!」


「だが戦天女共は敵味方区別なく襲ってくるから当然家康軍にも天女の火砲が振るはず・・・」


 ダアアアアアアアアア!!!!


「ぶさあああああ!!!!なんで我が豊臣勢にだけえええ!!!!????」


「徐福さん!どういうわけか戦天女は俺達を攻撃して来ませんよ?」


 家康方の兵士が徐福に報告する。


「やっぱりな。戦乙女は戦場において兵士の魂を狩り集める。だから」


 徐福はシャベルで土砂を搬入する作業を開始する。家康方の他の兵もまた、持っているのはシャベルある。


「むっ!英雄センサーに反応!!ヴァルハラに行くべき勇士かっ?!!」


 バルキリーが飛来する。


「なんだスコップか。じゃあ兵士じゃないな」


 バルキリーは方向を変えた。


「みんなーーー!!!内堀の埋め立て作業をつづけろおおお!!!!」


「うおおおおおおおーーーーーっぅっっっ!!!!!」


 *


 大阪城を一望できる高台にて弥一は望遠鏡を覗いていた。


「えっと内堀の一部が埋まって大阪城に取りつけるようになったら全軍で攻撃開始っと」


 弥一は徐福の作戦指示書通りに兵士を突撃させる。弥一の号令により、徳川勢の兵士達は一斉に大阪城に向けて進軍を開始した。

 すると、兵士の中から一人、弥一に向けて近づく者がいた。


「申し上げます!家康様に火急のお知らせが・・・」


 お六の方は黙って腰の刀を抜くと、兵士に目がけて振り下ろした。


「はははっ!流石に同じ手は二度目は効かねぇか!!そいつは本物か?偽物か?俺にとってはどっちでもいい!!俺はただ、『皇帝』を殺すだけだ!!!」


「やはりぶるぅたすとやらか。家康様の首、貴様にはくれてやらん」


 お六の方は弥一を守護するようにブルータスとの間に割って入る。


「そいつはどうかな?てめぇの今の剣裁き、俺には止まって見えたぜ?ハエが止まるとはまさにこのことだっ!!!」


「抜かせっ!!」


 浅凪の一刀。だがこれも虚しく空を切る。手元に刀を戻し、相手の攻撃に備える。


「くっ、これはっ!!?」


「はははっ!言ったはずだ!!貴様の攻撃は遅すぎるとな!!!」


 ブルータスはお六の方と弥一を中心に素早く走り始めた。残像が生じ、ブルータスが何人もいるように見える。


「お前達はもはや逃げられん!!この俺から、この俺の短刀から、俺は皇帝を必ず暗殺する男!!それがブルータスだっ!!」


「くそっ、目で追う事は出来ても体がついていかぬ・・・っ!!」


「はははまずは貴様からだ死ねっ!!」


 ブルータスが残像をまといつつお六の方に飛び掛かる。次の瞬間。


「どぐぉっ!!!?」


 鉄板を叩きつけられてブルータスが吹っ飛んだ。


「つい先日の事なんだが、鎧を脱いで戦った事があってな。まぁ少々守りは薄くなるやもしれぬが、貴様のような忍びの者相手に動きをついていかせるにはこうして身軽になった方がよかろう?」


 鎧の留め具を切り、籠手と脛当て。そして下着姿になったお六の方は言う。


「なるほど。鎧を脱いだ分、身軽になれば確かに俺の動きにはついてこれるだろうな。だがそれだけだ。鎧を脱げば確かに身軽になる。だがお前も言ったろう?鎧がないという事はその分守りが薄くなるのだ。俺はまだ切り札が残っている」


 ブルータスを中心に周囲の空間が歪み始めた。石造りの建物内部に、周囲にはナイフを持ったトーガを着た男性達が大間違いる。


(殺せ・・・カエサルを殺せ・・・)


(ローマの富を奪い)


(クレオパトラと共謀し)


(エジプトに盗み渡してしまう)


(我らの敵カエサルを殺せ・・・)


「な、なんだこれは?なんか古代ローマっぽい連中がたくさんいるぞっ!!?」


「俺の奥義:高貴為る暗殺。皇帝カエサルを暗殺した時の元老院議場を一時的に再現する。この元老院議員達も俺の奥義の一部だ。鎧を脱いだのは早計だったな」


「くっ!!」


「全身を滅多切りにしてやるぞっ!カエサルの様に!!シネっ!!!」


 パヒューーーン!!!


