第13話 なんで?

「うわぁ、美味しそう。どれにしよっかな?」

「僕はステーキのAセット」

「あたしはオムライス」


 悩む彩乃と直ぐに決まった幸哉と夢乃。


 彩乃と幸哉がソファー席に座り、幸哉の正面に夢乃が座っていた。


「よし決めた! ハンバーグのAセット」


 ようやく彩乃も注文が決まり店員に注文を頼んだのだった。


「中西さん今日はありがとうね」

「「え、いえいえ」」


 幸哉が礼を言うと2人の中西が声を揃えて答えた。


「え? あ、両方とも中西さんか!」


 2人同時に言ったことが面白かったのか幸哉は思いっきり笑っていた。


「お待たせしました。お先にAセットサラダとスープになります」


 店員が持ってきたのはミニサラダとコンソメスープだった。


 それからステーキ、ハンバーグ、オムライスと料理が全て運ばれた。


「ん……美味しい」

「お肉が柔らかい」

「美味しい」


 彩乃、幸哉、夢乃は料理を口に運ぶとそれぞれ感想を言った。


「美味しかった。トイレ行ってくる」


 幸哉はそう言うと席を立った。


「……お姉ちゃん、あたし……幸哉くんが好き……。告白、してもいいかな?」

「……そう、なんた。でも……なんであたしに聞くの?」

「だって……付き合ってたよね? 今は記憶なくして幸哉くん覚えてないみたいだけど……」

「え……。ま、待って……な、なんで知ってるの?」

「ごめん……お姉ちゃんの部屋で写真……見ちゃって……」

「そう……」

「今は2人は付き合ってないんだよね。友達、なんだよね?」

「えっと……」


 彩乃の問いかけに戸惑う夢乃。


 付き合っているか、いないかで聞かれたら付き合ってないのかもしれない……。

 幸哉が記憶喪失になった為友達として今はいる。


 だが、別れ話をした訳でもない。

 なんて答えるのが正解なのか夢乃はわからずにいた。


「お待たせ」

「あ、おかえり」


 そこへ用を済ませた幸哉が戻ってきた。


 その後も幸哉と彩乃の世界は続き夢乃は入れずにいた。


 結局、付き合っていないのかの質問には答えられずにいた。


「幸哉くん、ごめん。お手洗い行ってくるね……」

「いってらしゃい」


 幸哉は一度席を立ち、彩乃を通すとまた座ったのだった。


「……なにか記憶戻ってきた?」

「なにも思い出せない……。けど……」

「けど?」


「すごく楽しいんだ。ずっと家にいることが多かった僕にお母さんが書籍化された本買ってくれて……。そこから小説に夢中になって、彩乃ちゃんにも出会えたし」


「彩乃……?」


 彩乃の名前を聞いた夢乃の脳裏には不安がよぎった。


「うん……僕、彩乃ちゃんが好きみたい……。で、あの……この後、彩乃ちゃん借りてもいいかな?」


 そして、その不安は的中した。


「え……えっと、あ! あたし用事あったの忘れてた。……これお金置いてくから……あとよろしくね」


 夢乃は財布からお金を取り出しテーブルに置いた。


 そして、逃げるようにその場を立ち去った。


「(なんで……なんでよ。あたしは幸哉と2人で本屋に行きたかったのに……。なんで3人なの。な、なんで……2人両思いじゃん)」


 涙は決して流さず……言いたいことは口には出せず。


 夢乃の心の中は悲痛な思いでいっぱいだった。


 夢乃は帰宅するなりベットに倒れ込み気づくと朝を迎えていた。



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