第15話 観覧車

「幸哉くん、最後にあれ乗ろう!」

「どれ? あ、観覧車。うん、乗ろう」


 2人は観覧車へ向かった。


 観覧車はそこまで混んでいないが列が出来ていた。


「あ、見てみて! ハートのゴンドラがあるよ! なんだろ?」

「……あ、ハートのゴンドラに乗るとカップルは幸せになるんだって」

「え? そうなの?」

「え、なにが?」

「何がって今言ってた、ハートのゴンドラに乗ると幸せになるっていうの」

「ああ……みたい、だね」

「(あれ? 僕、ハートのゴンドラのことなんて知らないはずなのに……なんで、なんで知ってるんだろ……?)」

「次だね!」

「うん……」


 そして、2人はゴンドラに乗り込んだ。


「すごい! 地面が離れてくね」

「うん」

「(あれ? この観覧車乗ったことある、気がする……誰と来たんだろ?」


 僅かに思い出す記憶が気になる幸哉。

 彩乃に話しかけられても相槌しか打たずにいた。


 そして、観覧車を降り遊園地を後にした2人はバス停に向かった。


 ちょうど良い時間だった為、待たずに乗れたのだった。


 2人は後ろから2番目の席に乗り込んだ。


「楽しかったね」

「うん。楽しかった」

「また行こうね」

「そうだね」


 バスは順調に進み信号が赤から青に切り替わった。


 バスは徐々にスピードを出し交差点に侵入した。


「きゃー!」

「うわっ」


 車内では乗客の悲鳴が響いた。


 それは、突然バスが急ブレーキをかけたことによるものだ。


「急ブレーキ申し訳ございませんでした」


 運転手は謝罪をすると再びバスを発車させた。


 どうやら、信号無視の車がいた為急ブレーキをかけたようだ。


「幸哉くん、大丈夫だった?」

「……うん、大丈夫だよ。ちょっとおでこぶつけちゃったけど……」


 幸哉はぶつけた額を抑えながら彩乃の問いに答えた。


「(前にもバスで事故にあったような……。違うかな?)」


 額をぶつけた衝撃で事故の記憶が戻ろうとしていた。



 幸哉に事故のことを話せないでいた幸恵と晴也。



 とても悲惨な事故だった為、思い出したら話そうと──



 幸哉が怪我した原因は転倒事故と聞かされていた。



「もう、嫌になっちゃうわね」

「そうね。こないだも大きな事故あったばかりですからね」

「トラックと衝突してバスが横転した事故ですよね」

「そうそう、ニュースにもなってたわね」


 幸哉達の後方席からは、以前あったバス横転事故について2人の話し声が聞こえてきた。


「(バス、横転……事故)」

「あの! その……バス横転事故について教えてください」

「え、いいわよ」

「───という事故が3月19日の土曜日にあったのよ」

「……そう、だったんですね。ありがとうございます」



 事故の概要について聞いた幸哉はしばらく俯いていた──



「幸哉くん、次降りるよ。大丈夫?」

「え、あ……うん」


 幸哉は、綾乃からの問いかけに答えるのがやっとだった。



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