第6話 地図を出そう

「で、こんな辺鄙なところへ何しに来たんだい?」



 席について早々、フリエラさんから何だか楽し気な声音で疑問が飛んできた。それに対してわたしは素直に答える。



「エインヴェルズの街に行こうと思いまして――――」


「ほぅほぅ、街へ行きたいと?面白いことを言うねぇ。街に行きたいにも関わらず、こんな辺鄙な牧場にわざわざやってくるとはお前さん、どんだけ方向音痴さね?」



 口角の釣り上がったような笑顔でそう問い返すフリエラさんの考えがよくわからない。森から街へ向かうにはこの牧場を横切る必要がある。わざわざも何も必然的に寄ることになるのだ。


 それをあたかも意図的にわたしがやってきたような言い振りだ。にも関わらず、方向音痴と言うのだ。意図的にやってきた方向音痴、それはつまり方向音痴ではないという矛盾。わけがわからない。


 首を傾げ、眉根を寄せて、困惑するしかない。フリエラさんが何か勘違いをしているとしか思えない。その勘違いを解くべく説明しようとしたところで――――



「あの――――」


「婆ちゃん、違うんだ。こいつは森から来たらしい」


「はぁ!?」



 いつの間にやら復活していたガジェドさんが代わりに言いたいことを簡潔に述べてくれた。


 それを聞いたフリエラさんは何故だか素っ頓狂な声を上げる。その驚嘆を聞いたガジェドさんは何がツボだったのか、「ブフッ」と吹き出した。



「なんだいなんだいガジェ坊、何がおかしいんだい?」


「いやだって婆ちゃんがそんな声出すなんて珍しいじゃないか。つい」


「後で覚えておくんだねガジェ坊」


「マジかよ……」


「ガジェ坊のせいで話が逸れたじゃないか。それで、それはどこの森だい?」


「精霊の大森林って地図に書いてありました」


「それはどんな地図だい?」


「少し待っててください」



そう告げて、傍に下ろしてあるリュックからお婆ちゃんお手製の簡略地図を取り出した。それをテーブルの上に広げて見せる。



「ふむふむ……」



 さすがは年寄りだ。地図を見せただけで何かが解ったらしい。顎に手を当て、短く頷く。そして、フリエラさんはゆっくりと目を瞑り、考え事を始めたのか、目を瞑ったまま、何度も何度もそれっぽい唸り声をあげるのだった――――


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