第4話 不安

 ──それから数日後。



「おかけになった電話にお繋ぎできません──」


 夢乃は何度も幸哉に連絡をするが応答はなかった。


「どうしたんだろ? 今までこんなこと無かったのに……」


 夢乃の脳裏には不安がよぎる。


「川上……川上幸哉は休みか」


 次の日学校へ行くも幸哉は学校に来ていなかった。

 普段であれば一緒に登校し、隣の席で授業を受けている。


 だが、夢乃の隣はポッカリと空いたままだ。

 学校を終えた夢乃は学校での配布物を手に幸哉の自宅へ向かった。


「はい」


「あ、あの夢乃です」


「ゆ、夢乃ちゃん……ちょっと待ってて」


 幸哉の自宅に着いた夢乃はインターフォンを押した。

 インターフォンからはいつもより暗い声が聞こえた。


「……お待たせ。来てくれた所ごめんなさい。少し話しましょうか」


「え? ……はい」


 玄関から出てきたのは窶れた幸哉の母、幸恵さちえだった。


 普段は明るく元気な幸恵。

 夢乃と幸哉の家族はとても仲良しで食卓を囲むことを多々あった。


「(え……おばさんどうしたんだろ……。話って……なに? 幸哉に何か……そんなはずない)」


 夢乃の脳裏には嫌なことばかりが浮かんだ。

 それを払い除けるように頭を左右に振った夢乃。


 2人は家から近所にある公園に向かい歩き始めた。


「今日はせっかく来くれたのにごめんなさい……」


 数分の沈黙を破ったのは幸恵だった。


「いえ……」


「あのね、驚かないできいてくれる?」


「はい……」


 公園に着いた2人はベンチに腰掛けた。


 そして、幸恵は話し始めたのだった。


「一昨日あったバスの横転事故は知ってるかしら」


「はい、テレビで見ました」



 バスの横転事故──



 それは、ある春の土曜日交差点内でトラックとバスが衝突しバスが横転した。


 トラックの運転手は即死。

 バスに乗っていた乗客、乗員を含む18名が重軽傷。


 死者2名という大事故が起きた。


「うん、そのバスにね……幸哉も、乗ってたのよ……」


「え……ゆ、幸哉は……」


 幸恵は声を詰まらせ、夢乃の瞳から涙が流れた。


「い、一命は取り留めたわ。だけど……記憶が、事故前の記憶がないのよ」


「……それって、記憶喪失……ってことですか?」


 幸恵の言葉を聞いた夢乃の頭の中は真っ白だ。


「(え、記憶喪失……じゃあ、何も……何も覚えてない、の?)」


「ええ、私たち家族のことも覚えてないわ」


「そ、そんな……」


 夢乃は手で顔を覆いまるで子供のように泣き出した。


 幸恵はそんな夢乃を見守りながらも涙を流していた。




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