例え肉体は無くなっても

この小説をTwitterで見つけた時、私は母親という単語で中年女性を思い浮かべた。次に作中、息子との会話や髪の色で幼い猪名寺乱太郎がそのままシワだけを刻み込んだ姿を、そして最後は優しくて若い母親だった。
私も小学1年生の時に祖父を亡くした。医療ミスによる、C型肝炎だった。「訴訟団に入りませんか?」と後に未亡人となった祖母は誘われたが、なぜだか断ってしまった。
その後、我が家にある農機具が秋の稲刈り時期になると精米機が動き出すのだ。外には誰もいないのに。
妹は語った。「きっと亡くなった祖父が動かしたのだろう」と。
さて、この作品だが主人公には母の幻が見える。私の祖父は決してその姿を見せることはない。この違いはなんだろうかと、私は考えた。
「現実と空想の差だ」と考えて仕舞えばそれで終わるが、きっと主人公の心には母の面影がノリのように張り付いているのだろう。
私にはそう思えてならなかった。

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