 次の瞬間、ブルータスは額から血を流して地面に倒れた。


「なっ??!」


「なーんかさ。このままだとヤバそうだったから援護射撃?ていうのやっちゃったけど。余計な事だったかな?」


 近くの茂みからライフル銃を持った赤い髪の女性が出てきた。


「あんたは?」


「アン・シャーリー。アメリカじゃあちょっとは名前の知れた男装の麗人よ。まぁ16も過ぎるとあっちこっち出てきて流石に美少年、って言い張るには無理があるけどね」


「そうですか。アメリカの英雄のアンさんですか。どうもありがとうございます」


 弥一が礼を言うと、アンは苦笑いをした。


「あたし一応カナダ人なんだけど・・・」


「アンさんは俺達に味方してくれるんですか?」


「もちろんそのつもりできたわよ」


「それは助かります!じゃあさっそく大阪城に向けて」


 グサッ


「・・・えっ?」


 弥一の胸にナイフが突き刺さった。


「言ったはずだ。俺はブルータス。皇帝を殺す男だと」


 地面に伏したまま飛び出しナイフのスイッチを押したのだ。


「貴様っ!!」


 お六の方がトドメの一撃を加えた。


「皇帝を殺した。これは中国の荊軻にはできない偉業、即ち我がローマこそが世界でも最も・・・」


 そう呟いてブルータスは消滅した。


 長槍は優れた武器である。射程、破壊力、どれをとっても刀に劣るものなどない。その気なれば相手に投げつける飛び道具として使う事も出来よう。慎重に相手の剣戟を打ち払い、つまり尽き刺す。それだけで勝負がつく。

 ただし、幸村にはそれをするだけの心理的な余裕がなかった。大阪城内で火の手が上がった。それは大砲の弾が直撃したのではない。油を詰めた樽が、城の中庭に落ちたのだ。狙って落ちたのだ。

 人が死んだら戰乙女が襲ってくるから。だから、徐福は『あえて、被害が出ないよう』最初の攻撃は外すよう仕向けた。

 だが、真田丸は大阪城の外にある。城の一部で火災が発生したように見えただろう。一刻も早く戻らねば。火を消さねば。

 あそこで堀を埋めている連中をなんとかせねば。

 その焦りが政宗ではなく、幸村の心に隙を産んだ。

 軽い痛みを胸に感じた。どうやら致命傷らしい。


「・・・俺は、負けたのか?」


「ああ。そうだ」


 幸村の問いに、政宗は答えた。


「ならば俺の首を持って行け。家康公に進呈すれば、さぞかし沢山の褒美が貰えるであろう」


 満足そうに笑うと、ゆっくりと幸村は倒れた。


「その必要はない」


 そう答えた政宗だが、ふと疑問がよぎり、幸村に尋ねた。


「ぶるうたすとかいう、南蛮人の暗殺者を徳川の陣に送らなかったか?」


「そんな奴は知らん・・・」


 そう答えてから、幸村は息を引き取った。


「終ったようですね。では」


 戦乙女は幸村の亡骸を抱えると、天空高く飛び立っていった。


「幸村がぶるうたすを放ったのでないのならば、誰が家康公に向けて暗殺者を送りつけたのだ?」


 政宗の脳裏にそんな疑問がよぎる。だが今は大阪城を攻め落とす方が先決だろう。彼は踵を返すと仲間と合流し、城攻めに加わることにした。



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